第16話
壮大にリバースしてしまったわたしはサタンの顔を見ることが出来なかった。
落ち目は自分にもあると思っているサタンは一応許してくれたが、それでも怒っているのではないのだろうかという不安がよぎった。
そりゃそうだ、いきなり後ろから頭にゲロを吐かれて何も気にしない人などこの世には聖人以外には存在しない。少なくともわたしは怒る。
「ほんとにごめんね」
「いやいや、ほんま気にせんでええからな。今回はうちも悪いし。そりゃ多少は思う事はあるで?なんでうちの頭に吐いてしまったのか、顔を横に向けて吐く事は出来なかったのだろうか、いろいろ思う事はあるがまぁそこは触れないでおく」
気にしなくていいと言いながら話し出すあたり、やはり少しは怒っているみたいだった。
それでも許してくれると言っているので、そこは深く掘り下げない方がいいだろう。
「別にこんなゲロくらいすぐ綺麗にできるしな」
言ってる意味はよくわからないが汚れた髪を見ようと目線を下に向けると、目で捉える事が不可能な程の物凄い速さで何かが動いた。何が起こったかは理解できないのだが、その何かの動きが止まったと思うと、さっきまで見るに堪えない汚れた髪が元通りの潤艶髪に戻っている。
「なんなの今の」
「な?すぐ綺麗になったやろ。これで大丈夫」
「大丈夫なんだけどさ。こんな一瞬で綺麗になるっておかしいよね」
「おかしないわ。あっ、これは別に能力とかちゃうし。今のは友達」
何食わぬ顔をして意味不明な事をこの悪魔は普通に言うところがこれまた理解できない。
「友達って、髪の毛が友達なの?ちょっと頭大丈夫?」
「やかましいわっ!髪の毛が友達ってどんなやつやねん。聞いた事ないわそんなん」
「でも言ったじゃん」
「髪の毛がって言ってへんやろ!もぅ篝ちゃんはめんどくさいな~。うちの髪の毛に擬態して住み着いてる悪魔がいるんや。そんだけ。はい話終わりー」
「ちょちょっ、せめて紹介ぐらいしてくれてもいいじゃん」
必死に問い詰めるわたしを面倒くさそうにしながらも、一応声だけかけてみるわと応じてくれた。何やら無言で相槌を打ち、そうか~、うんうん、などと誰とも会話をしないのに相槌はするという異様な光景を見せてくれていた。しかしその返事は芳しくはなかった。
「自己紹介は自分でやりたいからお前は何も話さないでくれって言われたわ。それにご飯も食べたとこで眠いからまた今度ね、ということや」
本当に会話したのか定かではない謎の悪魔はそう答えた。また癖の強い悪魔だなと先を思いやられる。それにご飯も食べたって、まさかわたしのゲロを・・・ゲテモノ食いにも程がある。
「まっ、こんな感じやしさっさと行くで。吐いて少しは楽になったやろ。んじゃもう一度」
ゆっくりと下降していき樹海へ入ろうとしていたその時、何か嫌な雰囲気をわたしたちは感じ取り緊張感が増していく。
「サタン、なんか感じたよね」
「あぁばっちり感じたで。前までの知ってる雰囲気とはまるで違う。部外者を寄せ付けない意志を感じる。これ以上入るなという強烈すぎるほどの警告サインを!だがここで引くわけにはいかんで」
ちらっと目線を合わせ再び樹海に降りていった時、ちりんと高い鈴の音がした。
あっと思った瞬間サタンが叫んだ。
「結界に罠を仕掛けとる!なんでこんなとこにっ」
気付いた時には四方八方からものすごい数の刀が飛んできていて、すぐに避けなければ致命傷は避けれないのは間違いない。わたしたちを決して生かしてなるものかという殺気と執念を纏い不気味に光り輝いている。このままではヤバイ。