第48話
「構えろメサイアっ!あいつがくるぞ!!」
空を切ってこちらへと向かってきた将門を見て一つ異変を感じた。
遅い。どうしてだ。
サタンと戦った時に感じたことだが、わたしは相手の動きについていけなかった。
動きが見えなかったのだ。
悪魔としての力を手に入れてなお歴然とした実力に絶望を感じていたあの時と違い、今はハッキリと相手の動きが確認できる。
言っちゃ悪いが、悪魔になりたてのわたしでも何とかなるかもしれないと思ったグレムリンの時と似たような感覚に近い。
将門は確実に強いはずなのに、こうも余裕でいられるわたしは現実逃避でおかしくなってしまったのかもしれないなぁなんて考えて笑えてきた。
「ボーっと突っ立ってて呑気なものですねぇ!」
ゆっくりと殴ってきた拳にわたしも拳で対抗し、バキぃと骨が砕ける音を響かせた。
痛みが走ったのはわたしの方だったが、計算外だったのは将門の方らしい。
拳を合わせて静止した状態でギロリとわたしを睨み付けて辺りは静けさに包まれる。
「痛っ!!」
「自分の攻撃を、止めただと・・・・・・・・・」
だが数秒後にわたしは吹き飛んだ。
攻撃を受け止め切ったと思っていたが、やはり将門の力は強大なもので衝撃の反応が後からやってきた。だがこの感じ、決して悪い状況じゃない。そう気づいた。
これも彼と接続しているからか、回復のスピードも前の時よりも上がっている。骨が折れたりしたぐらいなら十秒もあれば治る。相変わらず痛みは感じるけど。
とっさに逃げていたサタンが急いで近づいてきている。
「あんたすごいな!うちでもあいつの攻撃は受けたくないから避けたのに、正面から拳でやるとかかっこよすぎるで!漢気が溢れとるわ」
「あ、ありがとう。思っていたよりもこのモードが強かったのが幸いだったよ」
どうやら将門の動きが遅く見えたのもこのおかげっぽい。
相手の動きが遅いんじゃなくて、わたしの能力が上がったから相手の動きが普通に見えていたんだろう。本来なら何度も鍛えてこういう風になっていくんだろうけど、彼のおかげでその過程を踏んでいないのにも関わらず、それなりに相手と戦えているというのは嬉しいのだが、必死に努力をして少しずつステップアップしていった人間のころを思うと少し複雑なのは否めない。
まぁ、使えるものは遠慮なく使わせてもらうけどね!
「なぁメサイア、ええこと思いついたんだが」
まーたいやらしい笑みを浮かべてるよ。
すっごい悪い顔になってる。
何を思いついたんだろうか。
「あいつは翼がない。だから高い場所へ行けへんやろ?だから」
「飛べばわたしたちへの攻撃はできないと」
「せや」
そりゃそうかもしれないが、その後はどうするんだって話になると思う。
一旦逃げて考えるのは確かに良い作戦かもしれないけど。
しかしなんだか良心が痛む。わたしの良心があるかどうかは定かではないが、なかなかえげつない事なのは間違いない。相手が持ちえないものだとわかりながら、持っている側の人間がそれを利用していじわるするという構図もいじめに近い。
最新のゲーム機を買ってもらえない貧乏な家庭の子供に向かって、その子の事情を知りつつお前も買ってもらえと言う子供みたい。自分でどうしようも出来ない状態を突っ込むというのは人としてどうかと思う。だが状況が状況、心を押し殺してやるしかない。
「それじゃ上に行くか。実際この世界に天井ってもんがあるんかは知らんけど行けるとこまで行って逃げるぞ」
「了解」
立ち尽くしている将門の隙をついて、わたしたちはその翼を見せつけるかの如く大きく羽ばたかせて空へと飛び立った。
その様子に気付いたらしいが全く慌てる様子がないのが不気味だ。
まるでそうされる事があらかじめ分かっていたように、何も動じていない。
だが動揺する表情を見せていないだけなのかも。クールに気取っているかもしれない。
どんどん上に飛んでいっていて地上にいるオオカミさんと将門が全く見えないところまできてしまった。だがわたしたちは更に上へと飛ぶ。
ピピピピ!
何かの音が鳴った。
すぐにわたしたちは上昇をやめ止まったが、それに気づいた時はもう遅かった。
「ちょっ待てや。あんた翼に黒くて四角い箱がいっぱいついてるんやが・・・」
「サタンもなんだけど・・・」
翼に張り付いた謎の物体を確認しようとして手を伸ばそうとした途端、ジリリリ!!!とやかましい目覚まし時計のような音が鳴り響く。
なんかっ、ヤバイってこれ!!
前後で爆発音が聞こえた。目の前のサタンの翼についていた謎の箱が一気に爆発して、黒い煙と炎をあげて翼を焼き尽くした。
「どないっ・・・なっとんねん・・・。」
焼け焦げた臭いと過度なダメージに意識が朦朧とし、翼を失い一気に地上へと落ちていく。
嫌な予感程的中する。
サタンに伝えていれば・・・




