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第二話 新人四天王、暗黙のルールを知る

 ヒヤヒヤものの謁見はなんとか無事に終わった。

 私はバンシー様の誘いを受けて、魔王城にそびえる四つの塔の一つへと招かれた。

 塔はそれぞれが四天王の屋敷であり、魔王城を守護する砦でもある。


 通されたのは、ごく親しい人物だけを招き入れる私的な客間だった。

 私も副官だった頃、何度か招いてもらったその部屋。

 同じ四天王となった今でも、その部屋に通される事が嬉しかった。


「今日が何曜日かわかりますか?」


 紅茶を楽しみながら、静かにバンシー様が語り始めた。


「はい月曜です、バンシー団長」

「あら、もう貴女の団長ではなくてよ、ウイッチ団長」


 懐かしい雰囲気につい以前の癖が出てしまった。


「四天王になって黒騎士を部屋に呼ぶ、魔王軍の誰もが夢見る事です。ですが、それを実行できるものはほんのひと握りの強者のみ」


 副官の頃は黒騎士の来訪を合図にこの部屋をさる事が度々あった。

 そのとき感じたのは姉の様に慕うバンシー様の手を取る黒騎士への嫉妬か、はたまた憧れの黒騎士と寝室へ消えるバンシー様への嫉妬だったろうか。


「よく、この高みまで精進しましたね」


「正直、かなり無理もしました。でもその価値が四天王の座にはあると思っています」


「そうね。私たち四天王の権力は強大だわ。ですが、四天王は文字通り四人います。皆がわがままを言って同じものを取り合えば混乱を招きます」


「黒騎士様ですね」


 思わず黒騎士に「様」を付けてしまった。

 力が全ての魔族領に王族は居ない。

 しかし、ガールズトークで定番の黒馬に乗って現れる王子様ポジションが、他でもない黒騎士だった。


「みっとも無く取り合えば、黒騎士様に愛想を尽かされてしまうかもね」


「そ、そんな!」


「だれもが黒騎士様に稽古を付けていただきたいと願っています。可能なら毎夜でも。そこで暗黙のルールが設けられました」


 月曜 四天王 主席 コルゴーン

 火曜 四天王 次席 バンシー

 水曜 四天王 三席 サキュバス

 木曜 四天王 末席 ウイッチ(私)


「これが、黒騎士様を独占するルールです」


 なるほど、稽古は順に週に一度というわけだ。


「金曜と週末は?」


「金曜と日曜は休養日です」


「そうなりますと、メインの土曜が余りますね?」


「土曜は魔王様です、日曜も午前は魔王様ですね」


 なるほど、力のある者から順に相手になるというわけだ。

 休養日の翌日である月曜が四天王筆頭であり、土曜が魔王様なのも頷ける。


 月曜 四天王 主席 コルゴーン

 火曜 四天王 次席 バンシー

 水曜 四天王 三席 サキュバス

 木曜 四天王 末席 ウイッチ(私)

 金曜 休養日

 土曜 魔王様

 日曜 休養日


「しかし、お姉さま。昼間は戦場か練兵、夜は魔王や四天王と訓練ってことですよね? 黒騎士様は金曜の夜しか休めないじゃないですか!?」


「あら?そんなに黒騎士様のお体が心配なら、貴女の割り当てになる木曜にゆっくりしてもらえば良いのよ」


「え? そ、それは……せっかく四天王になったのですから私も訓練を」


「まぁ、気にしなくていいと思うわ。黒騎士様はこのローテーションを貴女が生まれるずっと前、何代も前の魔王様の頃から続けているのよ。噂では初代魔王様の頃には既に魔王軍の戦列に加わっていたとも言われるわね。貴女、戦場で精彩を欠く黒騎士様を見たことがって?」


「いえ、一度たりともありません。黒騎士様はずっと私達の憧れ、完璧な騎士でした」


 黒騎士様の心配がなくなれば、次は自分自身の事を心配しなければならない。


「あのぅ、お姉さま。その、黒騎士様との訓練は、えーとどのような感じなのでしょうか?」


 実は夜間訓練の経験が無かったりする。

 魔族の娘はだれでも最初は黒騎士様に憧れを抱くのが普通だ。

 しかし、彼を手に入れるには最低でも四天王の地位を得なくてはならない。

 それが無理だと諦めた者から、次の良い物件を探しだす。


 私は四天王を目指せる力を持っていた。

 だから、黒騎士と直接対面を諦めなかったのだ。


「なんでもよ。彼は接近戦においては魔王様を凌駕するわ。貴女が基礎訓練を望めばそのように。真剣勝負を望めば何度も気を失うほど攻め立ててもくれるわよ」


 流石は百戦錬磨の黒騎士様だ。


「ここだけの話だけど」


 はい、ここだけの話は大好物です。


「筆頭のゴルゴーン様はね、訓練中は黒騎士のことをお兄ちゃんと呼ぶのよ」


「あの、ゴルゴーン様が!?」


「月曜の軍議だったわ。一度だけね、うっかり気を抜いてそう呼んだの」


「私だったら恥ずかしさで死ねます」


「そこはゴルゴーン様。自分が死ぬくらいなら皆殺しを選ぶわ。ゴルゴーン様は会議の出席者を石化しようとしたのよ」


 ひええぇ。


「それで、どうなったのですか? 黒騎士はなんと?」


「とろける様な笑みでね『なんだい?ゴッツン』と応えたわ」


 ご、ごっつん?


「ゴ、ゴルゴーン様……黒騎士様にゴッツンって呼ばせているんですね」


「常にうねり続けている蛇の髪が、へなへなになってね。一斉に脱皮したわ」


 なぜに脱皮!?


「蛇の髪がしおしおのぷーになってね、初めてゴルゴーン様の素顔を見たわ。あの方ってば可愛らしいお顔をしてらっしゃるのよ」


 ちょっと想像がつかない。


「間違えても本人の前で口にしては駄目よ。石化から粉砕のコンボを食らうわよ」


「それでは黒騎士も大変ですね」


「黒騎士はその桁違いの状態異常耐性で、ゴルゴーン様の目を真っ直ぐに見つめるらしいわ。そりゃゴルゴーン様もイチコロよね」


「ちなみにバンシー様はどのような夜間訓練を?」


「あら? 聞きたいの?」


「こ、後学のために是非とも」


「ママって呼ばせているわ」


 ここは本当の魔界だった。

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黒騎士がざぁこだった頃の話「ヴァルキリーの私を倒して、町娘に結婚を申し込むだと? 残念だったな、その町娘の正体は私だ!」もお願いします。

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"> ☆『嘘つき聖女は神を愛していたか?』
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