スキルについて考えてみる
「ほら!脇が甘い!!」
元竜王のティニエがそう言って、トトの脇腹に木刀を打ち込む。
『ガスンッ!』
「グエッ!」
カエルが轢かれた様なうめき声を上げたのは、言わずもがなトトである。これも最近では見慣れた光景だ。
竜種というのは打たれ強いのか、さっきまで大の字になって転がっていたトトは直ぐさま起き上がって反撃に出る。
しかしいくら反撃しても、ティニエには一撃も当てる事が出来ない。それでもトトの剣術は最初の頃に比べれば幾分マシになったと言える様になってきた。まあ、あくまで幾分と言ったところだが・・・。
それにしても、ティニエは容赦が無い。トトに剣術を教え始めてからと言うものの、一度も木刀でトトの攻撃を受けた事が無いのだ。全て足捌きのみで回避してのける。
少しでも剣術の心得が有る者がこれを見せられたら、自信を無くしてしまうのでは無いだろうか・・・。それほど見事な足捌きだった。
俺はついつい、
「木刀で受けないのか?」
と聞いたのだったが、
「トトの攻撃に木刀を使うまでもありません・・・。」
との事だった・・・。
容赦が無いなあ・・・。ティニエに木刀を使わせる日が来るのは何時になるのやら・・・。そんな事を考えていた。
そんな時フッと、俺のタンクとしての盾捌きでティニエの攻撃を何処まで捌ききれるのかと考えてしまった。
今までの事を考えてみると、レベルにものを言わせた戦術か、エステルによる先制ファイヤーボール攻撃ばかりだった。
ティニエとトトを見てみれば攻守が入れ替わっていた。ティニエが木刀で攻撃をし、トトが必死になってその木刀を自分の木刀で受け止めている。
トトが受け止める事の出来る絶妙な打ち込み加減だった。
「ほら!また同じところで隙が出来る!」
『ドスッ!』
「グヘッ!」
そして振り出しに戻るのだった・・・。
今の俺のレベルであれば、ティニエの本気の一撃を受け止める事は出来るだろう。だが、それだけだ。では連撃にフェイントを織り交ぜた攻撃に対処出来るのか?
本来であればそうなる前にタンクとしてしかるべき処理を行うべきでは無いのか?等など、考え出したらキリが無くなってきた。
何故そんな事を考える様になったかというと、ブリットの連撃が、最大3連撃だと思っていたものが、6連撃までにパワーアップしていたからなのだ。
2日ほど前にいつもの様に、冒険者ギルド魔王領支部から応援要請が入り、魔物討伐にかり出されて言ってきたのだが、そこでブリットに6連撃を見せつけられたのだ。
正直目で追いきれなかった。もし俺にあの6連撃が襲いかかってきたのなら、タンクとしての俺の役割は何処まで果たせるのか?という疑問が浮かんでしまったのだった。
それからと言うものの、チョットした時にその事が頭をよぎる様になってしまうのだ。
今まで女神様補正に頼りすぎて技術が付いて行っていないのでは無いかとも考えられる・・・。
俺がボー・・・とそんな事を考えながら、トトの稽古を見ていると、ブリットから声が掛かってきた。
「ナニ?どうしたの?ボケッとして。ティニエに見とれてもいたの?」
からかい半分に突っ掛かってきた。
ティニエは「え!?」とよそ見をして、こちらを見てきたが、トトの攻撃はきっちり避けている。あの程度では隙にもならないらしい。
「いや何・・・今のワシにブリットの6連撃が受けられるのか?と思っての・・・。」
「ナニを真剣に考えていると思ったらそんな事?あれはタメが必要だから、連撃を打ち込む前に、アンタのシールドバッシュを食らって、お星様にされちゃうわよ。」
「まあ、あくまでそれはたとえ話だがな・・・。今まで女神様補正に頼りすぎた攻撃や防御をしていたんじゃ無いかと思ってな。」
「あ~・・・言いたい事は何となく解る気がする・・・。体が勝手に動くのに身を任せていたから今までそんなに意識してこなかったけど、最近魔物との戦闘が多いからね。」
ブリットも何となく感じていた事のようだった。
すると新米女神のニーニャは、
「あれはあくまでも補助みたいなものだから、その上を目指すなら各自努力して貰わないと・・・。」
そう言ってきた。レベルをカンストして更に突き抜けてしまった状況で今更それを言うのかと突っ込みたくもなったのだが、今まで気にもせず過ごしてきてしまったのは間違いなく自分達の怠慢だろう。
「まあな・・・ニーニャの言う通りだ・・・。もっと効率の良い攻撃や防御があるのでは無いかと思う時がたまにあるんだ・・・。」
俺はそこまで言うとおもむろに立ち上がって庭先に出て行く。
そこには大の字になって転がるトトの姿があった。
「今日はここまでのようじゃな。」
「いや・・・まだやれます・・・。」
「無理をして明日稽古出来なくなってしまっては元もこうも無い。今日は終わりにして風呂にでも入って体をほぐしてこい。」
「・・・はい。ありがとうございました。」
トトは起き上がると、ティニエに向かって礼をし、風呂場へ向かっていった。
最初の頃は10分も保たなかった稽古が今では1時間近く稽古をしている。目覚ましい成長だと言えるだろう。
それに行儀見習いも板に付いてきたようで、敬語も使えるようになってきた。
トトが引っ込むのを確認すると、俺はティニエにチョットした頼み事をしたのだった。
「ティニエ殿、スマンがワシと打ち合いをして貰えんかの?ワシは盾で防御のみを行う。ティニエ殿はそれに打ち込みをしてもらいたい。」
そう言って俺はシールドを引っ張り出した。
「え?今からですか??それは構いませんけど、防御特化の訓練とは珍しいですね。」
「ワシはタンクという職業だからな。敵の攻撃を防いで隙を作り味方に攻撃させやすくするのが本来の役目だ。それが最近疎かになっているような気がしての。ティニエの本気の攻撃を防ぐ事が出来ればワシも自信が付く。」
そこまで言うと、ティニエは先ほどまでの木刀では無く、刃の潰した剣を出してきた。
「では、本気の攻撃と言う事で宜しいですね?」
「ああ。よろしく頼む。」
お互いに礼をし、ティニエは剣を正眼に構え、俺は盾を正面に構えた。
ティニエの攻撃は素早かった。しかし、こちらも女神様補正で盾が攻撃を受け止めていく。ただやはり受け止めてしまうのだ。受け流さない。
これではただ相手の攻撃を止めているだけだ。俺がやりたいのはその先、受け流して相手の体勢を崩す事。
俺は無理矢理意識を切り替え、ティニエの攻撃を受け流して見せた。「出来た!」俺はそう思ったのだが、意図した崩しでは無かった。
もっとハッキリと意識しなければ!そう強く思い、ティニエの攻撃を全て受け流していく。
その内にハッキリとティニエの攻撃を受け流し体勢を崩すイメージが出来るようになってきた。
もう既に何百回とも言える剣撃を受け流し続け、遂にティニエの剣撃を大きく逸らして見せたのだった。ティニエは大きく体勢を崩され次の攻撃の準備に入る事が出来なくなっていた。
その頃には縁側にブリットやエイナル、ヘンリクそれにメイドゴーレム達、風呂から上がったばかりのトトなど、沢山のギャラリーがいたのだが、こちらは全く気付いていなかった。
ティニエは大きく体勢を崩された事に酷く驚いていたが、俺が不敵な笑みを浮かべると、更に厳しい攻撃が仕掛けられるようになってきた。
俺がティニエの攻撃を崩せるのは3回に1回、そらせるのは常に出来るようになった。
最後の仕上げは、意図した方向へ相手を向かせる事が出来るようになるかどうかだ。
俺が狙うのは今し方気が付いた縁側に居るギャラリー達。ティニエの攻撃を逸らしながら徐々にティニエに縁側に背を向かせるように誘導していく。
そして体勢を大きく崩したところでシールドバッシュの体勢に入って寸止めしたのだった。
シールドバッシュの体勢を解くとティニエは、ヘナヘナと座り込んでしまった。息も上がっている。
「お・・・お見事です。最初の内は受け止められているだけでしたのに、途中から受け流しや崩しが入るようになって、思うように攻撃をさせて貰えませんでした・・・。そしてこれがシールドバッシュというものですね。これを受けては後ろの者もひとたまりもありませんね・・・。」
そう言って後ろをチラリと見やる。
そこには柱に隠れたり、伏していたりと体勢は様々だったが、皆回避する気満々だったようだ。
メイドゴーレム達も、回避体勢を取っていたのだから、俺に対する信用の無さが伺えるというものだ。
真ん中には、対応出来なかったトトのみが、一人取り残されていた・・・。
「いやはや、ティニエ殿に相手にして貰って勉強になったわい。これでワシのタンクとしての仕事にも、幅が出来たというものだ。」
「お役に立てて光栄です。しかし、タンクという役職もあながち捨てたものではありませんね・・・。ああも体勢を崩されては反撃に時間が掛かってしまって、大きな隙になってしまいます。」
「とは行っても、ティニエ殿ほどの強者が、この先そうホイホイ出て来るとは思えんわい。」
「「「「「あっ!!!フラグ立てたかも!!!」」」」」
メンバー全員が口を揃えてそう言った。
「あっ!・・・」
やってしまったか!?今までは突っ込みを入れる側だったが、自分がフラグの建設をする側になるとは夢にも思わなかったが、言ってしまった物は仕方が無い。フラグが成立しない事を祈るばかりだ。
「皆も何か出来る事があるかも知れない。特にこの魔王領に来て魔物との戦闘を通じて感じる事も多いんじゃ無いか?それぞれアシスト無しでも出せるスキルを磨いておいて欲しい。」
俺はそう言って、皆にもスキルを磨く事を推奨した。すると早速ブリットはモンブランと剣術の稽古に励むようになった。
エステルとエリックは、裏庭の魔法練習場へ行き、魔法の練習を行うようになった。
エイナルは、パンナコッタとナイフの訓練をとそれぞれ、パートナーで無い者とも専属武器の相性で訓練を始めるようになったのだった。
チョコロールのバトルアックスとエクレアの両手持ち剣のぶつかり合いは見物だった。
余程俺とティニエの攻防に感化されたのだろう。皆今自分が出来る事を意識してくれた事は良い事だと思った。
そんな練習を始めてから一週間ほど経った頃だろうか。キュリーシアから遠話の魔法バッジで連絡が入った。
「急に申し訳ありません。父が皆さんに依頼したい案件があるとの事なので、王城へ来て頂く事は出来ますか?」
こうして、俺達は久しぶりに皆が揃って王城へ向かう事になったのだった。




