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life over life -僕は死ぬたびに強くなる-  作者: 柊梨/しゅうり
第1章 鏡は遷らない
8/11

1p-8 : 役者は揃った

「総理、入ります」


 記者団が周囲を囲む中、閣僚応接室でその声が響いた。

 椅子に座るものが全員立ち上がり、スーツのボタンを締める頃、一人の男がその中心にいた。


 これはいつもの光景。だが、一人場違いがいた。

 小学生かと思うほどの短身に、日本人を思わせない銀髪。それにまるで中学校のような制服。

 そのものは平然と当然のようにその少女は敬愛する我らが行政府の長に追従していた。


「では、行こうか」


 聞きなれた低音の声で彼は閣議室に入室した。


 入室一番に少女は言った。


「総理、そして閣僚の皆様。この度は我が転染対策警察改め、高等警察庁から特別高等警察省への格上げを閣議決定して頂いたことを一同を代表して、特高省特別事務次官兼警視の有楽愛夢が感謝を申し上げます」


 意外にも知的な物言いで深々と頭を垂れた。そして彼女の視線の先には先の選挙で大勝した組織の長がいた。


 先日我が内閣は、旧憲法で行われてきた凶悪ともいえる組織の再起法案を提出した。

 名を『警察省設置法』。

 この情勢下において、”事態が収束する”までの期間において設置される、人殺しを容認する省庁だ。


 ……裏には2世紀経っても駆除できない日本に潜む利権があることは暗黙の秘密だ。


 さて、総理はというと、舌なめずりでもしそうなその視線で、


「構わん構わん。君の為に作ったと言っても過言ではない組織だからな。あいむくん」


 愛人ではないか――


 そう、我々が疑い始めた時だった。


「ありがとうございます。では、私から皆さんに、折り入って頼みがあるのですが、よろしいでしょうか?」


「なにかね」


「実は、東京で大規模な”テロ”が起こる可能性があります」


 テロ。

 どんな人間でも目を隠したくなるような単語だ。

 いったい、どこからその情報を手にしているというのか。

 しかも今、東京と言ったか?


「テロとは……一体どういうことかね。説明してくれ」


「はい。まず、我々は一人の感染した容疑者を追っています。その性質上から、元の人間の個人名は割り出せませんが、彼には二つの特異的能力を発現しています」


「ほう」


「一つは、死んでも死に切らないこと。つまり死んだら別の人間に乗り替わるということです。もう一つは、」


 もうすでにお腹がいっぱいだった。

 なんだよ、死んでも乗り替わるって。新手のゾンビか。

 愛夢は我々閣僚の動揺の目をじっくりと観察したあと、「今一つは」と一拍を置いて、



「自由に転移が可能、という点です」




「…………は?」


 何を言っているのか。

 自由に転移できるって、そんなの最強じゃないか。


 殺しても死なない、死にそうになっても転移する、なんてことが可能になるわけだ。


 転移すると、される前の人格は死んでしまうという法則は変わらないだろうから……


「つ、つまり、大量虐殺が出来かねないという訳か?」


「はい、彼のみが自由に転移する特典を授かっているので、理論上そうなります」


 平然とした口調で彼女は言う。だがその手先には少しの震えがあった。人を良く見る癖のある自分だからわかる。やはり、彼女も人間だ。

 どれだけ身体能力が高くても、知能指数が高くても死という恐怖には逆らえまい。


「……つまり、その無敵な能力を持った人間が東京に襲来すると……?」


「はい、その通りでございます」


「なんてこった。……これは大変なことだぞ」


「唯一の弱点があるとすれば、彼がその人間を直接見ないといけないということです」


 せめてもの擁護になっていない制約を苦し紛れに言った。


「ちょ……ちょっと待て。さっき、東京でテロがあると言ったな。この数日のうちに開かれる冠婚葬祭はなんだ……?」


 後ろの秘書官に尋ね、インターネットを検索した後、次の回答が得られた。


「東京大収穫祭です」


 東京大収穫祭。


 過去の大飢饉を食料供給能力に乏しい東京を中心に乗り越えた歴史を振り返る一大イベント。

 最近では外国人も多く来るようで、およそ500万人以上が東京に押し掛ける異例の祭りだ。


 そして当然、国民の代表の総理も出席が予定されている。


「い、行きたくないッ……」


 今にも気絶しそうな蒼白な顔で言った。


「安心してくださいと言ってはなんですが、我々も命を賭す気持ちで警護に当たらせて頂きますから」


 「大丈夫です」と薄い胸をポンと叩きながら自信満々に言った。

 そうは言っても所詮は人間だ。彼が見た瞬間に一瞬で転移し、無血の死体の道を作りながら総理に近づくことも出来るかもしれない。


「総理、ここは出席を見送り、リモートでの参加にしたらよろしいかと……」


 控えめな声で声をかけてみる。だがそれでも植え付けられた恐怖は引かないようだ。


「そっそうだ、それにしよう。うん、そのほうがいい」


 意外にも即決をした。どうやら、足だけでなく考えも遅い亀田総理は自らの生死に対してはひどく反応するようだ。





「その……すまない。どうやら総理はご乱心のようだから、代わりに私から質問と要望を言わせてくれ」


 臨時総理序列1位の幡多官房長官が、いくらかの紙片を手元に発言した。

 銀髪の少女はメモ帳を取り出して書く準備をした。


「……まず、彼には何か、君たちが付けている呼び名は無いのか?」


「我々は対象Vと名を付けており、略称を、その単語から取った『ヴォル』と呼称しています」


「そうか。分かった。これから我々もそう呼ばせてもらおう」


 全体をちらっと回し見て、再び紙片に視線を落とした。


「では、次に要望だが……人探しをしてほしい」


「人探し、ですか?」


 長官は、いつ持ってきたのか分からない謎の箱を取り出し、閣議テーブルの上に中身を広げた。


「……我々が探しているのは稲田柊翔という男子で、高校1年生”だった”はずだ」


「だった、はず……?」


 およそ人探しには使わない過去形だ。


「ああ、”だったはず”だ。というのも、先日自衛隊指揮下の特殊作戦隊が彼を誤って射殺してしまったようなんだ。そして、君たちにはその遺体を探してもらいたい」


 中身は彼の周辺情報と、顔写真に交友関係までみっちり調べ上げられていた。

 ここまでくると、プライバシーもあったもんじゃないな。


「誤って射殺したことを気づいた時には、もうすでにその遺体は無くなっていてね、捜索願を出すわけにもいかないし、かといって大規模な捜索をすれば周辺住民に恐怖を与えてしまう。だから君たちにお願いしたい。人探しはプロだろう?」


 肩をくすめながら、箱を差し出す。

 死体を失くすという大事件をかましたのにも関わらず、よく平然とできるな。


 メモに全てを書き留めたらしい愛夢は、その箱を丁重にしまい込んで、


「……では、私からの要件は全てにございます。官僚は政策決定に関わらないのが筋ですので、これにて退室いたします」


「ああ。頼んだぞ」


 恭しくまた、頭を垂れて閣議室を出て行った――



「それでは改めて、閣議を始めよう」


 こうして今日も、いつもと変わらない日が続くのであった――







 殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い――。


「……ねぇ、どうしたの?」


 殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い。


「おーい? ねぼすけさーん? どうしたの? 顔が青いよー?」


 殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い殺した


「ねぇってば!」


 殺したい憎い殺したい憎


「あ、起きた」


「……どこだ、ここ」


「どこっていっても、私たちの家でしょ? あっ、分かった。竜ちゃん昨日そーとー飲んだでしょ! それでちょっと記憶が混乱してるのね!」


 殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い。


「え、え、ちょちょちょっと。どうしちゃったの? こんな朝っぱらから!

 いや、いいんだよ? 求めてくれるのはうれしいんだけどね? こんな場所はちょっと恥ずかしいっていうかっ……!」


 殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い。



「――へ? ちょちょ、くるしっ、ぐるしいって――」


 ぐちょり。


 殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い殺したい憎い――。

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