第三十話 ん?今なんでもって……?
祝!ユニーク2000人突破!
朝食を終わらせ、領主の部屋へ行くと朝の仕事がはじまる。
食器の片付けという事でマーガレットを抜いた全員が定位置へ付いた。
早速ハンナが話し出す。
「議題は先日のテロリスト集団による、コークス及び武器の密輸の件です。先ずはエミリー技術顧問から一言、お願いします」
「えー、マイテスマイテス。本日は晴天なり。どうも、エミリーだよーん」
「ちょっと、真面目にやりなさい」
「良いじゃないか。身内しか居ないし」
「そういう問題ではないでしょう。こういった事は公私混同してはいけないのです」
かつて王宮に勤めていたハンナとのやり取りへ、頬杖を付いてアダマスは笑い顔で口を出す。
「うーん。ハンナさんの気持ちも分かるし、そうだね。褒賞として無礼講を取る許可を与えるよ。
エミリーには返し切れない恩があるからね。どの発明品に対する褒美が良いかな?」
「ははー、ありがたき幸せ。
では、作った当時忙しさの関係で未だ頂いていなかった、無限エネルギー理論の褒賞など如何でしょう」
笑っていたアダマスは表情筋を強張らせた。
ギョッと目を見開いて、パチクリと瞼を開閉させる。
彼としては正直な話、何でも良かったのだ。どんな下らない発明品でも、無理矢理それを成果にして褒賞を渡す気であったのだから。
しかもこれは吊り合わな過ぎる。
その気になれば世界のエネルギーバランスをひっくり返せるとんでも理論を、高々口使いひとつなんかと対等だと言うのだ。
このやりとりを楽しもうとしていたのに、つい本音がポロリと漏れる。
「……え?ホントにそれで良いの?」
「おや、お気に召しませんでしたかな」
「いやいやいや、ボクは良いんだけどエミリーはホントにそれで納得出来るの」
「勿論さ。世間の常識をひっくり返す権利を貰うのだから、世界をひっくり返す成果が必要だろう?」
少しピクリと肩を動かし、それを見たエミリーは「ああ、これは何かがあったのだろうな」と感じた。これくらいはアダマス程の能力が無くても解る。
ニヤニヤとしながらアダマスを見て、言う。
「と、言う訳で改めてよろしくね、アダマスくん。
ああ、私は君がもし軽い気持ち……例えばポッキーゲームなんかでポンポン渡していても一向に構わないから」
「う、そう言われるとグサってくるなぁ。取り敢えず永続的だから、それで勘弁して」
「否定はしないんだね。ま!良いけど!」
アダマスが気まずそうに目を逸らして図星を表現すると、エミリーは楽しそうに彼を弄る。
ハンナも「それなら良いです」と言わんばかりにニコニコと見ているだけだ。アダマスは溜め息をついて向き直った。
「改めてよろしく。
実際、成果ひとつにつき褒賞ひとつってのが国の規則だけど、これに従うととんでもない量になっちゃうよねぇ。無礼講ひとつじゃ安過ぎる。
なんか欲しくなったら何時でも言ってね。
なんでもあげるし、なんでもしてあげるから」
その一言へエミリーの片眼鏡がピカリと光る。
「なんでも!?じゃあアダマスくんを貰って……」
「それはダメじゃ!ほらほら、仕事仕事!」
シャルの横槍へエミリーは口を尖らせ、大人しく外套の下から布袋を取り出し、中身を取り出す。先ずはひとつまみ程の大きさをした黒い石のような物を取り出した。
「ちえっ。じゃあ、先ずはこれね、分析してみたけど割と新作っぽいコークス」
ところで、この世界のコークスは地球における『コークス』とは違う。大きく違うのは魔力のお陰でタービンを必要としないところだ。
地球では石炭を蒸し焼きにし、炭素部分だけを残したものが『コークス』と呼ばれる。
しかし、この世界においては蒸し焼きでなくて錬金薬で様々な処理を行う。
その処理によって内部にカルボン酸(化学式COOH)の他、魔力的刺激を与えた際に共鳴作用を起こし分解させる化学物質を含むようにする。
そうして自身がタービンのように水蒸気(化学式H2O)を発するようになった石炭を総称してコークスと呼んでいる。
なので、より思った通りの刺激で反応させたり、蒸気圧を上げる為に他に混ぜられる化学物質はコークスによって多種多様であり、均等でないのが常識だった。
それでも元が石炭という事は一緒なので、魔力波長を人力で合わせる事は比較的簡単である。
尚、魔力とは古来より「琥珀を擦って外に纏わつくのが電力、中に溜まるのが魔力」と、呼ばれる程に電気と対照的に金属と相性が悪い。
(ただし金属そのものの性質は便利なので魔力共鳴金属といった、多少劣化しても魔力を流せる金属の研究開発は行われている)
なので磁石についてあまり研究が進まず、故に電気に目を付けられない。
それがこの世界において蒸気機関が生き残っている一旦とも言えた。
「先ずは威力が凄いね。従来の三倍くらい。
魔力を籠めないで分解させてみたんだけど、蒸気圧だけで鉄板が凹んじゃってね」
ケラケラ笑いつつ、袋から厚紙ほどの厚さを持つ鉄板を取り出す。
確かにそこには粘土に野球ボールを埋め込んだかのような凹み跡が付いていた。
周りによく見えるよう、鉄板を高く掲げながら一通り笑った後、それを袋へ戻し彼女はピタリと笑う事を辞めた。
下腹を摩って話を続ける。
「でも悲しい事にね、この威力を生み出す代償として発生する有害ガスが酷いね。有毒性が従来の九倍っていう、ほぼ毒そのものな代物だ。使い続ける方も、周りで吸わされる方も後遺症が酷いだろうね。
……で、これが何に使われているかなんだけど、こんなものがあったのさ」
そう言ってコークスを袋へ戻して袋から新たな物を取り出す。
水分子を含むのだからカチカチのコークスではなく、ブヨブヨのゲルじゃないかということは突っ込んでいけない




