雨の情報収集
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ローブを深く被り、薄暗い路地裏を抜ける。先程降り出した雨を防ぐ意味合いもあるが、それ以上に素顔を見せたく無い。
そんな俺達は、仄かな光を目指して小走りで歩き、たまに道を間違えながら漸くここまで辿り着いた。そらは宿から数時間後の事だった。
「やっっっと!!着いたぁ!!」
「ノア、あんまり叫ぶと……」
「これくらいじゃバレないわ、安心しなさい。」
「はぁ……何処からその根拠が出てくるか本当に謎だな。」
雨音の中に飛び交う罵声、跳ねる泥。場所が場所だから仕方の無い話だ。俺達が今居る町外れの闇市は、案外簡単に見つけられた。やましい事を考える奴は闇に集まり、人が増えれば施設が設けられる。そんなもんだ、神格者を担えば嫌でも人間の悪が目に入る、だからこそこの場所を探し出すのに苦労は要らなかったし、不審がられない立ち振る舞いも知っている。
「へい、兄ちゃん。少しばかりステータスを覗かせて貰ったが相当な手練れだな。闇の者か?なら依頼をしたいんだが……」
「いや、俺は違う。他を当たってくれ。」
俺は声を掛けてきた男にそう告げ、ノアの手を引き歩き続ける。ひしめき合う屋根付き屋台を横目に、雑多する人並みを進む。
「手……繋いでる……」
「ん?どうした?」
「な、何でも無いわ!それよりさっきの!!闇の者だっけ?あ、あんまり良い響きじゃ無いわね!!」
ツインテールをぴょこぴょこと揺らし、ノアは慌ててそう言う。
「……暗殺者の事だよ。自分の手を汚さずに目障りな奴を消す、卑怯なやり方だけど軍の手が届きにくい。」
「目障りな人……ここでは商売敵ね、きっと。」
「……だろうな。」
所詮、自分の力で解決出来ない脆弱者が最後の手段として使うのが【殺し】だ。商人なんてものは尚更だ、より金を稼ぐ為に多大な金を投資して相手を消す。矛盾も甚だしい。そんな奴らに構ってる暇は無い。
今一度、俺達が闇市に来た理由と経緯を思い出そう。
※※※
第一に疑うべきは宿主の男性だろう。部屋に入る機会が有り、1番簡単に進入出来るとなれば疑われても仕方の無い話だ。
「私が掃除に訪れた時には、そのような物は……」
「本当かしら?神格者の部屋だからって金目の物を探ったり、セドナが居るって情報をバラしたりして無いでしょうね!?」
「神格者様の部屋だからこそ特別丁寧に扱いましたよ!!それに私はセドナ様のファンなのです!情報をバラす!?そんな事、私がする訳ないでしょう!!」
「じゃあ他に誰が入れるのよ!」
「私が知る訳無いでしょう!!」
「ノア落ち着け、宿主の言う事は正しい。」
「何で言い切れるのよ。それに持つなら宿主じゃなくて私の肩を持ちなさいよ!」
宿主に詰め寄っていたノアが、今度は俺にジト目を向ける。
「神格者が嫌いなら剣を盗むなんて遠回りしなくとも魔格者に情報をリークすれば良い。なんなら寝ている時に首を狙う策もある。けどそんな事は起こらなかっただろ?」
「単純に考えて、セドナが居なかったから剣だけ盗んだんじゃ無いの?反撃の武器を取り上げて、次に襲うつもりだとか!」
「剣を盗んでわざわざ自分達の存在を知らせるなんて悪手でしか無いな。」
それならノアを連れ去った方が百倍有効だと思う。宿主がグルならノアが俺の仲間だって事も知っている筈だし。
「なら他に誰が盗ったのよ。」
「……商人を部屋に入れたりしていませんか?ここら辺は物騒ですし、商人が他商人の売り物を盗むなんてのはザラです。最悪殺して奪う事も……」
わざわざ宿まで売りに来る商人が居てたまるか、押し売りセールスマンにも程がある。
「奴らは殺したその後に、盗んだ物を何くわぬ顔で売るから怖いのです。レメゲトンも真っ青ですよ。」
「入れてないわそんなの。それに宿の1室にわざわざ売りには来ないわよ、その商人が忍びこんだのなら宿の防犯力が足りないわね。」
「失礼な!むしろ私は普段より厳重に宿を守っていましたよ!セドナ様が帰る間だけという契約で人を雇って交代で見張らせていたのですから!」
「雇っていた?」
「……それよ!!その人物なら容易に入れるわ!今何処に居るの!?」
「せ、セドナ様が戻られた時に同じく契約を終了させました。その後の足取りは……ちょっと……」
宿主の男は頭を掻きながら、思い出そうとする。だが、一向に次の言葉は紡がれない。
「何か無いのか?」
「…………そうか!!あの満足そうな笑みはもしかしたらセドナ様の剣を盗んでいたからだったのか……私とした事が!!」
「特徴を教えてくれないかしら。今からならそう遠くまで行っていないわ、充分追えるもの。」
「帽子を深く被っていたのでしっかりとした顔は分かりませんが、語尾に「〜っす」を付けるのは、記憶に残っています。」
「それだけか?」
「性別は女、年齢はセドナ様より若く、背はこれ位、格好はやや見窄らしい。仕事の覚えは悪かったのですが、やる気だけはありました。」
「………ノア、仮にその娘が剣を持って行ったとする。盗んだ動機は何だと思う?」
彼女はうーんと数秒考えてから、急にもじもじし始める。
「………仮に……仮にセドナの事が大好きな人間だったら、その剣をコレクションにするんじゃない?わ、私にはその気持ち全然分からないけれど!!」
コレクションか……うん。シャトルーズ・ムーンは美しい剣だ、その線もあり得る。
「わ、私は自分が強くなる為に神格者様の剣を盗んだのでは無いかと!」
……待て、良く考えろ。大好きな人間なら本人に会いたいだろうし、強くなりたい様な人間なら宿でバイトなどしない。
「きっとその娘の目的は別に有る筈だ。でなければわざわざ置き手紙なんて書かないだろ?」
「それもそうね。」
「でも可能性を捨てちゃダメだ。だからこそ最初に向かうべきはこの町の商人の所だと思う。それも闇に近い方が良い。」
商人にとって情報は命であり、宝。闇の世界に足を踏み入れていれば、本当の意味で命と同価値だ。自分が狙われているという情報を知らないだけで命は終わり、商人人生は潰える。そんな奴らは何かしら手掛かりを知っていそうだ。それにもし、シャトルーズ・ムーンを売っている商人が居たら、それこそもっと早く解決する。
「こんな議論に時間を費やすよりも実働ね!ほらセドナ、行くわよ!」
※※※
「一通り見たけれど、売られているのは違法の指輪と盗品らしき武具ばかりか。後は鉱石だな。何にせよシャトルーズ・ムーンは見当たらないか。」
そう言って俺はノアの手を放し、辺りを見渡す。
「さて、次は情報通を探して聞き込みだな。」
「…………。」
ムギュ。
「ノ、ノア?もう手は握らなくて良く無いか?」
「…………へ?……あ、あぁ!それもそうね! べ、別に握ったままで居たかったなんて思って無いわよ!?」
彼女は繋ぎ直した手を慌てて放し、目線を逸らす。
「む、むしろ放れる事が出来てせいせいしたって言うか、手が楽になったって言うか!」
「…………」
「師弟とか兄妹とか……その……こ、こ、恋人とかに勘違いされても困るし!?」
「……人が多いからな、やっぱり繋いでおいた方が良いかもしれない。ここで逸れたら厄介だし。」
俺は色白の手を取り、そして優しく握る。
「嫌でも我慢してな。」
「嫌……じゃ無いわよ……」
ノアはゆっくりと手を握り返しながらそう呟く。……照れる彼女はやっぱり可愛い。
「じゃあ行こう、最初は武具を売っている商人からーー」
「金が払えねぇなら売れねぇつってんだろ!!」
俺がそう言い終わる前に、知らない男の怒号が言葉を掻き消す。
「でもこの鉱石が10万ゴールドなんてぼったくりっス!!」
「ぼったくり?売値は俺が決める!それが商売だろ?」
「でもこの鉱石は盗品っスよね!!ティラが此処に来る途中に別の人が持ってる所見たっスもん!!」
「チッ!うるせぇガキがッ!!」
「きゃっ!!」
「ふんっ……ちょっと蹴り入れただけで飛び過ぎだっての!女の癖にししゃり出るからそんな事になんだよ!」
男は、フード深くかぶった小柄な女の子に、再度蹴りを入れようとする。悪いが俺は見逃さないぞ、人混みであろうと距離が遠かろうと関係無い。
「セドナ!」
「分かってる。」
繋いだばかりのノアの手を放し、俺は頭の中で即座に進むルートを決める。そしてーー駆けた。
「うわっ!?」
「ちょっと何!?」
人々の驚きの隙間を、猫のように縫い進み、男の懐へ飛び込んでその蹴りを喰らった様に受け止める。
「ぐあっ!!」
「だ、誰だてめぇ!!」
闇市の視線を掻っ攫うならば、事故を装ったフリをして正解の筈。関係の無い通行人が、たまたま偶然蹴りを貰ってしまった。そう目に映っていれば良い。
「俺に任せて此処は逃げろ。」
俺はわざとフードの彼女近くへ仰け反り、耳元でそう呟く。
「……すいません。お怪我は無いですか?」
「邪魔だどけ。俺はお前の隣の奴に用があんだよ。」
男が横切ろうとしたその瞬間。彼の足を素早く払い、体勢を崩す。
「な、何すんだてめ「すいません!大丈夫ですか!?お怪我は?私の足に引っかかるなんて……本当に申し訳無い!」
「あぁ!?おめえが引っ掛けて来たんだろうが!!」
よし、これでヘイトは俺に集まったし、観衆の目も釘付けだ。後はこの隙にあの娘が逃げて、俺も素早く身を隠せば………
「待つっス!!!その人は関係無いッスよねッ!!ティラから逃げるんスか!?」
アホか…………
俺の後方で、腰に手を当てながら自信満々に吠えるのは、俺が逃がしたと思い込んでいたフードの少女だった。
ノア「質問コーナー!!ぱちぱちぱち!!」
セドナ「どうした急に。」
ノア「さて、今回の質問は……」
セドナ「無視かよ!!」
ノア「兄さん大好き娘からのお便りです!魔力切れを起こすとシンボルの動物に基づいた何かが身体的に表れるのですが、獣人族や、魔族といった元より尻尾や耳がある場合はどうなるのですか?」
セドナ「確かにな、師匠とかは魔族とのハーフだから身体的にはあんまり特徴は出ていないけど、純粋な魔族とかはどうなってんだ?」
カノン「それはですねー」
ノア「あら!カノン!」
セドナ「カノン!久しぶ……」
カノン「お久しぶりですお二方!募る話も有りますけれど、私は質問に答えなければならないのでガン無視しますね!」
セドナ「俺、今回居るかな?」
カノン「ズバリ!獣人族、魔族の場合も身体的に特徴は出ます!ただ耳や尻尾では無く、動作や性格が多いですね!」
ノア「動作?性格?」
カノン「例えば、シンボルが犬だとします。すると、普段はしないベロを出してハァハァ言ったりとか、従順な性格になったりとか……セドナさん、獣人族になった上で、更にシンボルを犬に変えませんか?」
セドナ「俺を従わせようとすんな。」




