第20話
前回と同じくサタンはフェニックスを呼び出した。
悪魔界へ行くだけならわたしたちだけでも行けるらしいけど、やはり移動手段として便利なものは使っていこうというサタンはずる賢くも思えた。
意見しないわたしが言うのはお門違いなのはわかってるので何も言わないけど。
再び入った悪魔界は相も変わらず一面真っ黒の世界。
フェニックスの纏う炎のおかげでなんとかわたしたちの周りだけはほんの少し見えるが、それでも目を凝らしたところで景色は何も見えることはなかった。
なぜ何も見えないのに縦横無尽に飛び回り目的地に行けるのかは疑問だったのだが、どうやらフェニックスはこの悪魔界のあらゆる場所を知っているらしい。
いわば自動で動いてくれるカーナビゲーションシステム。ちなみにこれは能力ではなく、単にフェニックスの記憶力が異常なまでにすごいだけというまさかのオチで、そこらへんもサタンは高く買っているようだ。しかしサタンにこき使われても文句の一つも言わないとは、恐るべき服従心を持つ悪魔だ。
「目的地にはもうすぐ着くから準備だけしといてな~」
退屈さと眠さが入り混じったあくびをしながらサタンは言った。
「ちょっと、もうすぐ戦いが始まるってのに何でサタンがそんな眠そうなのよ。わかってる?負けられない戦いなんだよ?」
「んなことわかっとるがな。でもそれとこれと一緒にされても困る。あんたもこの移動の時はごっつ暇やなーとか思ってるやろ。うちもそうなんや。もっと前はこんな景色やなかったからな、移動してるときも今ほど暇ではなかったんや」
「見えてたんだ。どんな景色なの」
「そりゃーいろんな景色や。言うなればオープンワールドみたいなもんでどこにでも繋がってるから、移動しているとすぐに別の場所に着くからな。ほんまやったら移動中はそれを見れるんやけど。グレムリンの場所に入った時にわかったと思うけど、この真っ暗な世界とはまるで違ったやろ。緑一面の景色もあれば普通に悪魔達が暮らしてる街とかもある。まぁ七大魔王だけは特別で入る時に扉があったやろ。あれは一応誰でもすぐに入れへんようにしてるんや。誰でもすぐに出入りできるノーマルな場所やなくて、七大魔王専用の個別世界みたいにちょっと優遇されてる。まぁうちらにはそんなちょこざいなもんは意味ないけどな。蹴破って入れるならそんな扉作るだけやめとけやとは思うけど」
この話を聞くとその見える景色とはどんなものなのだろうという好奇心が溢れてきた。
色んな悪魔達が見えるとも言うし、すごく気になるところなのだが、この暗闇の空間がある間は見る事は叶わなそうだ。そこでもう一つの疑問をサタンに投げかける。
「いつからこの景色が見れなくなったの」
「正確な時期はわからんが、おそらくあの時やろうな。そう、うちがまだ大魔神になるもっと前、ルシファー率いる悪魔軍が初めて神と天使に挑んだ後ぐらいや。この戦いに負けてからこの世界はおかしくなってきとる。当のルシファーは戦いに敗れた後に行方をくらましててどこにおるかもわからへん。この悪魔界も広いからな、探そう思ってもそう簡単には探せへんのや。ルシファーを慕っていた仲間の悪魔達が今も探してはいるが手掛かりはなしや。おかしいやろ?絶対に何かがあるはずなんや。それと同時に悪魔殺しも現れよった」
「うーん。確かになんか裏がありそうな気はするけど、全くわからないね。わたしがわかるはずもないんだけど・・・でも悪魔殺しの何者かは怖いよね。遭遇した悪魔が誰一人として勝てずに今も彷徨っていると思うとドキドキしてきたよ」
消えたルシファー。
この悪魔が関わっているのは違いないのだろうが、それがこの悪魔世界に異変をもたらしたとなると早く解決したいと思った。いずれこの件にも触れていきたいが、今はそれどころではない。
目の前の目標にだけ集中しなければわたしも死んでしまう。
その前に何者かに殺されては元も子もないのだけども。
話の途中でフェニックスがゆっくりと止まった。
どうやらオオカミのいる場所に着いたようだ。
「ありがとうなフェニックス。ほな行ってくるわ。メサイア、今度は普通にドアを開けてみようや」
「そうだね。でも誰でも入れるようにしてないから鍵でもかかってるんじゃないの。なんかインターホンみたいなのも付いてはいるけど、これ押したところで入れてくれるとは思えないよ」
「そりゃそうやな。何の用ですかって聞いたらあなたを倒しに来ましたなんて返答が返ってきてみーな。絶対に入れてくれへんやろ。だからな、そん時は適当にごまかせばええねん。とりあえずインターホン押さずに開けてみるか」
「そんな不用心にしてるわけ」
ガチャッ。
・・・・・・。
普通に開いたんですけどこの扉。




