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遥かな場所で  作者: 生野紫須多
第一章 旅立ち編
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006話 夜の終わり ~秋人編~


あの後、男が意識を取り戻すと厄介なことになるので、雅樹と試行錯誤して縛り上げた。


作業中は必要なこと以外は喋らずに黙々と作業していたが、別に話すことがなかったわけじゃない。

男を縛り上げるなんて、そんな経験はしたくなかった。だからちょっとブルーな気分だったんだ。わかるだろ?


雅樹が俺と同じ気持ちでいたであろう事を切に願う。

途中何度か訊いてみようかとも思ったが、藪蛇だったらと思うと恐ろしくて訊けなかった。


そして雅樹と今後の予定を話す。

俺は雅樹がソワソワしているのを見て、見張り役を提案してみた。

ついでにもしこいつが目を覚ましたら、さっきのストレスを解消できるからな……いや、正当防衛の範囲だ。


そうしていると、突然端から声が降ってきた。

少し既視感デジャヴュを感じながら、視線を向けるとローブ被った怪しい人物が。


そいつを雅樹が問い詰める。


「死にゆく者に、答えはいらない」


女がそう言った瞬間、俺の背筋に悪寒が走った。

普段は機能することのない野生の勘が、狩る側と狩られる側を即座に嗅ぎわけた。

肌を伝う殺気が俺を丸呑みにする。まるで本当に身体を掴まれているような感覚に、絶対的な恐怖が俺を襲った。


「――死神」


脳裏を掠めたイメージに、思わず声が漏れる。


いななけ、氷の尖槍アイス・ネイル


女が魔法を唱える。やばい、たぶん食らったら死んでしまう!

あっという間に女の傍に二つの氷の槍が出来上がった。急がないと間に合わない! 動け俺っ!!


俺は氷が飛んでくる前に、必死になって逃げた。


「――あ」


逃げた先に雅樹がいた。だが気付くのが遅すぎた。

俺は雅樹に体当たりしてしまう。ごめん雅樹!! そう思った直後、俺は激痛に見舞われた。


「――っ!!!」


いっっっってぇぇえええええええええ!!!!!!!


あまりのショックに声は出ていない。身体のどこかが爆発したみたいだった。

痛すぎて何が起きたのか理解するのに手間取る。まあ、脇腹と右腕に氷の槍が突き刺さっていたわけだけど。


やられたんだ、と思うと急に吐き気が込み上げてきた。反射的に全身に力を込めてそれを我慢する。

その時、倒れていた雅樹と目が合った。大丈夫かと言おうとしたが……くぅぅぅ、今取り込み中だ! 何も言えねぇ!


「――――氷の花アイス・フレア


すると、耳に届く女の声。

魔法を唱えた死神の言葉に、俺は死を強く実感する。

しかしそれが逆に作用し、俺は冷静さを取り戻すことになった。

体に刺さっている氷が微かに振動していた。それは氷が破裂する前触れだ。


――何故か、そんなことが解った。


腹が爆発したかような衝撃に、足元がぐらつく。しかし今の俺にはどうする事もできない。


――このままでは二人とも殺されてしまう。


腕が俺の意思とは関係なしに飛び跳ねた。


――俺にできることはないのか考える……何もなかった。


バランスを保てずに体が倒れそうになった。ここで倒れたら、きっと止めを差される。


――それなら。


力の限り体を捻った。地面に倒れそうだった俺の体は、横に流れる川に向かって軌道を変える。

もう後先なんて考えなかった。俺はただ生き残る可能性が高い選択を選ぶ。それが正解かはわからないが。


――あっ! そういや雅樹が残ったままだった!! 


最後に忘れていた友を思い出し、舌打ちする。


――わりぃ、雅樹。


死ぬのは俺の方が先かもな、なんて思いながら俺は川の流れに飲み込まれていった。



◇◆◇◆◇◆



どれだけ流されただろう。最初のうちは溺れないように必死だったが、それも慣れてきた。

しかし今度はだんだん意識がぼやけてくる。仰向けで流されながら、それでも俺は残る頭の片隅で思考を続けていた。


「ぁぁ、寒い」


夜の川に晒されて体温が奪われていた。たぶんにケガのせいもあるだろう。

……どうにもうまく思考が働かない。視界も霞んできた感じがする…………眠い……。

ここで眠れば間違いなく死んでしまう。そんなことはわかっている。それでも猛烈に眠かった。


こういう時はどうすればいい? 必死になって考えるが、どうしても眠気が阻んでくる。

ダメだ、目を瞑るな。眠ったら死んでしまう、あぁでもマジで眠い。眠い、眠るな、眠い……。


と、俺が意識を手放そうとしたその時――。


――トンッと何かが胸の上に降り立った。


「…………?」


少し疑問に思ったが、その間にも体は重くなっていく。


「まったく、無茶をしよる」


薄れていく意識の中で、誰かの声を聴いたような気がした。


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