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第七十六話 大丈夫?オッパイ揉む?

三万PVありがとうございまする

 アダマス達は道を往く。

 この『グルメ通り』はオシャレ通りとは対照的に、天然石を平たくした、不揃いな石畳が使われる。

 石がパズルのように組み合わされて並べられた庶民的な道なのだ。

 此処が湖の街である為、稀に貝の化石なんかも混ざっていて歩く事を飽きさせない。


 歴史と共に新たな店が生まれては、時代に付いて行けなくなった店は消える。

 此処はその庶民的な雰囲気とは別に、かなりの激戦区であり、最新の技術と歴史ある秘伝が入り乱れる。


 左右には新旧入り乱れた画風の看板に、新旧入り乱れた機械達。

 それをエミリーはキラキラした少女の瞳で興味深そうに見ていた。今の彼女はシャルよりもずっと年下に見える。

 何時も昼食やデートなどで此処を通るシャルはキョトンと小首を傾げて、彼女へ尋ねる。


「そんなに面白いものかや?」

「ああ。ロマン情緒溢れていて実に素晴らしい。現代のものに旧い機械が張り合っているのは非常に萌え要素だよ」

「ふーん?そうなのかや。違いなんて分からんのじゃがのう。例えばどんなのなのじゃ?」


 肩を震わせてエミリーは笑い、近くの古ぼけた店を指差した。

 よっぽど言いたい好奇心を秘めていたらしい。やたら早口で語る。


「例えばあの店の壁なんだがね。

壁に付いた大きな歯車がまるで水車小屋みたいになっているだろう。

あれは川の吸熱作用を川自身の魔力で強化する物凄い初期の大型冷却器なんだ。

確かに今は子供でも持てるサイズの冷却器が出回っている。


しかし!しかしだ!

総合的に見るとあの冷却器が最も壊れ辛く、繊細な温度管理が出来たりするのだ!

しかも当時の機械は元より、今のものと比べても環境に優しい名作なのだよ。


これを選んだ店長は見る目があるよ!」


 そういった早口の圧に蹴落とされそうになるシャルは、冷や汗半分に苦笑いを浮かべた。

 なんとなしに脇を締めてしまいつつも、思いついた疑問を子供心ながらに返す。


「お、おう……さよか。まあ、確かにあの店の魚の鮮度は良い感じじゃったな。

だったらみんながアレを使えば幸せになるんじゃないかの?」


 しかしエミリーは額に白魚のような五本の指を当てて憂いの表情。それが出来ない事が分かっているのも、ロマンたる由縁なのかも知れない。


「実は歯車に使う魔力共鳴合金の素材がかなり高価なんだ。マトモに動かすだけであそこまで巨大化させる必要があるし、細かいメンテナンスも必要だね。

川の近くである必要がある事も欠点か。

そういう訳でロマンの域を抜け出せないんだ。使ってる人はよっぽど(こだわ)りがあるんだと思うなぁ」


 「なるほどな」と、シャルは歯車を様々な方向から見ていた。

 その回転はゆっくりだが、言われると確かに力強さが感じられる。


 そんな様子を遠くで見ているのはレオナである。

 普段なら「あっそ」とばかりに両手で後頭部を抱え、壁にでももたれかかっているのだろうが、今日はアダマスと手を繋いでいるので顔だけの無常。

 しかし、その顔は彼を見る。


「んで、目的のメシ屋には連れていかねぇの?」

「うんにゃ、連れて行ってはいるよ。エミリーが偶然にも絶賛しちゃった」


 そうしてアダマスが無表情。しかし少し楽しそな雰囲気で指差した先は、古ぼけた機械を使うに見合って古ぼけたパスタ屋だ。

 実のところ彼は内心で大爆笑しているのだが、レオナの反応を楽しみたいので敢えて無表情の仮面を被って紹介する。

 現にカァと顔を真っ赤にさせて、行き所のない感情を頰に溜め込んでいるのが丸わかりだ。額にヤカンでも乗せておけば沸騰してしまうやかも知れない。


「ん。そんなに顔を熱くしちゃって大丈夫?

オッパイ揉む?」

「……いや、無いだろお前」

「最近は雄っパイというジャンルがあるらしいぞ。男の胸筋による膨らみが萌え要素になるそうな」

「……だからどうした」

「ボクも鍛えて筋肉が付いてきた。その内ボクがレオナを守ってあげるね」

「……あ"〜、そうかい。期待しないで待ってるよ」


 エヘンと胸を張るアダマス。渋みのある表情でレオナは彼の胸をペチペチと平手で叩いた。

 確かに野球小僧程度に薄い胸筋が張り付いているのが触覚から解る。

 それでいて硬すぎないのはハンナの訓練によるものか、魅入ってしまった。

 なので必要以上にペチペチと叩いてしまい、表情も口を半開きにさせて目の前に集中したものだ。

 だからアダマスはニヤニヤとさせた。


「なんだぁ、なんだかんだで興味津々じゃないか。スケベさんめ」

「はっ!?いやいや、これはだな!」

「これは?」

「これは……えぇとだな……」


 レオナは下を向いて少しモジモジと指を絡ませる。

 普段なら己の指同士を絡めるが、今回は片手を繋いでいるので繋いだ彼の指と無意識に絡めていた。

 それを満足そうに見たアダマスは、クィとレオナの腕を取ると、笑顔で店に引っ張っていく。


「ま。それはそれとして、ご飯食べようか」

「あっ、ああっ、そうだよ!そう言いたかったんだよ!」

「ハイハイ、そうだねぇ。ボクの読心術もそう言っているよ、多分」


 クスクスと笑うアダマスはドアノブに手を掛けた。


「やあ、メリアンさん。五人でお願いしまーす」

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