第三十五話 領地の成長限界と、Fランクの仲間
お読みいただきありがとうございます。つむ教授です!
第34話『夜の貸切温泉と、至高の湯上がりアイス』では、営業終了後の『桃源郷』を贅沢に貸し切り、パパやママ、内政チームのみんなと一緒に至福の温泉時間を過ごしました。冷房魔道具の心地よい風が吹き抜ける中、みんなが浴衣姿で頬張ったミント特製のアイスは最高のご褒美でしたね。
今回の第35話では、そんな温泉大成功の翌朝から、さらに壮大な領地経営の物語が動き出します。
アルカが『統治統計』の画面で発見した、領地の深刻な過密問題。現状を打破するために打ち出した新しい城壁計画の前に、まずは邪魔な魔獣たちをお掃除するため、新しい仲間たちをまた召喚術をします!
先日のレベルアップで解放されたFランクの能力と、新ルールの魔導カードの生成に挑むアルカの姿をどうぞお楽しみください!
温泉施設『桃源郷』の劇的な大成功から一夜明けた、ルートハーバー男爵邸の執務室。
ここは普段、パパとルークとシェラが領地経営のために使っている部屋だ。だけど、これまでの私の働きが認められ、今では私もいつでも新しいアイデアを考えるためにこの部屋に入ることができるようになっていた。
私は机の上に『統治統計』の淡い光を放つ管理画面ウィンドウを出現させ、小さな指で画面を真剣になぞっていた。
画面に映し出されているのは、領都ランバートの人口推移、治安維持率、そして住宅の飽和度を示す詳細なグラフの数々だ。
(ふふ、温泉インフラを整えたことで労働生産性は劇的に向上したわ。だけど……前世の開発経済学の理論に照らし合わせると、この領地は数ヶ月から一年以内に完全に成長の限界を迎えるわね)
私がそう確信した理由は、あまりにも明確だった。
現在の城壁の内側はすでに過密状態で、これ以上外からの引っ越しを受け入れるための住宅を建てる土地が、どこにも残されていないのだ。
土地が足りなければ新たな産業は興せず、人口流動も止まって経済は停滞する。
「パパ、シェラ、ルーク、ちょっと集まってもらえるかしら」
私は部屋にいた領主であるパパ、そして私の最高の右腕であるシェラとルークへ、驚くべき内政計画の地図を広げて見せた。
「アルカ、急にどうしたんだ? 新しい温泉の調子なら最高だぞ」
パパが不思議そうに首を傾げる中、私は地図の領都ランバートを示す二重丸のさらに外側を、ペンで指し示した。
「今の城壁から、5km離れたところに新しい城壁を作りたいの。穀倉地帯のさらに外側に住宅を増やして、新しい都市区画を開発するためよ!」
私の言葉に、知的で冷静なルークが驚愕に目を見開いた。
「現在の領地の外側、さらに遠くへと版図を広げる大工事ですか……! それができれば、外部からの移民や物流の受け入れ規模は数十倍になり、領内の経済は爆発的に発展します。……しかし、問題が多すぎます」
隣に立つシェラも、その固有能力【国家財務】の頭脳をフル回転させながら、難しい顔で言葉を継いだ。
「ええ、ルークの言う通りです。その計画予定地には、危険な魔獣がうじゃうじゃと生息する広大な未開拓の森が広がっています。普通の軍隊を動員して魔獣の間引きと安全確保を進めても、開拓の足がかりを作るだけで、普通にやると5年はかかってしまいますわ」
「ああ、先祖代々の土地とはいえ、あそこは野生の魔獣たちの巣窟だからな。5年間も、兵たちを不眠不休で戦わせ続けるのは、男爵領の今の規模では現実化じゃない」
パパも腕を組み、元魔術剣士としての経験から、その土地の危険性を重く指摘する。
だが、経済の発展において5年もの足止めを喰らうなど、私としては大問題だ。
(ふふ、みんなの言う通り、普通の手段なら安全な開拓には5年かかるわね。……だけど、私の召喚獣たちをフル活用すれば、半年から1年くらいに縮められるはずよ。私がそんな大人しい手段を選ぶとでも思ったかしら?)
私は小さく不敵に微笑むと、意思ひとつで空中に【魔導書】を呼び出した。
ページをパラパラとめくっていく。
(先日レベル2になったとき、召喚術で召喚できる召喚獣が1ランク上の【Fランク】にもなっていたのよね。Gランクはすべて変異種になるみたいだけれど、Fランクからは戦闘や支援に特化した、様々な系統の召喚獣が解放されているみたいなのよ)
私は『次元統括』の収納空間内を確認する。そこには、前にパパからもらったFランクの魔石が大量にストックされていた。
「――Fランク魔導カード全種生成!」
私が心の中でそう念じた瞬間、魔導書から目も眩むような黄金の光が室内に溢れ出した。消費魔力コストは私のチート能力で永続的に完全ゼロ。必要な魔石が収納から自動で消費され、白紙だった魔導書のページに、次々と美しい光を放つ五枚の魔導カードが浮かび上がっていった。
一枚目は、盾を持った石の人形。個体能力は【硬化】。アルカへの加護は【耐久力UP】と【最大体力UP】。
二枚目は、獰猛な狼。個体能力は【爪撃】。アルカへの加護は【敏捷力UP】と【攻撃力UP】。
三枚目は、巨大なトンボ。個体能力は【残像】。アルカへの加護は【敏捷力UP】と【運UP】。
四枚目は、鋭い眼光の鷲。個体能力は【鷲の目】。アルカへの加護は【知力UP】と【敏捷力UP】。
五枚目は、小さな小豆の姿。個体能力は【癒しの葉】。アルカへの加護は【最大魔力UP】と【運UP】。
五枚のカードが生成された瞬間、私の小さな体に、全ての加護による爆発的なステータス上昇の波動が駆け抜けた。
「アルカ……!? 急に凄い魔力の気配が……!」
パパたちが驚愕して息を呑む中、私はずらりと並んだ五枚のFランク魔導カードを見つめ、楽しそうに瞳を輝かせる。
(防御,攻撃,デバフ,索敵,あるいは回復。完璧なバランスの五つの系統のデッキが完成したわ。名前は実際に召喚してから決めることにしましょう。5年かけてじわじわ開拓するなんてまどろっこしいことはパスよ。この子たちと邪魔な魔獣たちを倒してきて、その魔石でどんどん新しい召喚獣を召喚するようにしましょう!)
私はパパたちを促して、急ぎ足で男爵邸の庭へと出た。
澄み渡る空の下、私は右手を天高く力強く掲げ、凛とした声を周囲に響かせた。
「――召喚術!」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
領地の成長限界を突破するために5km先への城壁拡張を計画したアルカですが、まさかの5年かかるという大問題に直面。それを解決するために、一気に強力なFランク魔導カードを全種生成して庭へと飛び出す姿には、これからの戦闘と開拓へのカタルシスが詰まっていましたね。
「新しく召喚された五体の召喚獣の能力や加護が凄そう!」「アルカがここからどうやって魔獣の森を攻略していくのか気になる!」と思ってくださった方は、ぜひ作品ページから【ブックマーク登録】や【評価の☆☆☆☆☆】をポチッと押して応援していただけると、つむ教授の執筆エネルギーがさらに無限(∞)になります!
次回もどうぞお楽しみに!




