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ルステーゼ王国と魔王領が近づく日

 俺達は両親を亡くした、トトとリリを下働きの見習いという名目で、屋敷に住まわせる事を決めた。


 その事を屋敷の女中頭に告げ、後の事を任せる事にしたのだった。


 俺達はそこまでの事を済ませると、キュリーシアに連絡を取り、魔王へ謁見出来るよう計らって貰った。


 用件は、ルステーゼ王国にも在る、4教の布教の許可と孤児への対応だ。理解が得られれば、ルステーゼ王国へ話を持ち込む事になるだろう。


 もう魔王領がこの世界に現れた事は周知の事実になっている。布教が進む事とトトとリリのような孤児がこの魔王領から減る事を祈るばかりだ。


 キュリーシアから連絡があり、すぐにでも会えるとの事だったので、早速王城へ向かった。


「おお!竜の住む山脈での活躍の話は聞いたぞ!しかも、竜王のティニエ殿をを嫁に貰ったとか?」


「いやいや、チョット待ってくれ、ティニエ殿を嫁には貰っとらん。今は屋敷に押しかけられておるがの・・・。」


「しかし、あの身持ちの固かったティニエ殿を籠絡するとは末恐ろしい・・・」


 人の話を聞いて欲しいが、話が勝手に進んで行く・・・。


「止めてくれ・・・竜の住む山脈の一件でもワシだけでは何も役には立たん。ヘンリクとエリックや皆がいたからこそ、解決出来たのだ。それよりも魔王殿に相談があってきたのだが・・・。」


「ワシに相談?ヨーン殿の相談となると余程のものか?」


「いや、そんなに難しいものでは無い。ワシの仲間にも居るが、宗教の布教を認めてもらえんかの?」


「宗教の布教?」


 魔王が訝しげな表情になる。


「そうじゃ。南の国にあるルステーゼ王国でも盛んな宗教なのだが、例えば、大地の神とか、戦の神などの信仰を認めて欲しいと言う事と、その神殿の建設とかかの・・・。」


「そう言う事か・・・宗教は別に構わんぞ?元々この魔王領には土着信仰が盛んだ。そこに加わる分には何の問題も無い。何を信仰するかはその者に委ねているからの。神殿についても、正規の手続きをして貰えれば何も問題ないぞ?」


「それは助かる。早速ルステーゼ王国の、各宗教団体にでも話をしてみるとしよう。」


「その辺はヨーン殿に任せるぞ?」


「それと、親を亡くした子供を預かる施設というのは無いのかの?」


「・・・いや、それは聞いた事が無いな。大体親を亡くすと、親戚などが引き取る風習がこの魔王領にはあるからな・・・何か気になる事でもあったのか?」


「いや・・・実は今回、ワシの屋敷に2人の子供を預かる事になったのだが、聞けば、親戚もおらず、1年近く路上生活をしておったそうだ・・・。そのような子が他にも居るのでは無いかと心配になっての・・・。」


「・・・そうか、そのような事があったのか・・・。わかった。何か対策が取れないか検討してみよう。」


「魔王殿には無理を言って申し訳ない。」


「いやいや、ヨーン殿の頼みだ。このワシでも断れまい!」


 魔王はそう言って笑って見せた。この魔王は本当に気さくな感じの人物だ。


 その後は結婚式には呼んでくれとか、色々とからかわれたが、一通りの世間話を済ませて俺は王城を後にした。


 王城から戻ると、俺は早速ヘンリクに布教の許可を貰った事を使えた。教会の建設などはしかるべき手続きを取るようにすることを忘れずに伝える。


 問題は他の宗教への話だ。正直俺はどうして良いものか解らずにいた。


 こう言う解らないことは冒険者ギルドかな?と安易な発想に思い至り、早速冒険者ギルド魔王領支部へ顔を出す。


 するとそこには見知った人物がいたのだった。


「おっ!ヨーン。久しぶりだな!」


「マーリン!何故、本部ギルドマスターがこっちに来てるんだ!?」


「なんだい?私がこっちに来ちゃマズいことでもあるのかい?」


「イヤ、そんなモンは無いが、あまりに突然でビックリしただけだ。」


「そうかい?私は良くこっちに来させて貰ってたんだがね。」


「なら顔ぐらい見せても良いだろう?」


「まあ、遊びに来てる訳じゃあ無いからね・・・自由時間なんて無いのさ・・・」


 そう言ってマーリンは、ウンザリと言った表情で両手を広げていた。


「マーリンの忙しさは相変わらずか・・・。なら一層の事もっと忙しくさせてやろうかの・・・」


「なんだい藪から棒に!?厄介事なら止めておくれよ!」


「いや・・・ちょうどさっき、魔王と会ってきてな、4教の布教の許可を貰ってきた。魔王領で布教したいって教団があるなら、魔王領で手続きすれば布教出来ると伝えてくれ。」


「え!?それって・・・」


 マーリンが珍しく目を白黒させていた。


「いや~助かった!何処にこの話を持っていけば良いのか、相談しようと思って冒険者ギルド魔王領支部へ顔を出してみれば、ちょうどルステーゼ王国の、冒険者ギルド本部のギルドマスター様がいらっしゃるとは!これも何かのご縁!後はよろしく!」


俺は棒読みでそう言いうと、きびすを返した。が、


 『ガッシッ!!』


と、肩を掴まれ、逃げられなかった・・・。


「ちょ~と、詳しく話を聞かせて貰おうじゃ無いかい?」


 笑顔をこちらに向けているが目が笑っていない・・・。


 そして奥の応接室へ引きずられていった。俺は何かマズいことでもしたのだろうか?そんな不安に駆られたのだった。


「で、何をどうしたら、4教の布教の話になるんだい!?」


「何かいかん事でもしたか?」


「いや、私の方でも、ちょうどその話が持ち上がっていたんだよ。魔王領での4教の布教の話がさ!それを何処に話したら良いものか悩んでいたところに、ヨーンが来て、いともアッサリ解決しやがった!アンタは超能力者か何かかい!?」


「以心伝心?・・・って冗談だ冗談!握り拳をこっちに向けるな!こっちもこっちで色々あったんだ!ワシ等が必要なのは、4教の布教と言うより、その孤児院だったんだ!」


「何でアンタが孤児院に目を向ける必要があるんだい?」


「いやな、ワシ等の屋敷に剣術を習いに良く来る子供が、実は孤児だったんだ。この子供は親を亡くしてからと言うものの、家の無い状態で生活しておった。たまたまウチの屋敷に来た子供だけが孤児とは限るまい。その調査を頼むついでに4教の布教の件も頼んだと言う訳だ。」


「なるほどね・・・偶然にもそれで孤児院に目を付けたって訳かい?」


「そう言う事だ。ただ、魔王にも孤児の件は伝えてある。調査して、何らかの対策はしてくれるそうだったが、時間は掛かるだろうな・・・。」


「まあ、こっちも偶然とは言え4教の布教の目処が立ったんだ。ここはお互い協力しようじゃないか。」


 そう言うと、マーリンはニヤリと笑った。この笑い方をする時は、碌な事が無い・・・。


「・・・協力できることは協力しよう。ただ、出来んモンは出来んぞ?」


「4教への話のつなぎや、こっちへ来る候補者の選定は、出来るだけ早く進めておくから、教会を建てる候補地の斡旋を頼みたい。」


 そのくらいなら、魔王やキュリーシアに頼めば何とかなるか?俺はそう思いこの条件を請け負ったのだった。


「解った。では、そっちの段取りが決まったら、俺に教えてくれ。俺の方でも、ツテを当たってみる。」


 そしてお互い握手をして、ニヤリと笑うのだった・・・。


 まさか4教が魔王領に布教を考えていたのは予想外だったが、結果オーライだ。


 冒険者ギルドを出た俺は、早速キュリーシアに遠話の魔法バッジを使って、連絡を取り、4教の布教の件を伝えたのだった。


 するとキュリーシアは、


「まあ!あの王都にあった教会がこの都にも来るのですね!」


「あそこまで立派なものは暫く先だと思うがの・・・。それでだ、その4教を建てる候補地を見繕っておいて貰いたいんだ。」


「お安いご用ですわ!空いてる土地ならいくらでもありますから!父と相談して候補の土地をいくつかピックアップしておきます。」


「よろしく頼むぞ。」


 王都ルステーゼにあった教会を、イメージしているのであれば、多分それは叶わないと思ったのだが、あえてそこは触れずに、俺はそう言って通話を切ったのだった。



 そしてマーリンと別れてから1週間で、各教会の候補者が決まったと、冒険者ギルドから連絡が入った。


 その頃にはキュリーシアからも候補地を、いくつか多めにピックアップしてくれてあったので、冒険者ギルド魔王領支部で会合をする事になった。


 俺とマーリンは立会人になっていた。そして、魔王領からはキュリーシア、王都ルステーゼからは、これから魔王領で布教する各教会の代表者が出席していた。


 皆、亜人か獣人だったのは、最初の布教には必要最低限の裁量だったのだろう。


「初めまして。わたくしは現魔王の娘キュリーシアと申します。今回教会を建設するに当たり候補地の選定をさせて頂きました。お見知りおきを・・・。」


 キュリーシアがそう挨拶をすると、各教会関係者も自己紹介が行われた。とても和やかなムードだ。


 早速教会を建てる候補地の事について話し合いが行われた。


 しかし、候補地を決める前に1つ伝えておくべき事があった。これは今後の事にも繋がる可能性があったので俺からの忠告としてだった。


「4教の皆には今回、魔王領での布教が許可されたが、この魔王領には既に土着信仰が定着しておる。それを止める様、促す様な行為は控えて頂きたい。この魔王領では、4教が一番新しい宗教である事を自覚して、取り組んで貰えればと思うが、問題ないだろうか?」


「我々も地域に根付いた宗教になれる様精一杯努力させて頂きます。」


 そう、大地の神の教会代表者は言ったのだった。そして、他の代表者もそれに続く様に頷いた。


 候補地には街の中と郊外が用意されていた。


 街の中になると既に碁盤の目のように、張り巡らされた区画の中に、教会を建てなければならず、余裕を持った建物の確保はままならなかった。


 それでも最大限の土地の確保はされている。これもキュリーシアの努力のたまものだ。


 しかし、郊外になると一転、広大な敷地が用意されていた。これはキュリーシアが王都ルステーゼの教会を想像していたからだろう・・・。


 これには協会関係者も大いに頭を悩ませた。決して広くは無いが街中を取るか、広大な敷地を用意された郊外を取るか・・・。


 真っ先に決めたのは大地の神の教会だった。大地の神の教会は、郊外の土地で耕作地の近い場所を選んだのだった。


 続いて、光の神と、商業の神の教会は、街中を選んだ。


 最後まで決まらなかったのは、戦の神の教会だったが、最終的に郊外の広い敷地を選んだようだった。


 最終的な決定を見てみると、どの教会も理に適った選択をしたと言えるのでは無かったのだろうか。


 早速支度金をキュリーシアに預け、教会建設についての話し合いが行われていった。


 ここまで来れば俺のお役も御免だろう。マーリンに目で合図を送ると俺は退席させて貰った。


 席を外し部屋から出た俺の耳にはキュリーシアの「石造りにしないのか?」とか、「予算の関係で・・・」など、予想通りの問答が行われていたのだった。


 孤児院の件もそうだが、今回の事でルステーゼ王国と魔王領がより一層、近しい関係になってくれればと思う。

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