第二十九話 今日の朝ご飯はオムレツ
マーガレットの服装は普段通りメイド服。勿論エプロンだって付いている。
しかし今回はシャルも、機能性の悪そうな令嬢のドレスの上からエプロンを付けていた。そんな少女二人が足拍子を取り踊る。
「パッパラパリラー」
「たりたりら・ヘイ!」
足拍子の後にクルリと回り、互いに手を揃えて終曲。これといって意味のないアドリブの歌が食堂に響いていた。
食堂へ入ったアダマスが先ず目撃したのはそれである。何時もの事なので「何をしているか」とまでは聞かないが、椅子に座ってマーガレットに話しかける。
「取り敢えず、お冷貰える?シャワー浴びたら喉乾いちゃって」
「ガッテン任せろい」
パタパタと陶器製の水入れポットに歩んでいくマーガレットを見送り、先程からチラチラと此方を見ているシャルと目を合わせ、口を開く。
「シャルはエプロン姿も似合ってるね。可愛いよ」
「クックック、当然じゃろう当然じゃろろ。妾はかわいいからな!」
フンスと鼻息を吹いてアダマスの隣に座り、彼から頭を撫でられる。
そこまで手慣れた自然な動作で行った後、やはり自然な動作で手を離して仕事へ戻って行く。これから配膳を行うのだろう。
「しかし、あのヒラヒラドレスにヒラヒラエプロンでよく汚れが付かないものだね」
「鍛えてますから」
いつの間にやら隣に戻っていたマーガレットが水入りカップを渡して来たので、甘く澄み通るそれで喉を潤した。
彼女のメイド服の柄は白とピンクのストライプと汚れやすそうで。
しかもエプロンは腰から下しかない、所謂サロンエプロンと呼ばれる意匠重視。しかもフリル付きである。
それを見ていると『それもそうか』と、何処か納得出来る。
ついついなんとなく似たような事をしてるファミレスの店員に敬意を示すのであった。
◆
ラッキーダスト領は豊かな土地だ。
湖にはマスをはじめ、チョウザメやカニ、エビや貝などが鱈腹あり、盆地故に半周を山に囲まれ山の幸や山の麓に居る平原の生き物を冒険者達が取ってくる。
更に湖から川で繋がる海との交流もあれば、バザーに行商人がやってきて、様々な地方の食べものを売っている。
そういった訳で贅沢な朝食をやろうと思えば出来るのだが、上級貴族にしては随分質素なものだった。
テーブルにはバターロール。そしてトマトペーストが添えられたプレーンオムレツ。
空のカップと小皿。それが五つ。
中央にはドレッシングがかけられた葉野菜のサラダが深いボウルに盛られていていた。
アダマスの隣にはいつも通りにシャルが座り、その反対にはマーガレット。
向かいにはハンナとエミリーが隣り合って座っていた。「さっきはお風呂場で挟んでいたから交換」との事だ。
サラダがハンナの手によって小皿に移された。
これくらいはアダマス個人でも出来るが、メイドとしての仕事らしく、慣れた素早いトンガ捌きには匠の技を感じさせた。よく見ればそれぞれの体調に合うように量が違う。
そしてそれぞれミルクが注がれ、皆で手を合わせた。
「いただきます」
アダマスはサラダを口にする。
塩と酢とオリーブオイルによるシンプルなドレッシングを使っているのが舌を刺激する苦味から分かる。酸味を程々にしているので印象的だ。
それ故なのか、サラダが葉野菜のみだからなのか、苦味が少し強い。
なるほどと、トマトペーストで味を付けたオムレツを食べ、パンが欲しくなるのでバターロールを口に入れた。
外はカリカリ、中はフワフワの食感に舌鼓を打ち、ミルクで流し込む。
「うん、美味しいね。これは多分マーガレットが作ったのかな」
「正解です!私頑張った!」
「よーしよしよし、偉いぞ」
「えへへ」
元気よくシュビッと手を上げる彼女に、どこかホッコリして頭を撫でてやった。
彼女はくすぐったそうに、しかしやられるがままに撫でられる。
下ごしらえや、仕上げなど細かな調節はハンナなのだろうが、着々とメイドとして成長している事へ嬉しく感じる。
しかし今は食事中。名残惜しくも手を放した時、そういえばと隣のシャルが話を切り出す。
「しかし、せっかくここまで揃っているのだからレオナも来れば良いのにのう。そうすれば一家全員集合なのじゃが」
八重歯剥き出しでガツガツと男らしい食べ方をしながら、冒険者ギルド長をしている第四夫人の事を言った。
それに対して返すのはハンナだ。
「レオナはこないだお仕事の書類であったコークス騒動の後片付けで、冒険者総動員したので忙しいらしいですね」
「……え?あー、そういえば確かにあったの。貴族の書類を偽造して大量にウチに現地組み立て武器とコークスを持ってきたヤツ。テロをするつもりなんじゃったっけ。
そういえば、なんでコークスなんじゃろ」
そこへ応えるのは、マッドな雰囲気とは裏腹に、優雅な仕草でオムレツを口へ運ぶエミリーである。
ハンナと並ぶとまるでどこぞのパーティーの光景ですと言われてもおかしくない。
「簡単に言えば技術の差と汎用性だね。
後でお仕事の時にもうちょっと詳しく説明するけど、ウチは魔力の波長調整が上手いし、その為の施設もあるから小さなエネルギーでも効率よく望み通りの強さに強化出来るんだ。
だからコークスのような化石燃料は使わなくても良い。因みに無限エネルギー理論もこの辺が関係してるね。
でも、大体の領地はそこまで波長を調整する事に技術とかお金とかを使っていないんだ。
ところが、波長は物質に合わな過ぎると逆効果にもなる。
だったらどうするか。
元々のエネルギーが強いコークスを、弱体化しない程度に僅かな魔力で強化して、動かす。
だから、ウチの波長が登録されていない外部から取り寄せた武器で暴れようとすると、どうしてもコークスが必要になるワケだね。
無限エネルギーの波長登録は特殊な施設で、特殊な手順が必要になるから」
「ほへー、なんとなく分かるような、分からんような」
「アッハッハ、すっごい噛み砕いたからなぁ。もっと聞く?私の作った無限エネルギー理論!」
「うっ、いや、イイデス」
活き活きと鼻を膨らませて喋るエミリーに、シャルはポカンとしていた。
そうしている時のエミリーを、アダマスはただひたすらに可愛いなぁと思いつつ、食べ物を口に運び、ふと皿が空になっている事に気付く。
ありきたりだが、何よりも贅沢な時間は、あっという間に過ぎてしまったようだ。
さてとと、朝の仕事をする事に心構えを取り直した。




