032話 朝と昼と夜と
朝の目覚め。
基本、それは夜明け前になる。
これは魔物達がまだ寝静まっている時間帯だからということもあるが、理由としては就寝が早いためである方が大きい。
何せ夜の8時や9時くらいにはもう眠っている。外には外灯なんてないし、真っ暗な道を馬車で往くのは難しいからだ。
「……ふあああぁぁぁ」
大きな伸びをして、俺は朝の到来を感じる。
おそらく外はまだ薄暗いはずだ。というか、部屋の中からして暗過ぎる。
この世界に来てからというもの……いや、実際には旅をしてからだが、生活リズムがかなり良くなってきた気がする。
こんな理想的な早寝早起きを俺が実践、しかも違和感なく実行するとは……やはり人とは環境に適応するものらしい。
「……むにゃ」
俺の上ではまだディズが寝息を立てていた。
なので、少し顔を起こすと白猫の寝顔とご対面。
「……すぴー」
……正直、たまらん。
猫好きの俺としては、なんと幸福な朝なんだろうかとか思う。
よく見ると結構可愛い事に(最近)気付いてからは、もうこいつは猫でもいいんじゃないかと考え始めている俺。
美少女の姿も捨てがたいのだけれど、可愛い猫の姿に、もう朝から癒される癒される……。
……まあ、最終目標は変わらないが、猫もいいねという話。……いいよね猫、猫万歳!
と、寝起きから絶好調の俺だ。
当然、つんつんと白猫の額を突いてしまう衝動は否めない。
「……ふが?」
「起きたか(起きてしまったか)……」
もう少し弄りたかったのだが、奴は一発でおきてしまう。
このままでは消化不良になってしまうので、もうちょっと遊んでみることにした。
「今、何かしたか?」
「いや、寝顔をばっちり拝見させてもらっただけだけど?」
「――っ!?」
UFOでも発見したかのように目をひんむいて取り乱すディズ。うん、いいよいいよぉ。
「ば、馬鹿者ぉ! なな、何を見ておるのじゃ!!」
「ヤバイ。お前の寝顔超可愛かった。写真にとりたかったぜ♪」
「わ、忘れろ! 忘れるのじゃぁぁあああ!!!」
「痛っ!? 引っ掻くなって!! いや、痛い、顔はやめっ!? 痛たたたたた!!!」
少々いじり過ぎたらしく顔に傷が出来てしまった。
でも大丈夫! 俺ももう治癒魔法とか使えるんだ!(練習しました)
しかしまあ、朝から騒ぎ過ぎたようで皆が起き出してくる。
皆から「うるさい」と連呼され、ディズは何処かへと去ってしまって。
川で携帯を落としたのは惜しかったなぁと惜しみつつ、とりあえずこんな感じで俺の朝は始まった。
■
昼の憩い。
馬車は一時停止を余儀なくされる。なんてことはない、ただの休憩だ。
あれから、食事は皆で取るのが日課になっていた。
組み慣れたテーブルを道端に置いて、昼食を頬張る。
凝った料理も食べるには食べるが、大体が保存食だったり……今日はパンだ。
「――――でな、怒ったディズ殿がアキヒト君のファンの子らの記憶を奪ってしまったのだ」
昼食の席でモンさんが話すその内容は俺の心的外傷。
あの暴走したディズを止めることのできなかった、苦々しい事件である。
「き、記憶を!?」
「そ、それでファンの子はどうなったの?」
キャルルとミズリーが夢中になって訊き返す。
他のみんなも興味津々なご様子で。
「起きた時には皆、アキヒト君のことを忘れてしまっていた。綺麗さっぱり、名前までな」
「ええー! 何それ! 可哀想っ!」
「何ですってっ!?」
「すげ~、マジかよ」
「お、怖ろしい魔法ですね……」
それぞれが感想を漏らす。
ディズは何も言わなかった。俺は何も言えなかった。
「そんなことができるなんて……本当にディズって精霊だったのね」
「当り前じゃ、そう言ったであろう!」
「あ、でもでもそれじゃあ、何かあったら私達も記憶を消されるかもしれないってこと?」
「安心しろミズリー。其方等にそんな事はせん。……主にも散々言われたでな」
俺が異世界人であることや、ディズが精霊であることは前に話した。
反応はモンさんの時とあまり変わらない。まぁ、みんな驚きつつも受け入れてくれたようで。(期待通りでした♪)
キャルルやミズリーなんかは貴族の権力まで使って地球への手掛かりを探してくれるらしい。うん、話して良かった。
「どうしたアキヒト? 口数が少ないぞ?」
元々口数はそう多くはないと思うのだが、ずっと黙っているとキースが俺に話かけてきた。
「これ以上俺のトラウマは掘り起こさないでくれ……」
「確かに、アキヒトさんにとっては悲劇でしかないですからね」
おお、わかってくれるかオスカー! そうなんだ! どう考えてもやり過ぎだよなっ?
「全てはディズさんの機嫌しだいということですしね」
「……ちょっと待て。ディズさんってなんだ? 『さん』は要らないだろ?」
こいつ、ディズにさん付けなんてしてやがる。やめろやめろ、気色悪りぃ!
「いや、でも精霊じゃないですか。なんだか怖れ多くって……」
「ディズで十分だろう? 考えても見ろ、奴は(見た目)白猫なんだぞ?」
「う~ん……しかしですね……」
「それならばディズ様と呼んでも良いぞ」
自分の名前が出たからだろう。何故か偉そうな態度で本人が出張ってきた。
しかも何だ、「様」って……お前は神かもしれんが、俺は決してそんな名称は認めない……!
「うぬぅ、なんじゃその目は!? これでも昔はそう呼ばれておったのじゃぞ!」
「今は今、昔は昔だろ? というか、みんなお前のことはディズって呼んでるじゃん」
ディズ、ディズ殿、ディズちゃん。
許容できるのはこのくらいだろう。ディズさんはない。ディズ様なんて……はっ、片腹が痛いわ。
「そーそー♪ ディズちゃんの方がカワイイよ♪」
「むぅ……そうなのか?」
「そうだよねー♪ アキヒトくん♪」
「そう、確かに今朝の寝顔は可愛かった」
「ま、まだ言うかっ! 忘れろと言ったはずじゃぞ!」
何故怒る。褒めているのだから素直に喜べばいいものを……。
あ、それと前から言おうと思ってたんだけど、ミズリーも別に俺の事は呼び捨てで構わないよ?
「う、うん。心の準備ができたら、そうする」
準備、出来てないの? とまあ、俺がそんな会話に持っていこうとした時である。
「忘れて欲しければ記憶を奪えば良いのでは?」
「え……?」
なんか、キャルルが怖ろしいことを言いだした!
「へ? 何何キャルル、どういうことよ?」
キースが問う。
こいつ、呼び捨てはヤバいだろとか言っておきながら、ちゃっかり呼び捨てで通していたりする。
なんでも平民の俺が呼び捨てなのに、貴族である自分が敬称なのはやっぱりおかしいだろ? とのことだ。
それによく考えた結果、相手の好意(呼び捨てで良いよと言った件)を無視するのも人として戴けないらしい。
ま、どうでもいいので閑話休題。
「ディズは記憶を消せるのでしょう? だったらその魔法でアキヒトの記憶を消せるのでは?」
「成程、確かにそうだな」
や、止めろっ!? そんなことを言ったら……!
「ああ、否……それは無理なのじゃ」
「え……?」
意外な事にディズは苦言を窮する。マジで? 出来ないの?(よっしぁー!)
「実は前にな、一度主の記憶を消した事があるのじゃ」
……………………は?
「その時に少し異常が発生しての。どうやら主にその魔法を使うと悪影響がでる様なのじゃ」
「そうなの?」
「うむ。契約しておることが、何か関係しておるのかもしれん」
待てぇええええええい!!! カットカットカーーーーーーット!!!!!
「俺の記憶を消したのかっ!!??」
「あ、否……うむ」
「何時だっ? 一体何の記憶を消したぁぁああああ!!!」
「それは言えん。しかし、リドリアに着いた際に契約のパスに異常があったじゃろ? 悪影響とはそのことじゃ」
「………………」
……あ、あれか……!
確かディズが無茶苦茶怒ってたヤツだよな。
成程。道理で、その時のことを俺は何も覚えてないわけだ。
え? じゃあ何? 俺の記憶を消したせいでパスがおかしくなってたのかよ……。
「……ま、まあ、あれだな。やっぱり俺が知らない方が良い事……だよな?」
「うむ」
「そうか、ならこの話はやめとこう」
気にはなるが、俺の本能が止めろと忠告していた。
さすがの俺も命は惜しい、と何故かそんな恐怖が蘇る。……触らぬ神に祟り無しだ。
「そういえば、もうすぐジュノンに着くのではないか?」
(俺とディズの間だけ)少し気まずい空気が流れたので、モンさんが話題を変えてくれた。
「あれ? もうそんな……って、そういえば結構日にちも経ってるのか」
と、キースが言いながら指を折っていく。
俺も日にちなんて数えちゃいないが、言われてみればそんな気もするな。
「あ、そうでした。朝に言おうと思っていたのですが、早ければ明日にでも着くと思いますわ」
「へ~。もうそんなに来ていたんですね」
「確かに道幅も広くなってるし、人も沢山見かけるようになったな」
そうなのだ。朝から商人達の一団とすれ違ったり、街道もなんだか広くなってきている。
何より魔物が出てこなくなったということが一番の違いじゃないだろうか。(酷い時は1時間に一度は出てきたからな)
「それじゃあ、早く片付けてジュノンに行きましょうか!」
「くぅーーー、早くフカフカのベッドで寝てぇーーーー!」
目的地はもうそこだと聞いて、オスカーとキースのテンションがアップする。
普段は片付けも嫌々だったキースが率先して後片付けを行い、即席テーブルを折りたたんでいった。
「珍しいわね。キースが文句も垂れずに片付けをするなんて」
キャルルがなんだこいつは? みたいな感じで言う。
ついにキースも一人の人間として扱われるようになったらしい。うんうん、善きことかな。
「そっかぁ……もう終わりなのかぁ」
馬車に戻る寸前、俺の背後からミズリーの小さな呟きが聞こえたような気がした。
◆
夜の帳。
暗幕が降りて始まる、もう一つの秩序の貌。
人間も魔物も眠りに着くだろう時間帯。夜行性の魔物なんかは活発に動き出す頃合いだ。
そしてもちろん動き出すのは私こと皆世秋人。と、その愉快な仲間達である……!
「今日はモンさんからどうぞ!」
「え、私からでいいのか?」
「昨日は私から入りましたし、一昨日はミズリーでしたから。今日はモンさんの番ですわ」
「そうか……うむ、ならばそうさせて貰うとしよう」
嬉々としてモンさんがそう述べる。
彼女が向かう先は道を少し逸れた先にある隠れた秘境……樽風呂だ。
俺の初めての入浴が女性陣に見つかったその翌日。
また微妙にキャルルから距離を置かれながらも、彼女達が俺に詳細を訊ねてきた。
あれは風呂だ。俺の世界の文化だ。とか、色々応対していると、彼女等も入りたいということになった。
どうやら貴族の間では入浴はポピュラー(風呂あって良かった!)なようで。さすがに馬車の旅ではそんな機会はなかったので、あんな樽の風呂でも彼女等は入りたいらしい。
勿論、俺は二つ返事で承諾した。
「ふぅ~~、これが風呂か。中々良いものだな」
あまり馴染みのなかったモンさんも、いざ体験してみるとお気に召した感じで。
貴族だったキースは知っていたし、オスカーも話には聞いていたようで、連日、風呂には行列ができていたりする。
「ああ、疲れが吹き飛んでゆくようだ」
当然、順番など争う事なく女性陣が先に風呂に入ることになったのだが……ここに、姦計を企む輩がいた。
(目標、位置に着いた。これより作戦を実行する)
(ラジャー)
キースが兵を募り、そこに俺が加わった。
数多の木々や雑草の多い茂るその先に、女体の神秘が隠されている。
健全な青少年である俺達にとって、それは以て打破すべき欲望であると同時に、理屈を超えた抑えがたい誘惑に違いない。
理性と本能が激しくぶつかりあう脳内戦記。
駆り立てられる想像、試される人としての矜持。
しかし、この数日間耐えに耐え積もった情欲は俺達の我慢の限界をついに超えたのだ……!
(今日が最後の夜になる。悔いを残してはならんぞ!)
(ああ。紳士として女性を知ることは正義だからな!)
ほふく前進で風呂の在り処へと移動を開始する。
見張りは二人。キャルルとミズリーがいるので、外から回り込むように敵陣背後へと向かってゆく。
言うまでも無いが魔力の気配は魔法で隠している。あとは気付かれないように慎重に行動すればよい。
(貴方達は何をしているんですか)
(っ!?)
往々にしてアクシデントは避けられないものらしい。
俺達の進行を妨げるかのように、怨敵が立ちふさがった。
(貴様はオスカー……! 我々の邪魔をするなっ! そこをどけ!)
(させませんよ。貴方達の目的は僕が食い止めます)
(貴様! 我々の誘いを断ったのもそのためかっ!)
一人だけ頑なに断ったオスカーは敵陣に回ったようである。……こんのぉムッツリ野郎がぁ……!
(やめてください! 何をしようとしているか判ってるんですかっ?)
(……オスカー、確かにお前の行動は正しいのかもしれん)
(!! やっと判ってくれましたかっ!!!)
(しかし、正義とは人の数だけあるのだ。そのことをよく覚えておくがいい)
(――なっ!?)
俺は特殊能力によってオスカーの意識を奪う。
なんとっ、意思の弱い者なら俺は思い通りに操れるのだ……!
「――ん? 気のせいかしら……?」
まずい、一瞬だが結界に魔力を感知されたようだ。……ギリギリセーフか?
(障害は排除完了。アキヒト、行くぞ)
(……ああ)
一抹の不安を残して進路を刻む。
額に滲んだ汗を拭い、ただ信じる道を進んでいった。
もう少し、あともう少しで楽園へと辿り着く――――そう、それはそんな時だった。
「主」
その声を聞いた瞬間から鳥肌が治まらない。
俺達に向けられた狂気に全身から嫌な汗が噴き出す。
「その声はディズか」
どうやら俺はここまでらしい……そう悟るのは容易かった。
「言い残したいことはあるか?」
こくり、と頷く。
「キース、お前は先に行け。ここは俺が引き受けよう」
「……恩に着る。必ずあの世で会おう」
「ああ、最高の土産話を期待してるゼ」
フッとうすら笑みを浮かべて、ディズの方へと向き直る。
「主、覚悟はいいな?」
「……ふっ、さらば!」
そう言って俺は身を翻した。
逃げるのではない、これは戦略的撤退である。
そして当然のように俺を追ってくるディズの姿。そう、奴の狙いは俺だけだ。
「……お前の犠牲……無駄にはしないぞ」
万感の思いを断ち切るように、後に残ったキースがそう嘆いていた。
・
・
・
・
「さて、入るか」
最後の風呂の番になった。俺は痛む体を引き摺りながら樽の中へとダイブする。
「っ~~~~~!」
少し冷めてしまった湯の中でも出来たばかりの傷には堪えた。
染みる痛みをなんとか我慢して、俺は覚えたばかりの治癒呪文を唱える。
絶えず回復でも掛けておこうかと思い、でもしんどいかなと悩んで。
「ふん。全く、主にも困った者じゃっ」
ディズが不機嫌そうに鼻を鳴らして風呂へと飛び込んできた。
一応、俺が風呂に入る時にはディズも一緒にというのが定番である。(言っておくが俺の意思ではない)
「悪かったって謝ったじゃん。そろそろ機嫌を直してくれよ」
キースと別れた後、ディズの猛追にあった俺の逃走劇は森の中を1キロほど走った辺りで終焉を迎えた。
散々虐められて今の俺があるわけだが、未遂だったこともありディズの攻撃もなんとか半分程度に抑えられている。
たぶん、事後だったなら俺はまだ目を覚ましていないだろう。そのくらい危なかった。ディズの本気とは怖ろしい。
「もう絶対にしないから、許してくれ」
心から詫びる。嘘は吐いていない。
もしかしたらまた過ちを犯してしまうかもしれないが、今の所そんな気はない……。
「当り前じゃ。まあ、主もキースの様になりたいというなら話は別じゃがな……」
「滅相もありません。彼のことは本当に残念に思います」
と、思わず丁寧語になってしまうほど、キースの容態は深刻である。
聞く所に寄るとキースも未遂らしいのだが……ただ見つかった相手が悪かった。(キャルルだ)
瞬く間に襤褸切れにされた挙句、気を失ったままパンツ事件の時の記憶を消去されたようなのである。
可哀想……ではなく自業自得なわけだが。さらに俺が死力を振り絞って自力で(ディズに見捨てられて)戻って来た時には、事は全てキース一人の仕業として片付けられていた……!
無論、キースの記憶消去はディズの仕業である。
俺もそうホイホイと記憶を消されたくはないので機嫌はとっておきたい。(その気になれば奴はやるぜ?)
「お前には本当に感謝している。やり方はアレだったが、あれは俺を匿ってくれたんだろう?」
「た、偶々そうなっただけじゃっ。別に……その、主を助けてやったわけではないからなっ!」
じゃあ何で照れてるんだ? ふふん……初奴よ。
「そうか? お礼に何かやろうかと思ったんだが……」
「何!? それは真かっ!?」
えらい勢いで食いついてきた。物欲が盛んなようで。
「……何か欲しいものでもあるのか?」
「ある!」
「何だ? 言ってみろよ?」
「……その前にひとつ確認するが……主、ミズリーに指輪をやったじゃろ?」
……なんだ? その形容しがたい目は?
「ああ、あの指輪か……確かにあげたけど?」
「儂も指輪が欲しい」
そうきますか。いや、こいつなら全然不思議ではないが……。
「でもお前、指輪は嵌めれんだろ(指短くね)?」
「良いのじゃ~! 儂は指輪が欲しいのじゃ~!」
駄々をこねる子供のようだ。
「はぁ……分かったよ。んじゃ、指輪でいいんだな?」
真の姿ならまだしも、猫の姿で指輪は嵌めれるのだろうか……欲しいならいいんだけどね?
「ほ、本当か! 絶対じゃぞ! 撤回は無しじゃからな!?」
「はいはい。ジュノンに着いたら買ってやるから、もう少し落ち着こうな」
とは言ったものの……拙いな。これではおいそれと人に物を上げることも出来ないぞ。
渡した奴には口止めをする必要がある。でなければこいつにまた同じものを請求されそうだ。
「一応言っとくけど、あんまり言いふらすなよ? (はしゃぐのは)お前だけでいいんだからな」
「わ、儂だけで……わ、わかった! 誰にも喋らんっ!!!」
漸く機嫌は良くなったみたいで一安心。
もはや俺の気分は娘の機嫌を窺う父親のそれである。
「儂だけ……うふっ……くふふ……くひひひひひ♪」
「ぅ……」
かなり気持ち悪い声を出して笑うディズ。……なんだコイツ? マジでキモイぞ?
「……おい」
「ん♪ どうした主よ♪」
「……否……湯加減はいいか?」
「うむ♪」
ディズよ、安心しろ。俺はお前がどんな笑い方をしても受け入れてやるからな。
と、心の中で同情しながらもそのまま談笑して、綺麗な星空を堪能してから風呂を上がる。
体を拭いた後はディズの水気も拭ってやって、やっと俺達はささやかな夜を終えたのであった。
いつかR15の限界に挑戦しようと思った