第66話・実在証明
さて、口裏合わせも終わったので俺たち三人はギルドのカフェスペースで、お茶をしながら今後の行動について話し合うことにした。
まあ、俺自身は領主様に学校計画の進捗状況やダンジョンでの実験の事を説明しなくちゃならないんで、領主様と同じ様な行動になるんだけど、ルキアさんやマリアさんは警護の仕事上、領主様や俺の行動予定を把握しないといけない。
そこら辺をスケジュール調整して緊急事態に備えるって感じだ。
ただ、あと2~3日もしたら領主様も街に到着する予定なので今日の午後からダンジョンは入場制限が掛けられる。
そうなると仕事にあぶれた冒険者たちの一部は早々にこの街から出ていき始め、残りは街クエストって事になるんだけど、それをやってるのは新人冒険者と俺のような出稼ぎだけだ。
ここに残る冒険者たちは休暇と称して飲んだくれるから治安も少々悪くなる。
そんな状況は街としてもギルドとしてもヨロシクないので、治安維持の為に自警団用の冒険者も雇う事になるんで、その人選もやっているルキアさんは大忙しだ。
「……ま、こんな感じの予定になってるからね」
ルキアさんとスケジュール表を確認しながらその日の行動を決めていく。
「分単位の行動ですねぇ。なんかキツそう…」
みっちりと隙間なく書かれている予定を見てクラクラしてきた。
「大丈夫よ。予定は未定なんだし、あの領主様の事だからここまでキッチリと動くはずないから…」
「それはそれで、大変なんですけどねぇ」
そんな感じで当日の行動予定が決まり、ひと息ついていると金髪のイケメンが俺たちのいる席に近づいてきた。
「マリア。もう体調は大丈夫なのか?」
ロバートだ。マリアさんの退院を知らなかったらしい。
「ええ、もう大丈夫よ。ありがとう」
「なら、どうだ?肩慣らしに森にでも行かないか?」
オイ…。いきなりかい…。
マリアさんも困ってるじゃないか…。
「ごめんなさい。私はこれからルキアさんと補佐をしなきゃいけないの。それにあなたとのパーティーは解消したはずよ」
「マリア。俺はパーティーの解消を認めちゃいないんだが…」
「そうね。あなたが書類にサインしてないのは知ってるわ。だからと言って私はあなたと一緒に仕事をする気にはなれないのよ」
「そんな急にどうしてだよ!?今までうまくやってたじゃないか?これからも俺達はうまくやれるって!」
「無理なものは無理なの!あなたの仕事の選び方じゃ私が着いていけないのよ。正直、私は命が惜しいの。ロバートみたいに無謀な仕事選びは出来ないのよ!」
あぁ~もう~。なんかケンカになってきちゃったぞ~。
ルキアさん、この二人止めて下さいよぉ~。
「それほど命が惜しいんならなんでニードルベアの討伐報酬の受け取りの権利を放棄したんだ?黙って受け取っておけば良かったんじゃないか?」
「何それ?嫌味?私はあのクマに殺されかけはしたけど、討伐は出来てないのよ!ウソまでついて報酬を受け取る気はないわ!仮に報酬が貰えたとしても、あなたにはびた一文渡すつもりもないのよ!」
益々、ヒートアップしちゃってるよぉ~。勘弁してくれ~。
その時、ようやくルキアさんが二人に割って入ってきた。
「ロバート。悪いがマリアにはもう報酬を受け取る権利どころか、請求する権利すらないんだよ」
へ?どういう事?
マリアさんは既にそのことを知っていたらしく、俺とロバートだけがキョトンとしていた。
「ノートン!例のクマについて、この二人に説明してあげて」
ルキアさんが近くで受付嬢相手にお茶をしてたノートンさんを呼びつけた。
ちなみに「この二人」とはキョトンとしてる俺とロバートのことだ。
ノートンさんは、んだよ。せっかくウマくいってたのにぃ~ってブツくさ言いながら、説明しに来てくれた。
「例のクマは見えない魔法使いに討伐されました。以上!!」
雑!!説明にすらなってないよ!!ナンパを邪魔されたからって適当過ぎでしょ!
ちゃんと説明してよ。ノートンさん!!
仕方ないなぁ~と言ってノートンさんは細かく説明し始めてくれた。
以下はノートンさんの説明だ。
_____________________________________
あの日、俺たちはニードルベアの死体を探しに森に入った。
マリアとユウキの証言を素に大体の当たりを付けての捜索だったから、森に入った翌日にはクマの死体を発見できたんだ。
クマの死体はマリアの証言通り、首が無く胸部が爆発したような状態だった。
死体の様子から俺は何か強力な魔法でも使われたと疑った。
だから魔導具による残留魔力の測定してみたんだが、あまりにも測定値が低すぎたんだ。どう考えてもマリアが証言していたファイアーアローの残滓程度の値しか魔導具は示さなかったんだ。
言っちゃぁ悪いが、マリアのファイアーアロー程度じゃクマの首を吹き飛ばすなんて芸当は出来るはずがない。
そう考えた俺は、その場で軽くクマの解剖をやってみた。
すると、死体の中から砕けた石が幾つか発見されたんだ。そして死体の後方にある木の幹からも砕けた石が発見された。
で、その石を調べてみたんだが魔力の残滓すら見つからなかった。
それでわかったんだが、この石をクマに撃ち込んだヤツはストーンバレットの様な魔法を使わずに自然の石を魔法以上の速度で撃ち出す事のできる謎の魔法もしくは魔導具を使用したらしいんだ。
それと、クマの死体の位置や発見された石の場所、マリアのいた位置から判断して
、そいつはマリアがクマと対峙していた時にマリアの後ろに居たはずなんだ。
すぐ近くにいたマリアに気づかれないほどの気配隠蔽の魔法を使ってさ。
_____________________________________
これがその石だよってノートンさんが布に包まれた石を見せてくれた。
記念に持っておくんだってさ。
「まあ、これで見えない魔法使いが実在するって証明にもなったし、そいつは凄く優秀な魔法使いだって事も証明されたって事さ」
なぜか自慢気のノートンさんにロバートと俺は黙り込んでしまった。
俺自身はロバートとはまったく別の意味で黙り込んでしまったわけだが…。




