第2話アポロ
朝10時、勇気は校庭に現れた。 久しぶりの歩きでの登校、勇気は月に行けるからかどこか足取りが軽やかだ。
勇気は校庭の真ん中に夏と冬美が居るのを見つけ声をかける。
「2人とも早いね! おはよう! 一緒に月で頑張ろ!」
夏は大きなため息を吐いてだるそうに勇気に視線を向けた。
「言っておくけど、あなた以外の搭乗員は元素覚醒した後もしっかりも訓練受けてる奴らなの。
私達が巻き込んだから悪いとは思ってはいるけどそんな遊びに行く感じで来られても困るんだよね」
長い沈黙の後勇気は口を開いた。
「俺は月に行くのがずっと夢だったし、ピクニック気分ではないつもりだよ。 こんな感じだけど俺は至って真面目で本気だよ」
「そう、なら良いけどせいぜい足を引っ張らないようにね、あなたはせいぜい邪魔をしないようにバイト感覚で月に行けばいいわ」
夏からの言葉で勇気は頭に血が上り、夏に言い返そうとした所を冬美は勇気の体を押さえて制止し声を掛けた。
「夏も素人であるあなたが月に行く事を気遣って言ってる事なのであまり気にしないでね。 不器用なんですよこの子は、でも本当にあまり無理はしないようにしてくださいね」
「わかったよ」
勇気はまだ納得はしてなさそうだが、バイト感覚で行けば緊張も薄れるかなと自分に言い聞かせて前向きに捉えた。
そこからは3人共無言で宇宙船の到着を待っていた。
「来た!!」
夏が突然大きな声で叫ぶ。
「宇宙船が来たわ、この宇宙船は私が製作に関わったのよ、心して乗りなさいよバイト君」
夏は鼻で笑いながら勇気を挑発した。
勇気は夏よりも宇宙船に気がいき、校庭を見渡すが宇宙船らしき乗り物はどこにも見当たらない。
皮肉たっぷりに言葉を返す。
「あれ? 全然宇宙船来ないんだけど、どこにあるの?」
「はぁーーこんな住宅地に宇宙船がそのまま来たらパニックになるに決まってるでしょ」
頭をかかえながら校庭の真ん中に指をさした。
「よーーく校庭を見てなさい」
勇気が目を凝らすと校庭の中心の空間が少し歪んでいるのに気づいた。 夏の暑い日に遠くのものが歪んで見えるアレだ。
勇気は恐る恐る歪みに近づいていくと、大きなパソコンの軌道音のような音が聞こえ何も見えなかった校庭の空にに勇気が子供の頃想像した、あのままの形の宇宙船が現れ、校庭の歪んでいた空間に宇宙船に続く階段が現れた。
校庭の空を全て覆うぐらいのサイズというか、単純に学校の敷地全てぐらいの大きさだ。 縦は首をまげて視線を上にあげないと見れない程だった。
「バカでかい! これが宇宙船か! 最新型は色々あったけどこの由緒正しきロケット型を採用するとは! ドーナツ型とかトライアングル型の宇宙船が来ると勝手に予測してたのに!」
勇気はどの形にロケットが来るか予測していたらしくロケットの種類についての独り言を大声で話している。
「ねぇ! この宇宙船の事で聞きたい事があるんだけど!」
「そういうのはあの人に聞いて」
夏は宇宙船にもう一度指をさした。
勇気は宇宙船に視線を戻すと宇宙船は綺麗にロケットが横に倒れた状態になって、側面の扉が何重にもなっているのか代わる代わる開いていき、その先には綺麗な女性が立っていた。
「ようこそ勇気さん! 話は聞いておりました! そうです、この宇宙船こそ私達を月に導くアポロ777号、通称アポロセブン号です!」
「この宇宙船凄すぎますよ! まずこの規格外のデカさどうやったんですか!」
勇気はもう興奮しすぎて目が血走りそのまま階段を駆け上がった。その様子を夏と冬美は引き気味で見ている。
「でしょ! でしょ! すごいんですよ! 一から説明すると長いのでまず一般的に宇宙船は、ロケットが燃料を噴射して宇宙空間で切り離された後に残る部分の事を宇宙船と呼ぶんですが、今はそれは置いといて。 アポロ11号の発射にも使われたVサターンは3段式ロケットで宇宙船も含むと全長は111mでした。
そして私達の宇宙船アポロセブンは全長が最終的には250mになります。 それに加えΩ元素を使った最先端の運用方法、そして超一流の乗組員だちどこを取っても最強です! 今年の日本の予算の8割はこの宇宙船に注ぎ込まれましたからね、月面の発展は失敗するわけには行きません!」
勇気は話を聞くと、改めて階段から宇宙船を見回した。 その大きさに圧倒され、宇宙がすぐそこに近づいている気がした。
「おっと、熱くなって語りすぎましたね、失礼しました。 私は奥村りんごこのラッキーセブンの搭乗員です。 よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします! 千葉勇気です。 えっと、宇宙大好きで……特に月! 月が好きです! こんな船に乗れるの本当に嬉しいです!」
「宇宙船が好きなんですね 、勇気さんとは気が合いそうです! 搭乗員として一緒に頑張りましょう!」
「じゃあもう他に何かなければ船に乗ってもらう事になるんですけど大丈夫ですか? トイレとかは中にあるんですけど、他に挨拶とから諸々ありますか?」
勇気は何のためらいもなく答えた。
「何の未練もありません! 早く月に行きたい!
◆◆◆◆◆◆◆
勇気は宇宙船に乗り込むと壁が開き黒いジャージのような服があった。
「その服に着替えてください」
どこからともなく女の人の声の機械音声が聞こえてきた。
指示通りに着替えると目の前の扉が開いた。 扉の先には席が6つあり、夏と冬美はすでに先回りしたのか座っており、他の席にはりんごさんが座っていて、後2つ席が余っていた。
「服の右腕の裾を見てください」
指示通りに手首を見ると服の裾が白くなっている。
「確認しました?」
「はい、確認しました」
「その色は勇気様が宇宙船内使う部屋や備品に共通して勇気様専用の白色のマークがついています。 白色は自分の色と考えて頂いて結構です。
勇気は白いひし形のマーク◆ の自分の座席に座ったが見慣れないボタンに色々と戸惑っている。
船内を見渡しわかったのは、他の人達もそれぞれ座席と同じ色のジャージを着ている事ぐらいだ。
「すみません! シートベルトってどこですか!」
「もういちいち質問うるさいわね、待ってなさいよ。 シートベルトくらい自動で付くから」
夏が黒色の座席に座りながら不機嫌そうに勇気に毒づいている。
「いや、お前に聞いてねぇからりんごさんに聞いてっから」
「はいはーい 喧嘩しないの、夏も勇気君は初めてなんだから色々教えてあげなさい!」
りんごは1番前の紫色の座席に腰をかけながら身を乗り出し後ろを向いて2人を注意している。
ここで勇気はそれぞれ乗組員には色がありその色に対応するジャージを着ている事に気付いた。
夏は舌打ちを1回すると窓に体を翻した。
「もう喧嘩しないでよね、じゃあ出発!」
りんごは元気いっぱいとした感じで大声で言ったが、それに負けない声で返事をしたのは勇気だけだった。
突如勇気の足元から透明な謎の液体が湧き出てくる。
「うわ! なんだこれ! 水が!水が! 大丈夫なんですか!」
「大丈夫だよ。 これはベルトの代わりの液体だから」
隣の赤色の席に座っている冬美が優しい声色で勇気に声を掛けた。
「この液体はダイラント流体という成分が含まれていてゆっくりな力には液体として、瞬間的な力、動きに対しては固体のように硬くなるの。これを応用して急発進、急ブレーキを起こした時には安全に体を止めてくれる仕組みになってるってわけ」
「そうなんだ、正直普通のベルトで良いのにとか思ったわ、コストとかすごそうだし冷たいし濡れるじゃん」
「私もそう思うんけど科学力が有り余ってるんだから仕方ないよね、ちなみに液体はコーティングされてるからいくら触っても濡れないはずだよ、触ってみたら?」
勇気は液体をすくい上げて自分の頭の上に垂らした。
「本当だ! 濡れないよ!」
「濡れないってわかってても頭にかけた人は勇気君が初めてだよ」
冬美は勇気の行動がツボに入ったのかしばらく小さく口を押さえながら笑っていた。
「りんごさん、この宇宙船はどこに向かうんですか?」
「発射場兼基地だよ。 ここから2時間ぐらいかな、そこで料理人とリーダーを乗せていよいよ出発だ!」
「え? りんごさんがリーダーじゃないんですね」
「当たり前だよ、私じゃそんな大役勤まらないからね。 もっと相応しい人だからリーダーは地球の代表みたいな人だよ」
「地球の代表ですか、どんな人なのか楽しみです」
「じゃあそろそろ出発しようか! 衝撃に備えてね!」
りんごは発射ボタンを押した。 勇気を乗せたアポロセブン号は少しの間後ろに下がったかと思うと反動をつけたように猛スピードで町の上空を基地に向け飛んで行った。




