第90話・またバレた…
「まあ、マリアさんに関してはこれくらいで良いんだけどね。この杖に関しては二人に内密に聞きたい事があるのよ…」
そう言ってユーノさんが俺の事をジっと睨んでくる。
あちゃ〜…、しかも二人にって…。嫌な予感しかしないよ…。
「巷じゃ、この杖の製作者の沈黙の錬金術師とか言われて話題になってるじゃない?で、私も一介の魔導具技師として噂の人物の技術がどれだけスゴイのかって思っていたのよ」
「へ〜そうですか。で、どれだけスゴかったんですか?」
俺は素知らぬふりを聞いてみた。
「それがねぇ〜。技術的には大したことなかったのよ。正直言って普通のレベルだったの…」
オウ…。普通って…。ユーノさんの所でいろいろ勉強させてもらってるのに、俺ってば、まだまだ普通レベルだったのねぇ〜。
「この杖自体は、全体的に見たら普通レベルの代物よ。ただ、パーツごとに見ていくとこれが神業としか言いようがないレベルのモノだったのよ」
まずはこれ…。って言って、杖に入っていた魔石を取り出して見せた。
「一見すると普通に研磨された魔石なんだけど、これが普通じゃないの」
「綺麗な魔石とは思いますけど、どう普通じゃないんですか?」
マリアさんが魔石を光にかざして聞いている。
「その魔石ね、全く歪みが無いのよ」
「歪みがない?」
「そうなの。魔石の研磨ってね、どんなに腕の良い職人が手掛けたって手作業で研磨するから、必ず歪みが出るモノなのよ。それがこの魔石には無いの」
「正確無比の神業」ユーノさんはそう表現した。
そりゃあ、DELSONで造ったモノだもの…、歪みなんて出ようがないわな。
「あ!そうそう。話は変わるんだけど、ユウキくんが私から買ったキャパシタって転売とかしてないわよね」
ユーノさんが突然思い出したように俺に聞いてきた。
「え!?……。ええ、転売なんてしてませんよ。そういう契約で売ってもらったんですから…」
「そう。それなら良かったわ。転売なんかされてたら、いろいろ問題になっちゃうからね」
それでね…。と、ユーノさんの話は二転三転する。
いったい、何が言いたいんだろう?
「さっきも言ったように、一番の曲者がキャパシタなのよ。でね、本当はやっちゃいけないんだけど、私はこの曲者を分解しちゃったの」
ニコニコしながらユーノさんは分解されたキャパシタを出してきた。
だけどね〜、この手の魔導具の検査ってのは『非破壊検査』と決まってる。
なぜなら、魔導具に使用されたパーツに『過去の遺物』が使われているかもしれないからだ。それを勝手に分解なんてしちゃったら、国やら魔法学会から何を言われるかわからない。下手をすれば処罰の対象にもなり兼ねない。
「だ…大丈夫なんですか?分解なんてしちゃって…」
マリアさんが心配になるのも頷ける。
そんな心配を余所にユーノさんは話を続けていった。
「このキャパシタはねぇ。見た目は普通でも中身は人の手じゃ不可能な程に精密に作られたものなのよ」
と、ユーノさんがにこやかに説明した。まるで未知のテクノロジーを楽しんでいるかのように…。
「でね、ユウキくんには前に教えたんだけど、魔導具ってよく見ると製作者の癖が出るモノなの。それで気がついたんだけど、この杖を改造した人の癖ってなんだか私の癖に似てるのよねぇ〜」
そう言ってユーノさんが俺をジっと見つめてきた。
……ヤベぇ〜どうしよう…。どうにかして誤魔化さないと…。
って、マリアさん?ユーノさんから目を背けちゃダメでしょ。こういう時こそ堂々としてないと!
「えっと…。それってユーノさんのテクニックが伝説級だったって事じゃないですかね?」
「それなら嬉しいんだけどねぇ〜」
と、ユーノさんの表情はニコニコしているんだけど、目が笑っていない。
「これはユウキくんにも言ってなかったんだけど、私の作ったキャパシタって、転売を防止の為に私にしかわからない場所に製造番号が振ってあるのよ。いつ、誰に販売したかがわかるようにね。でね、何故かこの分解したキャパシタにその製造番号が振ってあったのよ。この意味、わかるわよね?ユウキくん…」
ウソ〜ん…。製造番号って気がつかなかったわぁ…。
こりゃ、完全にバレちゃったなぁ〜。
「……まいりました……」
俺は両手を上げて降参の意を示し、ユーノさんに白旗を上げた。
「じゃ、説明してくれるかな?」
「はい。説明はしますが、聞いた事は秘密にして下さい」
「いいわよ。ここだけの話にするわ。マリアさんも良いわよね?」
「はい。私もユウキくんに詳しく説明してもらいたいと思ってましたので…」
そして俺は二人にDELSONのクリエイト機能について、かいつまんで説明を始めた。
……。
………。
…………。
説明が終わると、ユーノさんは額を押さえながらため息をついた。
「はぁ…。そうするとマリアさんの杖の改造も小手調べ程度のモノだと?」
「まあ、そういう事になりますかねぇ〜。キャパシタだけでも自重しなければ20倍以上の性能にする事も可能ですね」
「それって、あの杖以上の性能って事ですよね…」
マリアさんも青い顔をして俺を見つめてきた。
「なんでしたら、マリアさんの新しい杖も改造しましょうか?」
「い…いえ!けっこうです!これで充分ですから…」
「そうですか?遠慮しなくても良いですよ?」
「遠慮ではないんですけど…」
マリアさんは新しい杖を隠す様にしていた。
「ユウキくん…。これ以上面倒事を増やさないでくれるかしら?私だってヒマじゃないんだからね」
ユーノさんがジト目で俺の事を睨んでくる。
冗談ですよ〜。そんな事しませんよ〜。
そして、ユーノは「これは純粋な好奇心からの質問なんだけど…」と前置きして話し出した。
「もしもなんだけど…、ユウキくんが自重ナシに武器を造るとして、どれくらいの物が造れるの?」
「もしも…ですか?そうですねぇ〜。時間と材料があれば、一撃のもとに都市を消滅できるくらいのが造れますよ」
「……そう……」
ユーノさんは小声で聞かなきゃ良かった…って囁いていた。
「大丈夫ですよぉ〜。そんな危ないモノなんか造りませんからぁ〜」
そんなモノ造っても意味ないしね。今はもっとアサイ村やヤドラムの街に役立つモノを作っていきたいしね。この国が混乱するようなモノは御法度だ。
「そうしてくれるとありがたいわ。世界を滅ぼされでもしたら堪らないから…」
でも、自衛の為の兵器くらいは造るけどねぇ〜。
だって、スーパー兵器って男の子のロマンだからね。




