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猫が美少女で実は俺?  作者: もこ
腐敗の森
47/53

閑話〜月華〜

息切れは無い。


「君がココに来るとは珍しい。どういう風の吹き回しだ?」


「風が吹いてたらぁ。ココももうちょっとマシなのにねぇ。」


酷く薄暗い地下室の中、肌に着くジメッとした湿り気と心地の悪い室温に顔をしかめる。意識していなくとも悪態付いてしまうこんな環境にも関わらず男は黙々と指輪を磨く。


「……それだけか?」


「それだけぇ?」


「……何故機嫌が良いのだ?何時もならもう三言は毒を吐く。」


「ふぅん、良く見てるねぇ。」


「……二刀流の君が、左の剣を失った理由がそこに在るのか?」


成る程、成る程……これはデリカシーの欠片も無い質問だ。


「何時もは非常に不快に感じるこの研究室も、今の精神状態ならば気にならない、これも全て彼のお陰かなぁ。うんうん……誰かの弱味って、口にジュワッと広がってぇ、癖になるよねぇ……それが強敵で有ればなおさらぁ。」


「これはこれは、気性の荒い君の機嫌を取ってくれた彼とやらに感謝だな。」


「私は優しいよぉ?」


「いや、君は気性が荒く、タチが悪い女だ。その腕も新しいモノだろう?」


男は私の腕を見ながらそう呟く。


「そっちこそ、新しいペットが増えてるよぉ?」


「不足品は継ぎ足す。安心しろ、君の様に手中の駒を替えににはしていない。」


「まぁなんでも良いけどさぁ……今日来たのは頼みがあるからなんだよねぇ。」


モノイレロから瓶を取り出し、コトンと机に置く。鈍く光るソレは私にとって価値の無いモノだが、交渉相手にとっては喉から手が出る程欲しい筈だ。


「被験体15人だよぉ、中々良い人材を集めたからねぇ。」


「無能だな、素材としては非常に少ない。」


ねっとりと耳に付く嫌味が、私の心を逆撫でする。


「前の実験、【人体の変質と制御】の成功からずっと失敗続きだもんねぇ、今回は成功するまでに1000人ぐらい居るかなぁ?それとも一国は必要?」


「量では無い、質だ。前回最初に成功したのは軍の隊長格なのだよ、下っ端のカス共は、数にも入らん。」


「えぇ?あの子達、実験に使っちゃったのぉ?可愛がってたのにぃ、ポンコツ君にタンソク君にサイソク君……他にも。」


「残念ながら奴らは死んだ。途中経過で1番精度の高かった猫のシンボルを無理矢理使用したのが悪かった様だ、身体が魔力に耐えられず存在が消し飛んでしまった。」


非常に残念だなぁ。暇潰しに仲間を殺していくと、勝てないのに反発する彼らを特に気に入っていたのに。もっともっともっともっと……心を殺し切りたかったのに。


「さぁ、帰れ。お前にはやる事があるだろう。」


「…………。」


脅しをかけて無理矢理頼みを聞かせる事も可能だろうが、今の私は本調子では無い。身体のパーツを入れ替えたばかりだとレベルが不安定になるのだ。


「じゃあ次はもっと質の良いのを持ってくるよぉ。そしたら話を聞いてもらおうかなぁ。」


交渉は失敗。いささか不満ではあるが仕方が無い。

私は踵を返し、来た時はとても長く感じた階段を登りきると、木々が生い茂る森へ足を踏み入れる。深い緑に柔い風吹き抜けて、葉の隙間から木漏れ日が地面を疎らに照らす。……誰もこんな場所に実験施設などあるとは思うまい。


「グルルルァ。」


「…………お見送りは良いって言ったのになぁ。」


目の前には醜いハイエナの魔物が喉を鳴らしていた。酷くいきり立ったソレは、今にも私に噛み付いて来そうな勢いで睨みつけてくる。


「私はギルド嬢に扮していた時もあるんだよぉ?君を討伐するクエストを張っちゃったりしても良いのかなぁ。」


刹那ーー

飛びかかって来たモノは肉塊へと姿を変え、私の愛剣は黒みがかった血を吸って喜んでいる。


「ほら、笑ってくれないからぁ。私の【アラクネノテンチュウ】が怒っちゃったじゃん……えーと……ダモダ・カレンストリー?」


ステータスからスコープを覗き込んだ先に見える名前。そうだ、カレンストリーと言えば中々の有名人では無いか。


「こんなおもちゃを使って、私の実力を図ろうなんて無理だってぇ。知りたいなら自分の身で戦いなよぉ、ね?」


「妹側の剣を失ったとて、雑魚狩りぐらいに支障は無いか。」


肉塊の中に埋まっていた通信用の指輪から、先程まで耳にしていた声が聞こえてくる。


「支障?支障は大有りだよねぇ。だってさ。」


歩みを止めず、私は呟く。


「手加減出来なくなっちゃったからぁ。」


※※※


「いって…………」


肌を撫でる冷たい風ーー


「あぁ悪りぃ手元が狂っちまった。」


「…………」


柔らかい芝生の感覚ーー


「謝ってんだろ?……っまぁ、月明かりの優しい目覚めよりも、お前にはその方が似合ってるぜ。」


「…………なんだよくそっ。」


ケラケラ笑う男を無視し、周辺を見渡す。

無数の光の粒が闇に溶けていく様を目にし、ここが朝日に照らされた宿の一室では無い理由を理解する。ここは闇夜の森林だ、それも灯籠ぶら下がる我が国の森林。日照時間の少ない国だからこそ、至る所に灯籠が吊るされている。それは祭りの後の儚さに似た優しい灯りで世界を照らしていた。


「……んで?俺を連れて来たのは何でーーー

ふげッ!!」


「兄さぁ〜んっ!!」


不意に強烈な一撃が腹に浴びせられる。相撲のぶつかり稽古様な衝撃は、闇夜の中でも変わらない我が妹の深くて重い愛だった。


「兄さん、兄さん兄さん兄さんっ!!大丈夫ですか?お怪我は?」


「く、苦し……」


「は!?す、すいません!!つい!」


魂が抜けてしまう程強力な抱きしめから解放、後に息を吹き返す俺の身体。俺は咳き込みながら大丈夫、大丈夫とシャルナに告げる。


「おいおい……全く何やってんだこの兄妹は。」


「え?隊長……?どうして……何故ココに?」


「俺がお前らを呼んだんだ、ほれ早く行くぞ。」


「行くって何処に?」


「あん?決まってんだろ。お偉いさんに会いに行くんだ。悪いけど時間がねぇ、説明は後だ。」


軍服に身を包んだシルバは、ついて来いと視線を飛ばしつつ地面を蹴る。……相変わらず慌ただしい奴だ。彼の性格を理解した上で、俺もシャルナも動き出す。

灯籠の森を行く。

太古から変わらない森を特集しました!!そんなテレビ番組の様な響きだが、これはそっくりそのまま今の現状を表す言葉だ。


「神格軍隊長が言うぐらいのお偉いさんとなると……国王や神格者ぐらいしか思いつかないのですが……」


「お?正解、20ポイント。シャルナの順応の早さには目を見張るモノがあるな。だがセドナ、お前は答えなかったからマイナス700点だ。」


「何でだよっ!ってか桁がちげぇなおい!!」


「大丈夫ですよ兄さん。私の点数と兄さんの点数を足して割って、それぞれマイナス340ポイントにしましょう。それで2人のんびり暮らしながら、一生使ってポイントを獲得しましょう。」


「そんな借金まみれな生活、俺は嫌だ。」


「私は兄さんが居ればそんな生活でも天国と同等と感じますよ♪」


「あー……ありがとう。俺は本当に良い妹を持ったよ。」


「良い妹……」


礼を言うと照れ隠しで髪を整える彼女。

シャルナの愛は重い……いちいち気にしていたら多分夜も寝られない。


「良い妹……んふっ。」


木々の隙間を縫いながら、高速で駆け抜ける最中でも、シャルナは俺の隣にピッタリと付いて、ニコニコと嬉しそうにずっと見つめてくる。


「な、なんかついてるかな?」


「いえ♪いつも通りカッコ良い兄さんです!」


「シャルナもいつも可愛いよ。」


「え!?ええぇぇ!?そ、そんな私……あの……可愛くなんて無いですけど……兄さんがそう言ってくれるなら少し自信が持てます…………なので結婚しましょう♪」


「何でだよ!」


……何ともやり辛い妹だ……ここらで話を切り替えよう。


「えー……ゴホンッ!!あー……シルバ?俺が国王に呼ばれるのは、もしかして時間の問題だったか?」


「あぁ、国王からお前を連れて来いとラブコールは結構前から続いてた、ズバリ旅の理由を話せだとよ。」


話せないんだよなぁ。と、俺は頭を掻く。国王を信じていない訳では無いけれど、弱点は出来る限り隠蔽したい。そうなって来ると、マイナにソレを知られてしまった事が1番の不安要素だ。【楽しみは独り占めしたい】、そう言った彼女の強欲さを信じるのは余りにも駄作だし、レメゲトンに所属する全ての魔格信仰者に事実を話している可能性の方が圧倒的に高い。


「話さなくてもどうにかさせる方法はあるだろ。王が欲しているのは金でも無ければ女でも無い。全てを欲する臆病者には安心をやれば良いんだ。」


シルバが走る事を止めて歩き始めたので、俺とシャルナも歩幅を合わせて歩いて後に続く。次第に灯籠の数が増え、ざわざわと無数の声が聞こえてくる。


「着いたぞセドナ。」


森を抜けきった先に見た光景ーー


「隊長!副隊長!そして神格者様に敬礼ッ!!!」


「「ハッ!!」」


猛々しく発せられた声、誇らしく掲げられたディアナ軍旗。俺達を見るなり敬礼する軍兵達は、ザッと見て100以上は居るだろう。即席のテントと焚き火の数も多数見受けられる事から数日前から此処に居座っている事は明白だ。


「んな堅っ苦しい事しなくて良い、下げろ。」


シルバが手で合図を送ると、敬礼の手は下がり注目が集まる。


「解散だ解散。俺に敬意を払う暇があったら休めバカ共。勝負は明日だろ?万全である事は軍兵の義務、此処にいる全員の命の世話なんぞ出来んからな。」


「申し訳有りません隊長!!」


「おいシルバ、説明しろ。流れからして俺は国王に会う筈だ。」


「あぁ、その事は安心して良いぞ、謁見は明後日に取り付けてある。」


じゃあその明後日に俺を呼べば事足りるだろう?そう言ったとて、周りの軍兵の数が意味をなさない訳ない。これから何か起こるに決まっている。


「切り込み班と主軸班、それに医療班まで呼んで……何と戦うおつもりですか隊長?」


シャルナのその問いに対し、シルバは口元を緩るませて言う。


「決まってんだろ、天災だ。」


「天災!?」


「話はもっと良い所でゆっくりとな。」


※※※


天災。

本来なら大規模な台風や地震の事を指し示す言葉だが、この世界では違ったモノを指す。

清炎老龍、骸の空、零軌跡、どれもこの世界を徘徊するレベル300以上の魔物で、討伐には軍の全勢力を用いなければ成らない程強力である。けれど天災とまで呼ばれるには、強力だけでは足りない。この3匹の魔物がそうまで言われる理由は【再生能力】だ。一個体を倒しても数年後、数ヶ月後に何食わぬ顔で何処かに現れる。神格軍は常に天災を狩り続けて国を守らなければならない。最早それは最優先事項であり、軍の義務だ。


「数日前からだ。我が国の領主数名が軍に泣きついてきた。」


テントの中、俺とシャルナ、そして語り手のシルバは、灯籠の淡い光に当てられながら状況整理をしていた。


「老龍か?骸か?零か?」


「老龍はミネルヴァ軍が掃討済みだ。骸と零は情報が無いが……こちらでの目撃情報と被害は無い。」


「……?……どういうことだ?」


「つまり第4の天災が現れたってこった。」


シルバの言葉に驚きを隠せない俺とシャルナ。こいつの発言は常にサプライズの塊だ。


「名は?」


「灰のくるいだ。細かな能力は定かでは無い……が、奴が通った後には人間が残らない、いや、これは言い方が悪いな。人間が残らないのでは無く、人間と呼んで良いのか分からない人間が残る。さながらそれは抜け殻だ。まぁ、故に狂いという名が付いているのだが……」


ハッキリしない言い回しも仕方の無い事だろう、情報が圧倒的に足りていないのだ。


「……それは早めに処理しなければ、被害が拡大する一方ですね。」


「そうだ。シャルナ、セドナ。急で悪いが切り替えてくれ。明日の夜、この先の草原でお前らの力が必要になる。細かな作戦についてはーー」


「失礼します。隊長、夕食は如何致しますか?」


テントの入り口から顔を覗かせる数名の女性。推測だが、彼女達は医療班だろう、到底白兵戦をする様な見た目では無い。


「……俺は要らん。セドナ、お前はどうだ?」


「俺も良いよ、わざわざ有難う。」


ニコッと微笑みながら断りを入れる。先程まで朝の宿屋だったのだ、夕食よりも朝食が欲しいね。


「そうですか……」


そんな悲しそうにしないでくれよ……悪い事をしたみたいじゃないか……


「後で……後で貰うよ。」


「……!!セドナ様、お強いだけでなく、お優しいのですね……はぁ……」


そんなに食べて欲しいのか?


「その……あの……宜しければ今夜、私達のテントに遊びに来てください!!夕食も其方にご用意させて頂きますので!!」


……え?良いの!?


「今夜……遊び……夕食?」


まずい……ピクッとシャルナのセンサーに反応アリ。


「貴方達、夕食の確認程度で5人も人数が要りますか?それに……兄さんの優しさに漬け込んで今夜何をするつもりでしょう?」


「あの……少しだけお話をしたいなって……」


「話なら此処でどうぞ、私が居る前で。」


シャルナの威圧を含んだ笑みに、彼女達は一歩、二歩と後退りしていく。


「きょ、今日は止めときます!!有難うございました!!」


「おいシャルナ、あんまり医療班を苛めるな、ポーションの使い手は珍しいんだぞ。軍を辞められたら困る。」


「苛めてなんていませんよ、ただ私の愛する兄さんに悪い虫が付かない様にしているだけです。兄さんの監視は私の生き甲斐の一つですから♪」


「愛が深いというより病んでんぞシャルナ。」


「病んでません!!兄さんも私が一番近くにいた方が嬉しいですよね?」


シャルナは俺の腕を抱き、上目遣いで問いかけてくる。甘い声と柔らかい感触に動揺して良い判断が出来なくなる。


「……う、うん。」


「はぁぁぁん♡やっぱり!やっぱり兄さんと私は相思相愛だったのですね!好きです!大好きです!」


ギュッと抱きしめられ、スリスリと胸に顔を埋めてくる。この妹……本当に可愛いな…………って!ダメだ!こんな考え方は!!


「兄さん……接吻を……キスを……チュー……しませんか?」


目がトロンッと柔らかく光り、よもやシルバの事など眼中に無いシャルナ。流石にこの場でそんな事出来やしない、俺が断ろうと口を開いた時……


「なっ!?ななななななななぁぁぁぁ!!!?」


「ん、やっと来たか。」


シルバの呟きとシャルナの驚いた顔と慌ただしい叫び声。その声に懐かしさを感じる……その抱いた感情は、もっと面倒な人が来てしまったという落胆だった。


「し、師匠!?」


「私の……」


「??」


「私のセドナに何やってくれてるのじゃぁぁあ!!!」


月下の黒髪和装美人は、凛としたその姿を台無しにする様に、ワナワナと肩を震わせて地団駄を踏んだ。






別作品1話です、宜しければ。

http://ncode.syosetu.com/n0283do/

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