第七十三話 あつまれ、よいこの皆!
「よいこの皆、あ・つ・ま・れぇ〜っ!」
「「「は〜っい」」」
オシャレ通りのありふれた服屋。
中の通路にひとりポツンと立つエミリーが一本指を天へ掲げつつ一声上げると、子供三人組が彼女の周りに集まった。
腕組みつつ、それを見るのは頭にジャラジャラと飾り付けたレオナ。アホを見るような視線で彼女は尋ねる。
「なーっにやっとんだ」
「子供番組のお姉さんごっこ」
少し服屋で買い物をしていたら雰囲気がソレっぽくなったのでやってみたのだ。
因みに、この世界においてテレビはまだ発明されておらず、皆が映画館で映像を楽しんでいる段階(良くてラジオ)なので子供番組と云う概念は存在しないのだが、古代のオーパーツとして記録媒体がたまに見つかる事があるのである。
エミリーは手を大仰に広げてクルクルとフィギュアスケートのように、ハイヒールで器用に回る。ヒラヒラしたスカートが上品に舞い上がった。
納得したレオナはそのまま肩を竦める。
「お前って子供に囲まれるの好きだったもんな。んで、続けんの?このノリ」
「楽しくなってきたからもう少し続けようと思うよ」
言うや否やレオナに対し斜め45度に顔を向けるカメラ目線でウインクひとつ。
アダマスは読心術でタイミングを合わせ、話題を投げるために前フリの茶番劇調に会話を作る。割と棒読みなのはご愛嬌。
「シャル、マーガレット。すっかり寒くなったね。もしかして上着とか必要じゃないかな」
「ううん、私はパーカーだから割と暖かいよ。でも、お姉ちゃんはおヘソを出しているから割と心配。そこらへんどうかな」
マーガレットはパーカーの襟元を掴んでパタパタと動かすと、シャルの方に視線を動かした。
「実は結構寒くてのぅ。しかしそのまま上着を着てしまうと、不思議と合わん。
もうオシャレは気合と思って諦めるしかないのかのぅ」
腕を組んで悩むような動作をすると、その後ろに控えていたエミリーがカニ歩きでコソリと近付く。
三人は気付かないフリをした。
さっき挨拶をしてずっと近くに居たのだから気付いていて当然なのだが、こういうのも様式美なのだ。
「なんだって、それは大変だ!」
上り調子のアクセントを効かせた登場。
エミリーの番組ごっこの中ではきっと決め台詞に違いないその台詞、取り敢えずアダマスはこの辺で彼女に話題を全部投げれば勝手に話は進むと判断する。
「「「あっ、エミリーお姉さ~ん」」」
「は〜い、こんにちわ~。
そんな君たちに良いものをがあるよ~」
手を振る彼女は心の底から嬉しそうに手を振った。本当に子供と遊ぶ事が好きなのだろう。エミリーが楽しそうで何よりと、自然とアダマスも嬉しくなる。
そんな、内心祝われているとも知らない彼女は両手で一着のシャツを掴んでいた。
「じゃじゃんっ!今日紹介するのはこの『ブラウス』。フリル付きのゴスロリちっくなヤツだね。
これをシャルちゃんに着て貰うよ」
シャルはポンと、予め買っておいたブラウスを渡された。
拡げてみるとフリル付きな部分も目に留まるが、色も普通のブラウスと違うものである。
「小豆色なんじゃの?」
「そうだね。アダマスくんと対照的なのと、暖色系の方が髪飾りに使っているシュシュの色に合うと思ってね」
「ほーん、なるほどのぅ。まあ、ちょっと着てくる」
そうしてシャルは更衣室にマーガレットと入る。
マーガレットの着付けが大分上手かったのだろう、シャルはTシャツだけ素早く着替えて現れた。額に手を添えた決めポーズも一緒である。
「クックック。どうじゃお兄様、似合ってるかや」
「おおー、何時もと違う感じが中々良いじゃないか。折角だし、これも付けてみよう」
アダマスは更衣室に向けて、黒いコルセットを投げ入れる。
それはシャルのトレードマークであるカボチャパンツと同じ色で、付けてみると一体化したように見える。
その姿を確認したエミリーはついでだと、人工オパールで作られた黒いブローチも取り付けた。納品用に持っていたのが幾つか余っていたのだ。
「これにて、冬風シャルちゃんの、か~んせ~。
この組み合わせならちょっと冒険してハットを被っても可愛いんだろうけど、それだとせっかくの猫耳が隠れちゃうから、今回はなしで」
出来上がったシャルは大鏡を見てクルクルと回って自分を楽し気に確認して、兄をチラチラと見る。
だからアダマスはシャルの猫耳を掴んでピコピコと動かしてやると、とろける様に甘い表情を見せた。
その様子を見送った後、エミリーは遠くで見ているレオナに向き直る。
そして人差し指で彼女を指し示し、言った。
「さあ、次はレオナの番だ。確保っ!」
「……え?」
そこからは早かった。
マーガレットが一瞬で距離を詰め、アメフトのタックルでも極めるかのように更衣室に引っ張り込む。更に何時の間に買っていたのやら、アダマスが紙袋をマーガレットに渡すと、ドタバタという音が聞こえて更衣室のカーテンが開かれる。
「おぉーっ、何時もと違う服を着ていると印象が大分変わるなぁ」
「いや、コレってスカートになっただけで大して変わってないだろ」
「いやいや、変わったよ?ものすごく」
更衣室のレオナは戦闘服を脱がされて、縦ラインのタートルネックセーターを着せられていた。黒のワンピースタイプである。




