第13話
「ファントム?なんなのそれ」
「いや、知らないなら別にいい。あんたはここで何をしてるんだ」
「何してるって、見てのとおり何もしてないんだけど」
「ふーん。まっ、どうでもいいや。一応名前だけ教えてくよ。僕の名前はルナ」
聞いてきたくせにどうでもいいと言われ少し腹が立ったが、どうやら悪い奴ではないみたいだった。
戦う意志もなさそうなのを確認して、こちらも自己紹介をすることにした。
「わたしはメサイアっていうの。よろしく」
「よろしくするかどうかは保証できない」
ルナは冷たく目線をよこして言った。
「まだ何者かもよくわからないのに、よろしくって言われて仲良くするやつがいるか?いないよな?名前を教えたのは最低限のマナーだからだよ。そこんとこ勘違いしないように」
ルナはわたしを睨みつけた。なんなんだよこいつ。仲良くする気があるのかないのかいまいちわかんないなぁ。最低限のマナーとか言うなら言葉遣いも気を付けてくれと心で思う。だがいちいち反応していては話が進まないし、ここはわたしが大人になろう。
「はいはいわかりましたよー。こっちも聞きたいんだけどさ、ルナこそこんなところで何してるのよ」
「あんたには関係ないことだ。だから教えることはできない」
「あっそ。なら別にいいけど、わたしと戦うなら容赦しないから」
「あんたからは戦う意志をまるで感じない。そんなハッタリをかまして俺をビビらせようとしているのかもしれないけど、バレバレだから意味ないよ」
「君こそ、冷静を装ってるだけじゃないの」
あっさりと嘘を見抜かれて焦りそうになるのをなんとか隠した。
「嘘だと思うなら、行動で示してあげようか。わたし、本気だから」
「いや、やめといた方がお互いのためだと思うけどね。本当に戦うつもりだとしても、俺の方が実力が上だと思うし。仮にあんたが強くて俺を倒すととしよう。だがよく考えてくれ。ここで戦うことに何の意味がある?意味もなく同族と戦って殺しあおうとする馬鹿なやつもいるが、あんたはそうじゃないだろう。だから、今日のところはお互いに身を引くことをお勧めするが、それでも戦う?」
「いや、まぁ・・・そこまでいうなら~やめとこうかな~~」
「ふっ。物分かりがよくて助かった。それじゃあ僕は帰るよ。とりあえず、今日のことを遠呂智さんたちに伝えないと。あっ、そうそう一つだけ忠告しておくよ。最近この人間世界に悪魔が頻繁に現れているんだけど、さっき僕が言ったような同族殺しが生きがいな悪趣味なやつらも来ている。こいつらに見つからないようにメサイアも気を付けるといいよ。殺されたくないならね」
話し終えて満足したのか、ルナはその場から一瞬で消え去った。翼で移動せずに、一体どうやってこの場から移動したのだろう。瞬間移動とかできるの?やっぱり戦わなくて良かったかもしれない。とりあえず、わたしもこのことをサタンに伝えないと。時間を確認しようと思ったが、腕時計をどこかで落としてしまっていたので確認することが出来なかった。気付くと携帯電話も財布も持っていなかった。まぁ別に持っていなくてもなんてことはない。それよりもルナが言っていた同族殺しの方が気になる。そんなイカれたやつらがこの世界に来ているなんて、安心して飛び回ることもできない。
心の安らぎを求めて、わたしは急いで屋上に戻る。まぁ屋上が安全というわけではないが。
だが約束の時間までまだ当分ある。何をしようか迷ったが、もう一度眠りにつくことにした。
「可愛い寝顔してるなぁほんま。舐めまわしたいでぇ・・・」
声が聞こえて意識が徐々にハッキリし、快適な眠りから目覚めるとともに違和感を覚える。コンクリートの上で寝ていたはずなのに、頭が心地よい硬さの枕に乗っかっている気がする。サタンが気を利かして枕を買ってきてくれたのかな。目線を下におろすと、サタンの足の上に頭が乗っていた。
「なにしてるの」
「膝枕やけど」
「なんで膝枕してるの」
「そりゃもちろん、篝ちゃんが心地よく眠れるようにやがな~」
「ありがとう。でもさっき変な事言ってなかったっけ。舐めたいとかなんとか」
「気のせいや。きっと寝ぼけてたんやろ」
笑顔でサタンは答えた。
「そうかもねっ。あ、そうそうサタンに伝えないといけない事があるんだけど」
「ん?なんかあったんか」
「そうそうあったんだよ。サタンと別れた後、街でわたしが殺したやつらについてニュースがやってたんだ
けど、なんか殺したやつらの骨が家の前に置いてあったらしいんだよ。それってサタンの仕業?」
「いや~、残骸は確かに海に捨ててきたんやけど、家の前に骨なんか置いてないわ。わざわざうちがそんなことする理由ないしな~。ごめんやけど特に思い当たる節はないわ」
「わかった。それとね、ルナっていう名前の悪魔が急に現れたの。戦わずには済んだけど、なんか同族殺しをする悪魔が来てるとか、わたしを見てファントムかとか聞いてきたり、オロチ?さんたちがどうとかこうとか言ってたけど」
「オロチやて?!そのルナとかいう悪魔はそう言ったんか!!」
サタンは突然、興奮して私の肩をつかんだ。
「オロチって、確かにそう言いよったんやな?」
「う、うん。確かに言ってたよ」
「そうか。ルナって悪魔は知らんけど、オロチかぁ。あいつ、生きとったんか」
「そのオロチって悪魔を知ってるの?」
「知ってるもなにも、オロチはうちと共に戦った仲間や。八俣遠呂智、通称オロチ。八つの頭を持つ大蛇。最凶の蛇神にして邪神。あんたも知ってるかもしれんが、オロチは須佐之男命の奸計により、オロチは泥酔させられて切り殺されそうになっとった。日本ではこのまま切り殺されて話が終わっとるけど、とどめを刺されそうになってるとこでうちが助けた。そっから仲良くなったっていう話やねんけどな。それでや、うちがまだ大魔神やったとき、神と天使に挑んだことは話したよな。オロチはうちの軍勢にいたんやけど、アスモデウスを筆頭に裏切ったやつらからうちを守ろうと必死に戦ってくれた。けど疲労していたのもあり、アスモデウスが率いていた悪魔は手練れが多くてな。オロチは抵抗むなしく殺された。オロチだけやない、他にもたくさんの仲間が殺された。悲しみと怒りがこみあげてきたが、もううちには抵抗する力は残ってなかった。そのあとはお察しの通りや。仲間を失い、あてもなくさまよう日々が続いていた。だが、あんたが出会ったルナとかいうやつはオロチさんと言った。なんでオロチが生きてるのかはわからんけど、生きてるなら絶対に会いに行きたい。あーーーめんメサイア、ちょっとヒートアップしてもうたわ。」
サタンは申し訳なさそうに口を閉ざした。
「全然いいよ。それじゃええっと、ファントムっていうことについて何か知ってたら教えてほしいんだけど」
「知ってるで。幻影は篝ちゃんのような悪魔の烙印を押されて悪魔になったやつのことや。あまり多くはないが最近は増えてきとるんかな」
「そうなんだ。なんかルナってやつが、俺と同じファントムかって聞いてきたからなんなのかなーと思って。了解、教えてくれてありがとね」
「あぁ。ん?ちょい待ち。そのルナっちゅう悪魔は俺と同じなのかって聞いてきたんやな?そいつがオロチさんに伝えないとって言ってたということは、オロチがルナとコンビを組んでる可能性が高い」
サタンは
「ちょっと付いてきてくれるか。ルナに会うことは難しいかもしれんが、オロチが生きてるっていうんなら会えるかもしれん。今からあいつの拠点に行ってみようと思うが、どうや?」
「オッケー。じゃあもう行こっか。サタンも気になるだろうし」
今まで見たこともないほどサタンは目を輝かせていた。
「ええんか?ほんまありがとうな。よし、ほんなら出発や!」




