第七十二話 白くて熱くてほんのり苦い、トロッとしたアレ
ゴンザレスはエミリーと真っすぐに目を向かい合わせていた。
「それで、本日はどのようなご用件で?」
「ん〜、これといった用はないんだけど、ちょっとこの子の様子を見にね」
エミリーはそう言って人差し指で己の下唇を押さえながら、自動販売機をコンコンと軽く叩き、袂から取り出した小銭を入れていく。
彼女からしてみれば単にジュースを買い求めているだけなのだが、見張りからしたら何やら重要なメンテナンスの一環なのではと、恐れ多くもジィと見守っていた。
互いの事情を詳細に知りつつ、遠くからその様子を見るレオナは苦笑いを浮かべるしかない。
竹筒が自動販売機の取り出し口の横からポコリと出てきては、その上部から甘酒が注がれる。麹が醗酵する独特の匂いがした。
こうして出来上がった甘酒の入る竹筒をヒョイと持ち上げると、フクロウのようにコテンと顔を横に倒したエミリーは横に声をかける。
「ゴンザレスくんも欲しいかな?」
「いえいえ。私は後で頂きますので」
「ふーん。この子がマジメな見張りに恵まれて嬉しいよ。後で冒険者ギルド長にも評価するよう言っとくね」
彼女はケラケラと笑うと、再び手の甲で自動販売機をカンカンと叩く。ブリキが鳴る良い音がした。
そして残り人数分の甘酒を買っていくと、軽く手を振って別れていったのだった。
◆
「マジメな見張りじゃないか。あれなら多分、仮に見つかったとしても、からかったりはしないと思うなぁ」
レオナに竹筒を渡して一言。
軽い調子で話しかけると、彼女から息が詰まったような顔を返された。
だからなのか、エミリーはポンポンと酔っ払っているかのように肩を叩いた。
「まあ、分かってるんだろうけど、恥ずかしいよね。でも、そこでアクセサリーを取らないトコロがレオナの良いところだよ」
「うっせーなって、甘っ!?
いや、酒っぽい味はするんだけど甘っ!甘過ぎ!砂糖入れ過ぎだろ、コレ!」
そっぽを向いて竹筒に口を付けた途端に大きく言い放つ。竹筒の一部が噛み千切れ、繊維が露になっているのは流石の咬筋力である。
聞いたアダマスらも飲んでみるが、納得の表情だ。
しかし彼はこれといって狼狽する様子は見せず、スルスルと竹筒の中身を飲んでいった。
「ホントだ、甘いね。でもそんなに甘いかなぁ、ボクは大丈夫だけど」
そう言うアダマスの隣では、味覚の鋭いマーガレットが、下品にクチュクチュと甘酒を舌で転がしていた。
こうして口をゆすぐように味わう事で、口全体に張り巡らせたアンテナで材料や成分やらを繊細に感じる事が出来るのである。
そして一通り味わった後、グビリと一気に飲み込んでコメントを残す。
「ふーん、砂糖の味はしないかなぁ。
この味は〜、確かに米麹ってだけあって米の甘味だなぁ。たまに見かける遊牧民の屋台で作られている『口噛酒』に近いかも」
「あー、確かに前に広場で売っておったの、こんなんだったっけの。最終的にものすごーっく、薄めたやつ」
どうやらシャルも一緒に飲んでいたようで、話に加わる。
アダマスは「ヘェ」と相槌を打ち、はじめはどうしていたのかと聞くと、はじめは濃すぎて飲めなかったそうな。
それでどうやって濃さを調整していたのか。
「広場という事でコギーが居ての。『男ならこれを飲んでみろ』と挑発してみたところあっさりと……」
「あ~、なんか目に浮かぶなぁ、ソレ」
ジト目でシャルを見つつ、アダマスは竹筒に口を付けて甘酒を飲み干した。
その一方でエミリーガケラケラと笑って、同意の意を示す。
「アハハ、大変だよねぇ。アレ」
「おおっ、エミリーも分かるのかや」
「そりゃ分かるよー。これを調節したのも私達だし」
どこに同調出来る部分があったのか、聞けば甘酒は少し濃度を間違えると、飲んだ人が先ほどのレオナのような反応を見せる飲み物になってしまうそうな。
そういう訳で開発部では飲むのに適した濃度でありつつ、保存も効いた飲料でなければいけないと苦労の連続だったとか。
「最後辺り、リンなんてベロベロだったしね。
三つ編みがほどけて凄い状態だったなぁ」
彼女は上を見てしみじみと何かを感じつつ、ゴミ箱に竹筒を捨てた。
皆もそれに続いて、最後にレオナが捨てていくとニヘラと満面の笑みを浮かべて、手をパンと叩く。
「ん。ほんじゃ一服も終わったし、行こうか」
「ああ、そういや服を買いに行くんだったか。服なんて実用的な物で十分だと思うんだけどなぁ」
「えー、そんなの勿体ないよ。せっかくのモデル体系なのにねー、アダマスくん」
エミリーがヒョイとアダマスを持ち上げる。
彼は両手をレオナの頭に持っていき、その頭を撫で回すのであった。
「きっと似合ってるよ」
唇を尖らせつつも黙って撫でられるレオナがそこに居て、勢いに乗ってシャルとマーガレットも彼女の身体をよじ登って頭を撫でた。




