表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/83

第五十五話 嘘つきな冒険者

 冒険者ギルド出入り口前。


 ざわめく商人達の視線は、明らかに中古だと分かる土まみれでボロボロのリヤカー……正確にはその上に乗せられている、ドラゴンの頭へ向けられていた。

 胴体から離す為にノコギリのようなものでかなり力任せに切られたのだろう、首の断面はボロボロだ。


 ドラゴンの頭の上にはチョコンと胡座をかいて乗る背の低い男がひとり。

 彼はまるで修行僧のような格好だった。

 深緑のローブに三角帽。口布で顔を隠しているが、その隙間から見える皺と曲がった腰からから老人であると伺える。


 口布の隙間から金色の煙管を吹かしなんとも呑気なものだ。

 しかし裏腹に、そこは一触即発の状況だった。

 怒声が響いて、それを男が聞き流すという場面が繰り返されているのだ。


「だからジジイ、そのドラゴンは俺たちが狩ってきたモンだって言ってんだろ!」

「いや、これはワシが冒険者から見張っているよう借りているもんじゃよ。

その冒険者はギルドの中に()るから確かめればよいじゃろ」

「そーやって中の冒険者とグルになって言質を取るつもりなんだろうが!そうはいかねぇからな。

大体な、ドラゴンの頭を見ず知らずの他人に預けるバカな冒険者が何処に居るんだよ!」


 ビシリと指差して、怒声を浴びせるが何処吹く風で口布の隙間から煙を出した。


「ふぃー。

常識に囚われちゃいかんよ。そーいう事もあるじゃろて」


 一部始終を見ていたアダマスは、怒声の主に顔写真で見覚えがあった。

 モラルの悪さで銅級冒険者だが、実力だけなら鉄級上位のドーフンだ。


パシャ、パシャ。


 ハンナは取り敢えず記者らしくと云う事でカメラのシャッターを切った。

 その矛先はヒキガエルのような平たい顔をしたドラゴンの頭。

 その愉快な形容とは裏腹に、表情は歯を食いしばり、目は今にも飛び出そうな程見開かれている。

 そして撮られる事をよく思わず、荒げた声を上げるドーフンである。


「てめっ、何撮っているんだよ!」

「これは失礼。私、ラッキーダストタイムズの者です。ドーフン様ですね。

本日はドラゴン討伐、誠におめでとうございます」


 飄々と成果を社交辞令で褒めるハンナ。

 しかしドーフンは一転、得意げな顔になった。


「おっ、分かってるじゃねーか、ねーちゃん。どうだスゲーだろ」


 滅多に褒められた事がないから、些細な事でも真に受けてしまうのである。


「はい。御立派で御座います」


鼻の下を伸ばして、ついでにハンナの豊かな胸元をジロジロと嫌らしい目で見た。

ハンナ自身は「あらあら」と営業スマイルで流すが、隣のアダマスはムッとする。


「それで、どのように倒したのか教えて頂けませんか?」

「ああ良いぜ!ドラゴンの弱点は首元の逆返った鱗。いわゆる『逆鱗(げきりん)』だ。

これを突く為に色々考える必要があるが、その時に役立つのがこの斧と槍の特徴を併せ持つハルバードって武器。そして、俺様の腕力よ!」


 ドーフンはガッハッハと笑って背中から取り出した、重そうなハルバードを振り回してみせた。

 おおと感心した表情を作り相槌を打つハンナ。

 興が乗ったドーフンは、これぞといわんばかりに得意げに腕をめくり、力こぶを作って見せる。


 しかし読心術を使えるアダマスは冷ややかに目を伏せて呆れていた。


(……ドーフンの言ってること全部が嘘。

まあ、だからといってアーサーの言っている事もアレだけど)


 そこまで思って、チラリとアーサーの方を見やると、タイミングよく彼は慌てたように声を荒げる。


「ちょっと待て、嘘をつくんじゃない!」

「あぁん?なんだ、クソ雑魚のアーサーじゃねぇか。今忙しいんだ。引っ込んでろ」


 ギロリと睨みつけて威圧する。

 しかしアーサーは目元を少し潤ませつつも下唇を噛んで、向き合った。


「そ、それは僕の討伐したドラゴンだ!勝手に自分の手柄にするんじゃない」

「はぁ?

木級ソロのテメェがドラゴン?おいおい、嘘をこくならもっとマシな嘘をつくんだな。そもそも、このドラゴンに名前でも書いてあんのかよ。

大体、木級のテメェに信用なんて……あ、そうだ」


 自分は銅級な事を棚に上げてそう言うドーフンは、ニヤニヤと悪巧みを閃いた顔をする。

 そんな様子をただ見ているだけなのはギルド長であるレオナだ。

 彼女は腕を組んで壁を背もたれにため息を吐く。

 ドラゴンの頭は出所が定かでないので、ギルドは法律上『部外者』という扱いになるのである。


 ドラゴンの頭に座って相変わらず煙管に耽る老人へ、ドーフンは語りかけた。


「ジジイ。さっきは怒鳴って悪かったな」

「なんじゃ急に。気持ち悪いのう」

「実はその頭はな、そのアーサーの野郎に盗まれたんだ。領主法の届かない場所で、ギルドとは関係ない頼みを受けてな。で、倒したからリアカーに乗せてたんだよ。

そしたら頭が無くなってて探したんだ。どうだ、ちょっと泥棒退治に協力してくれねぇか」


 実は彼のパーティーの実力だけなら、ドラゴン一体くらいなら倒せない訳ではない。

 なので死体をアーサーに頭だけ盗まれたと言うなら無いわけでもない話になってくるのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ