表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
life over life -死ぬたびに強くなる世界-  作者: 柊梨/しゅうり
第1章 鏡は遷らない
PR
7/11

1p-7 : いたはずの少女

「――で、白状する気になった?」


「なるわけないじゃないですか」


「なんだと!?」


 俺は、昨日とは全く違う長細い会議卓の置かれたせまっこい部屋に連行されていた。

 そして、その中に10名以上が詰め込んでおり、即席の弾劾裁判と化していた。


「第一ね、やってないことをやったと決めつけるのは、良くないと思うんですが……」


「だから証拠が上がってるでしょ?! あなたはやったの!」 


 俺は坂東君の名誉を守るためにも『やっていない』の一点張りで戦っていこうと心に決めた。

 それより、この不名誉な立ち位置を何とかしてほしい。ここには激詰めする大人しかいないのか。


 すると、俺から見て正面のおじさんが、よそよそと手を挙げて、


「じゃ、じゃあ……君は誰が盗ったと思う?」


「知るわけないじゃないですか、俺の友人関係考えてみてくださいよ」


「………」


 破壊力のある返しに一同は静まり返った。

 ある人はこちらを睨み、別の人は資料をしらみつぶしに詮索していた。


 すると、昨日の女性教師が立ち上がって、


「でも、あんたがやったっていう証言はいくつも挙がってるのよ? これについてはどう言い訳するつもり?」


「たとえば?」


「たとえ……! ……そんなの関係ないわ!。とにかく、あんたが犯人なの!」


「いやいや、具体例も出さずにホラ吹いているかもしれないのに、信じられるわけないじゃないですか」


 そもそも物理的に、彼が盗み出すことは可能なのだろうか?

 記憶を信頼する限り、それには組とか、教室の配置とか、俺に行きつく決定的な物証は無かった。

 体形も同じ人がそこそこいるこの学校で、なぜ俺と断定できたのだろうか。




「一番君のせいで迷惑を被っているのは、被害者ではないかな、坂東君?」


「ぐ……」


 痛いところを突かれた。


 心の片隅に考えていた、最悪のケース

 被害届でも出そうものなら、警察が即動いて、その流れでパクられるってのも否定できない。


「由奈さんは君が犯人だとずっと思っているようだよ? もし本当に、自分はやっていないというのならまず彼女に謝るべきではないかな……?」


 由奈陽菜。水着に書いてあった名前だ。

 自室に飾られていた学級写真でその姿を見た。あんまり可愛くなかった気がする。



「するべきだとは思っているけど……今は関係ないでしょう」


「関係ない!? そんなわけあるか、彼女は一生モノの傷を負ったに等しいんだぞ!?」


 大人ご自慢の論点ずらしね。

 たくさんやられてきたからもう対処法は分かり切ってるんだ。


「すいません、その由奈陽菜、さん……でしたか? その人と僕は話したことすらないんですけど……」


 必殺カマ掛けである。俺が陰キャであるという最大の利点を利用した作戦だ。


 俺が転移する以前は知ったこっちゃないが、この土日に俺は、徹底的に搾り取れるだけの範囲の交友関係を限られた彼の部屋で調査した。

 それによると、確かに由奈、という人物は彼の視野には入っていたものの、偏執気質な感情は抱いていなかった。

 ただ、メモ帳に記されたお気に入りと思われる女性のぐちぐちとした感想を見るたびに、心に羞恥心が集まったのは言うまでもない。


 彼らが、由奈を被害者と言うのなら、こっちは無関係だと言いたい。

 無関係を指摘された教師陣は全く固まって、視線を錯誤させていた。


「で、でも……証言があるんだ」


「だから、誰がなんて言ったか教えてくださいって言ってるんです」


 再び訪れる沈黙。

 ここまでくればもう分かったも同義だろう。



 ――これは華麗な冤罪だ。



 何者かが俺を貶めたい一心で、でっち上げでもしたのだろう。

 それが水着泥棒と言う倫理観終了のレッテル張りに執着した。

 これを発案したやつはバカだと言いたい。

 貶めるならいくらでも方法はあるだろう。

 なにも、被害者が出る方法を使わなくてもいいのに……。


「証言のひとつも言えないようじゃ、この事件に俺が関わっていたことなんて立証できませんよ。

 映像は今の時代、いくらでも改竄できるんですから」


「くッ………」


 大の大人を言い負かせたことに俺は一つの快感を得ていると、一人の男が何やらポケットをごそごそ探り、録音機のようなものを取り出した。


「い、いやあるぞ! 証言ならここにある! お前のクラスメイトが全員吐いてくれたぞ!」


 再生ボタンを押す。

 そこから流れてきたのは、確かにここ数日の聞き覚えのある声だった。


 前からやりそうと思ってただの、存在が犯罪者だの、なんで不登校にならないかよく分からないだの。

 散々な言われようだ。


「ハハハ、これでお前はこの件に関わってることを認めるな?!」


「………」


「沈黙は肯定と受け止めるぞ? いいんだな」



 こいつは、全員取り調べを済ませたっていうのか?

 じっくり3秒考えて、反論を頭の中で書き出す。


 次第に口角が上がっていくその男の顔が鬱陶しい。



「それの、法的な根拠はどこにあるんでしょうか」


「は……? 法的根拠?」


「そうです。約40人のクラス全員を聴取したなら相当な時間がかかるはずでは?」


 苦し紛れの反論と取ったか、教師全員が突然笑い転げだした。


「ハハハハ! こいつは面白い、君が木曜日に木目田先生たちに詰められていただろう。その時に並行してやったんだよ」



 爆笑に包まれる中、赤面しそうになるのを必死にこらえて、


「それでも、営業時間外に拘留させて、恫喝しながら言質を取り出すのは違法拘留になりますよね」


 羞恥心は脱ぎ捨てた。この世界において拳なんぞ何ら役にも立たない。むしろ自らを滅ぼす凶器になりえる。


「事情聴取の場合は適当な懲戒には当たらない。しかも営業時間外の学校の拘留は禁止されているはずでは?」



 読んでてよかった時事新聞。先月ぐらいに改正された法律をちゃんと覚えてた。

 先行の学校教育法を廃止し、新たな法律を成立させるという体で成立した学校教育および生徒の安全を期するための法律。通称教育法。

 その長ったらしい名前と条文に見合うほど、この国に置いて稀有なほど完璧な法案だと見た時は感じた。


 一方、これを聞いた先生たち、もとい犯罪者らは、そんなの知らんとばかりに。


「先生たちは、このことを私たちだけの間で解決したいと思っている。だからそんなものは形骸化しているのだよ」

「ではなぜ、MCPなんて組織があるのでしょうか」


 解答は単純明快、犯罪者を殺すためだ。


「そんなものはどうでもいい。ただ私たちは、この危機に瀕した学校を守ろうとしているだけだ。ここが潰えれば、まともな教育機関は消える。ただでさえ多い無礼者がさらに増加する。

 ここはもうすでに四面楚歌で背水の陣なんだ。

 君のような犯罪者が出てくれれば、国がここの学校は辛うじて機能していると判断して、予算が投入される。そうすれば、まだ生き残れる」


「つまり、俺一人の犠牲でこの五里霧中を打破しようと?」


 校長とおぼしき禿頭が深く頷いた。


「だから、頼む。君の生活は保障しよう。あまつさえ、十分な資金と教育もデジタルで届けようではないか」


「つまり、冤罪を首謀したのを認めるということですね」


「そうだ」


 とても自己中心的。まるで人心掌握術を身に付けた教育者とは思えない。

 予算が下りたとして、その弛んだ腹に過半が消えるのは目に見えたことだ。


「お断りします」


「もういい……! 校長こんなの最初から殺しとけばよかったんですよっ! すくなくとも先週まではそうだったじゃないですか、なんで二転もひっくり返ったのですか?!」


 マジかよ、俺殺されるかもしれなかったのか。

 すると、激昂した男が胸ポケットから金属のようなものを取り出した。


「お、おい君、なにしてるんだ……!?」


 取り出した金属片は二つに割れ、その空いた中身に真鍮色の何かを取り付けた。


「見ればわかるじゃないですか、即席の殺傷器ですよ」


 その金属片を片手で持ち、もう片方で胸ポケットからライターを取り出し、着火した。


 って、それを俺に投げつけるつもりか――?!




 この緊迫した状況を知らないとばかりに、俺の後ろのドアがガチャリと開いた。


「あっ、失礼しまーす。私、改修業者のものですけど、ちょっとご挨拶しに――何してんすか?!」


「あ?」


 飛び出してきたのは女性だった。

 そして、どこかで見たことのある面影の女性だ。


 だが、気付いた時にはもう既に、よく分からない殺傷武器は彼の手を離れていた。

 シュボボボと景気のいい導火線に火が付く音がすぐそばに迫っていた。


「あぶない――!」







「――やあ、よく来てくれたね。かなり遠かったんじゃないのかな?」


「いえ、今は空中モノレールが発達していますから、たかだか20分くらいですよ」


「そうかそうか。しかしすまないが、本当に小柄だね?」


「仕方ありませんよ、遺伝ですもの」


「はっはっはっ、確かにそうだね。最近は潜性も突然変異するような時代だしね」



 ――ここはこの国の心臓街だ。

 主な首都機能が集中し、2度の首都直下地震を粘り強く耐え抜いた鉄壁の街。

 国内の経済活動の過半がここで行われる、一大経済圏だ。


 そんな東京に、私――有楽愛夢は現在教師と喧嘩中の坂東君を置いて、単身で赴いていた。

 目的は危険者特例法上の最重要危険人物についての報告をするためだ。



「しっかし、困ったな。誤射したやつが生きているなんて……」


「今何か言ったかね?」


「あ、いえ。いくら逮捕しても感染者は増加の一途を辿っているな、と」


「確かに、この速さはちょっと不気味だ」


 そうこう話しているうちに、開かれた広場に到着する。


「――さあついた。ここが官邸だ。閣僚たちは待たせているから、すぐに向かおう。着いてきなさい」


 警備官に車のドアを開けられ、外に出る。

 今更ながらドレスコードとか大丈夫かな、と思う愛夢だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ