033話 ジュノン到着、キャルルの招待
「うおーーー、さすがはジュノン。都会だ」
そんな感嘆を馬車の御者席から述べる。
「おおー」とか「すげー」とか。ジュノンに入ってからずっとこんな調子だ。
ともかく広い。先が見えない。リドリアも広かったが、ジュノンの比ではないだろう。
どこまでも続きそうな整備された道、間に立ち並ぶ家々はレンガや木造など様々だが、皆一様に景色の中に溶け込んでいて風流(趣き?)がある……というか、見ていて飽きない。
道往く人々も多種多様で、商人も居れば職人のような堅気の人、貴族みたいな仰仰しい服装の人達も大勢見かけた。
大きな武器屋に高そうな宿屋、老舗の道具屋や行列を作る服屋、そして美味そうなステーキを掲げた飲食店。
ありとあらゆる職業の店が所狭しと割拠していて、通りを見るだけでも1日では無理そうな、そんな大都会である。
ウズウズしてくる。もうすぐにでも観光したくて堪らない。
ここには間違いなくお宝(?)が埋まっていると断言できる……!
そう思いながら街の奥へと進んでいくと、建物が立派な物に変わってきた。
「ここからは上流貴族が住んでいる貴族特区になります。私達……三大貴族を含む国を支える役職に着いている貴族達の家が並ぶ、少し他とは違った場所ですわね」
初めての人にも分かり易くキャルルが説明してくれる。
上流貴族……即ち、一番の地位である公爵、2番目の侯爵のことだ。
俗に言う三大貴族は公爵のさらに上で、そのまま御三家と呼ばれているらしい。
「もうすぐ着きますわ」
ジュノンに着いた俺達が向かう先。それはキャルルの実家である。
『皆様を是非我が屋敷に招待したいと思いますわ』
事はキャルルのそんな言葉から始まった。
端的に言うと、命を助けてもらったお礼がしたいそうで。
エトラナ家の客人として俺達を屋敷へ招待してくれるそうだ。
御三家の娘がお忍びの旅行中に盗賊の襲撃にあった。
よく考えると大事件なわけだが、それを護衛した俺(達)への報酬は無しだったりする。
それではエトラナ家がすごい非情な感じがするので、案外ミズリーあたりの入れ知恵ではないかと思う。
ま、それぞれの思惑はあるにしろ家に招待してくれるというのだ。拒否する理由なんてない。
俺は別に行く当てもないし、ここへ着いたらギルドの宿屋にお世話になるつもりだったのだ。
ああ、そういえばギルドはまだ見ていないな。
さぞかし大層な建物だろうなとそう思って、俺が誰かに聞こうとすると――――。
「おじょぉおおおさまぁぁあああああああああああああああ!!!!!」
静かな住宅街に突如として響いた女性の奇声が、俺達に迫ってきていた。
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「先程は失礼した。私はキャルルお嬢様のお世話係としてお付きになっているリーファという者だ」
自己紹介はこんな感じ。気になるのはメイド服。
淡々と述べる機械的な口調は切れるような目つきと相まって少し恐い印象を与えてくる。
紫のショートヘアーに年齢不詳(20……いや30か?)の美貌を併せ持つ見目麗しき麗人。
キャルルの護衛兼メイド兼教育係(まとめてお世話係)であるリーファナー・レン・クラリーチェさんだ。
「お嬢様とミズリー様はこちらへ」
街中で大声を上げて俺達の進路を塞いできたリーファさん。
有無を言わさず、俺達はエトラナ本家の豪邸に連れてこられた。
試しの門みたいなバカでかい玄関を通って、今は使用人達(とにかく大勢)に出迎えられている。
「ちょ、ちょっと待ってリーファ。彼らの紹介がまだ……」
「それも込みでニコラス様からお話があるようです」
「え、お父様からっ!?」
この国のトップ(キャルルの父親)から直々に呼び出しを食らうキャルルとミズリー。
まあ、お忍び……逃げだしてきたと言っていたからな。こってりお仕置きされるのだろうと思う。
「わ、わたしもなの?」
「ええ、ジル様もご一緒に居られます」
「ええっ!?」
ジル様ってのはたぶんミズリーの親だろう。(名前は知らない)
そのまま二人は何か捲し立てながらもリーファさんに連行されていった。
その後「皆様方はこちらへ」と俺達は他のメイドさん達に誘導され、応接室っぽい所(豪華だ)に案内される。
「それでは少々お待ち下さい」
そう言ってメイドさん達は部屋を出ていった。……もしや部屋の外で控えていたりするのだろうか?
「……待ってくれと言われてもな」
と、呟きながらも俺は部屋を睨む。
見渡す限りが高そうな家具や調度品に占拠されていた。
金の装飾に彩られた立派なテーブルに天井から垂れ下がるキラキラ過ぎるシャンデリア、その他沢山……etc。
「やはり、違う……!」
ただの金持ちでは無い、とビビってしまう。
きっと俺には想像もつかないような値段の代物が所狭しと溢れているに違いない。
「ヤベェ……!!」
あの壺とか、飾ってある皿とか、ちょっとぶつけただけでも壊れてしまいそうだが……弁償できるかな。
所詮庶民階級である俺にこんな部屋でのほほんと落ち着けと言われても……逆に緊張してしまうではないか……!
「主、主!」
そこに聞こえる悪魔の喚声。
「凄いぞ、この長椅子は! 見よっ! こんなに跳ねるぞ!」
どう見ても高級そうなソファの上でピョンピョンと飛び跳ねる白い悪魔。
それが珍しいのかどうかは知らないが、はしゃぎ過ぎてあまり周りが見えていないと思われ……。
「おっとっとっ」
緊急事態発生!!!
「おい! 暴れるんじゃない!」
エマージェンシー! エマージェンシー!(頭の中に警報が鳴り響く)
「楽しいぞ、主もやってみよ♪」
「ちょっ、大人しくしてっ!?」
止めろ! もし何かあったら責任が取れん!!
「のはははは♪」
「ふざけんなぁアアアアアアア!!!」
☆★
「二人とも、何故呼ばれたか判っているな?」
厳粛な空気を纏った年季のある声が部屋に響いた。
金の短髪、深みのある緑眼、そして齢50にして依然衰えのない毅然とした迫力。
彼こそが御三家の一角を担うエトラナ家の現頭首、ニコラス・セイン・エトラナその人である。
「お父様……」
「まずは始めから話してもらおうか。この一月、お前は一体何処で何をしていた?」
彼の口から洩れるのはいつもと変わらない口調であったが、そこには内に秘める感情がある。
彼をよく知らない者には気付かないだろう、だが娘であるキャルルにはニコラスの抑えている感情が読み取れた。
「リドリアで開かれていた予選大会を視察して参りました。お父様他、皆様方には反対しておりましたので、私の独断でミズリーと一緒に行きました」
本当は試合にも出てしまったのだが(視察でもないし)、敢えてそこは省く。
知られると色々と拙い事になるので、なんとか誤魔化さなくてはいけなかった。
「ふむ。それで?」
「大会が終わり、その時に知り合った二人の優勝者とその知人の方をお連れしてジュノンに帰って来たのですわ」
キャルルはこれまで出来ごとを簡潔に話した。
盗賊団の襲撃にあったことを言わなかったのは、父に要らない心配を掛けさせまいとした故の配慮である。
「それで?」
「それですべてですわ」
はっきりとした態度でそう断言したキャルルに、ニコラスの表情は変わらなかった。
「……それで全てか?」
「はい。お父様」
少しは疑われても当然だろう。しかし自分の吐いた嘘は貫き通す。
エトラナ家の者は先頭に立つ者である。幼少の頃よりキャルルはそう教え込まれてきた。
例え不利な状況であっても、相手が誰であっても、毅然とした態度を貫けと教育されてきたのである。
だが、やはり相手が悪かった。
国という組織の情報機関を、キャルルとミズリーはまだ見くびっていたのだ。
「ふむ……そういえば私の知人もその予選大会を見に行っていてな。彼が先日、何やら面白いことを教えてくれたよ」
話の切り返しはニコラスのそんな言葉で始まった。
「リドリアの予選大会。その会場で、キャルルによく似た人物が試合に出場していたそうだ。名前はルルと名乗っていたらしい」
「………ぅ」
「彼は他人の空似だろうと言っていたが……さて、実際は所はどうなのだろうな?」
「………っ」
ばれていたのか……と、キャルルの額に僅かばかりの冷や汗が伝う。
その反応をハッキリと目にするニコラス。しかし彼の追撃はまだ止まない。
「前に、お前も傭兵のライセンスを取得していたな。その時お前がどんな氏名で登録したのか私は知らないが……聞く所に寄るとギルドバッジの裏には個人情報が刻まれているらしいじゃないか」
バッジを見せろ。そう直接言わない辺りに悪意が見え隠れしている。
たぶん……否、もうすでに裏はとっているのだと、キャルルは顔を顰めた。
「……そうですわ! ええ、試合に出ましたとも! ですが悪い事なの!? 私は試合に出てはいけないのですかっ!?」
「馬鹿者!!!」
ニコラスの怒声が部屋に轟いた。
その唐突さとあまりの大声に、キャルルとミズリーはビクッと肩を震わせる。
「そんなことも解からんのかっ! 試合に出て何かあったら、お前はどうするつもりだったのだ!? 自分だけは大丈夫とでも思っていたのか!? 死人も出る大会なんだぞっ!」
「……そんな事はわかっていますわ」
「解かっている? ならお前にもし何かあったらどうするつもりだったのだ? お前はエトラナ家の人間なのだぞ? お前の下にはお前のために働く何人もの人間がいるのだぞ!?」
「……そ、それは……」
ニコラスの剣幕に呑まれる。
普段は温厚な父親とのギャップに、キャルルはたじろぐしかなかった。
「ルルちゃんに試合に出るように言ったのは私です! だから悪いのは、謝らないといけないのは私なんです!!」
そこへ割り込んだのはミズリーだった。
「ミズリー、君の言いたいことは判るが、今はそんなことを言っているのではない」
「でもっ!」
「どんな理由があろうとも、彼女が試合に出たことには変わりはないのだ」
ニコラスの後ろに立っていた人物が続いて答えた。
片眼鏡を右目に掛けた機智とした顔つきの、ダンディズム溢れる銀髪の貴人。
彼こそがミズリーの父親ジル・ランバルド・キッシュ。エトラナ家に仕えるキッシュ家の現当主である。
「ミズリー。お前は使用人達に口止めして、キャルル殿の手引きをしたな?」
「……う、うん」
「そのことについて申し開きはないのか?」
「……私がやったの、ごめんなさい」
素直に謝るミズリー。彼女も話を聞いて自分の考えの至らなさを悔いていたのだ。
「別に試合に出るなと言っているのではない。しかし、時と場合は選んで欲しいのだ。……わかるな?」
「……すみませんでした、お父様」
一旦変わって、自分のことを危惧するようなニコラスの声色にキャルルは謝罪の意を示す。
ニコラスも貴族である前に人の親である。軽率だったキャルルの行動をやはり心配していたのだった。
「宜しい。……だが、もう一つ確認せねばならないことがある」
「え……」
「つい二日前になるか、ある病院からこんな情報が私の耳に届いた」
そう言ってニコラスは薄い半紙を机から翻して読み上げる。
「――――先日未明、緊急搬送。症状、魔力欠乏。三日間の昏睡状態の後、翌日退院。患者は17前後の女性。名前……ルル」
「あ……あの、それは」
「次いで、近頃世間を騒がせていた例の盗賊団がその頃、その近隣で壊滅していたそうだ。確かなのはそのことだけだが……どうなんだ、キャルル? 病院に運ばれたのは、本当にお前なのか?」
それを聞いてキャルルとミズリーが焦る。
どうやら一番知られたくなかった情報も知られているらしい。
もう隠すこともできなかった。知られているのなら、どうしようもない。
「そうです。それは間違いなく私ですわ」
「やはり、そうか……お前が無事だったことは本当に嬉しく思う……」
少しの間があった。
「……だが何があった? 盗賊団が壊滅したことと関係しているのかっ? 一体何がお前をそうさせたのだっ!!?」
感情を露わにするニコラス。
ジルの顔も真剣さを増し、今まで静観を貫いていたリーファでさえ雰囲気を変える。
その変化を見て、情報が届いた二日前の彼らの心境がミズリーには痛いくらいに良くわかった。
「お前はさっきその事を言わなかったな……」
少し悲しげにニコラスがそう溢す。
「心配を懸けさせまいとしたのか。ただ言いたくなかっただけなのか……それは知らんが、できることなら教えて欲しい」
厳しい言い方ではなかった。
寧ろ懇願するような彼の、彼らの表情がキャルルとミズリーの胸に入る。
貴族である前に、一人の父親としての言葉なんだと気付いた。
「わかりました。いえ、私が至りませんでした。お父様、ジルおじ様、リーファにも、心配を掛けて本当にごめんなさい」
そしてキャルルは口を開く。ミズリーも思いは同じだ。
「それではお話しますわ。あの時私達に一体何が起きたのかを、私達がそこで何をしたのかを……」
あの夜の出来事を――――彼女は思い梳いてゆく。
時には涙を浮かべ、足りない所はミズリーと補い合って、二人の視点で物語る。
他の敵を食い止めていた彼。
彼がいなければ、誰かは助からなかったかもしれない。
一緒に戦ってくれた仲間達。
彼らがいなければ、きっと今の自分達はいないだろう。
何を思い何をしたのか、その後はどうなったのか。二人は素直に有りのままを彼らに伝えた。
「そうだったのか……そんなことが……」
話を聞いて、最初に口を開いたのはニコラスだった。
「聞いた此方が腰を抜かしそうな話だな」
様々な感情を込めた色合いで彼がそう漏らす。
「いやはや、二人とも無茶をしよる」
「まったく……御無事で何よりです」
ジルもリーファも、抱いた感想は同じようだった。
予想以上の言質や顛末に半ば呆れて、しかし彼女等の帰還に心からの安堵を得る。
「それでお父様」
「ん……何だ?」
もう彼女の顔には部屋に来た時の緊張とした面持ちはなかった。
毅然としたその一筋に光る強かな眼差しに、ニコラスは今は亡きエリー――彼の妻である――の顔を重ね見る。
「彼らを招待して、未だに待たせたままなのですが」
取って代わって煌びやかで凛とした声を転がすキャルルに、ニコラスは懐かしさと愛しさ、そして美しさを垣間見た。
良く似ている……否、瓜二つと言っても良いほどのその美貌。
彼が唯一、今でも愛し続けている彼女の面影が確かにそこにはあった。
「エトラナ家として、それは宜しくてございますの?」
▼
その夜。
エトラナ家の屋敷では小さな歓迎パーティーが行われた。
まるでパーティーをするためだけに作られたような大部屋に大量の食料が運び込まれている。
けれども人は疎らで、俺達6人+2にニコラスさん、ジルさん、リーファさんと他数人の使用人(?)がいるだけだった。
「飲んでるかぁい♪ そうけぇ、飲んどるのけぇ~♪」
「いやぁ、はい……それほどでもないですよ? ああ、いえいえ――」
「これは何だ? ふむふむ……ほう、成程な。ならばそちらの具材は――」
キースは目の前にいる者に絡むだけの酔っ払い。(こいつからは離れておこう)
オスカーはなんだか女性の使用人さんたちに絡まれている。(何故俺の所には来ない?)
モンさんは熱心に料理のことを聞いてメモしている。(もしや作ってしまうおつもりなのですか?)
キャルルとミズリーは何度か俺とも会話していたのだが、今は父親達との会談に混じっている。
「はぁぁ……」
「どうしたのじゃ?」
苦々しく吐いた息は足元の白猫に拾われた。
「何故だ……」
「?」
「何故俺の所に誰も来ない……?」
浮いていた。
俺だけ。
それはもうくっきりと……!
「……うう」
気落ちして手に持っていたワインをちびちびと啜ってゆく。
どうして俺だけ浮いているのか、どうして他の奴だけ浮いていないのか。
謎は深まるばかりで、一人寂しく晩酌をとる。いや、この状況では取らざるを得ないのだ。
「まぁ気にするでない。儂がおるではないか♪」
「……気にするに決まってるだろうが。お前しかいないんだぞ?」
正直、オスカーが羨ましくて堪らない。くそ、俺に何が足りない? 俺の周りにも寄って来いよメイドさんたち!
歓迎パーティーじゃなかったのか!? 俺だけ歓迎されてない感が浮き浮きとしているじゃないかっ!
「むふふふ、別にそれでいいではないか♪」
……? 白猫の様子がおかしい……まさか……。
「……お前、酔っているな……?」
「にゅふふふ、酔ってなどおらん♪ ぬふふふふ」
なんか、ディズがまた変な笑い方を……ちくしょう、何故俺の周りにはこんな奴しかいないのか……。
誰か! チェンジ!! プリーズ!!!
と現実を直視しすぎると泣きそうになるので、俺の脳内は思考のみに重点を置くことにした。
思考と言っても取るに足らない戯言だが、とにかく気が紛れれば何でもいい。
そして疑問はあった。この場について、だ。
表向きは俺達の歓迎会なのだが……キャルルやミズリーが無事に帰還を果たしたことを祝う意味合いの方が勝っているように思えるのは俺だけだろうか?
もっと俺からも積極的に話しかけたりするべきか……でもそれで疲れるのはなぁ……いや、コミュニケーション力は最も重要視される社会的、模範的材料で人類の獲得した……そもそもここで俺に求められている役割……? ……そうか、つまりロール・プレイング……ならば割り当てられる役割よりも自発的に思い描く役割を演じることにこそ意味があり……演じる? 仮面を被った意思疎通に一体何の役割が……? 待て待て、そんなことよりも実は俺の知らないペルソナの存在が……?
「失礼、アキヒト君と言ったかな?」
思考がこんがらがって俺の頭が少しずつ軋み始めていた所、運良く耳に舞い込んだ渋い声に助けられた。
「あ、えーっ……と」
「初めまして、ニコラス・セイン・エトラナだ。娘のキャルルがお世話になったそうだな」
短髪ヘッドの渋いおっさん……もといキャルルの親父さんのニコラスさん。
ジュノンのお偉いさんが一体俺に何の用だろう? ただの挨拶なら良いのだが……。
「急だったのでな、質素なパーティーになってしまったが……楽しんでくれているかい?」
そんなことを心持ち笑顔な感じで仰られる。
実際は口元が笑っているだけで目元は笑っていない。
俺はその正体を知っている。これは愛想笑いというやつだ……!
「ええ、まぁ、それなりに……」
その体裁を取り繕った質問に俺は無難な返答を返した。
正直、俺一人だけハブられて辟易していた所だ……と言いたかったのだが。
一応主催者の一人だし、国のトップ(?)だと思われる人だからね。さすがに初対面だし。
「ふむ、まあ今夜は楽しんでくれたまえ。君たちのために開いたパーティーだからな」
少しカチンときた。
どう見ても俺は楽しめていない筈なのに、どうゆう了見なんだ?
誰も俺には近寄って来ないのに? 俺から話かけて場を盛り上げろとでも言っているのか?
「それで君と少し話がしたいのだが……宜しいかな?」
そうか、これはアンタの仕業だったんだな?
「……ええ、それは構いませんが……」
話なら今してるぜ? そのために俺を一人にしたんだろ?
と、何時になく攻撃的な俺。ムカムカしてきた。ムカムカしてきた……!
「では少し移動しよう」
そう言って部屋の隅に移動するニコラス氏。俺も後に続くが複雑な心境だった。
場所を変えるということは大事な話なんだろう。そしてその内容にも大体見当はつく。
どういった意味合いで言われるのかは判らないが、ここまで護衛してきたお礼を言うだけなら場所を変える必要はない。
そう、つまりあまり良い話ではないのだ――――。
と、頭の隅でそんなことを思いながら俺は足取り重く歩いてゆく。
なんとなく予感はあった。
たぶん、わずかに、ほんのちょっぴりだけ、自覚はあったような気がする――――。
――――その時に気付いておくべきだった。
後に振り返って、俺はそう嘆くことになる。
相手が俺に好意的ではなかったのは単に俺の人柄を探るための演技だったということ。
俺がパーティーでハブられていたのは、別にニコラス氏の策略ではなかったということ。
ハブられていた本当の原因は、酔ったディズが俺の周囲に睨みを利かせていたからだということ。
そして何より、この時の俺の鬱憤とした苛立たしい気持ちは、実は俺が酔っていたためであるということに……。
――――やはり俺は、気付いておくべきだったのである。
誤字脱字の方、もしありましたらご報告していただけたら幸いです。




