エピローグ
トリスタンは招待状を受け取っていた。
素材は羊皮紙ではなく紙。その手触りだけで、とても上質なものだとわかる。
おそらく、二ヶ月は食うに困らない程の価値があるだろう。
破らない様に気を遣いながら中身を検める。
差出人は国の宰相であった。魔王討伐の功を讃え、祝賀会の主賓としたいという事だ。
「何が書いてあるの?」
アリアが興味深そうに手紙を覗き込み、尋ねてくる。彼女は読み書きができない。
「魔王討伐の褒美をくれるそうだよ」
「へえー!いいじゃない」
「うん。もしかしたらアリアの足枷を外す手がかりを探してもらえるかもしれない」
「本当に?!」
「うん……そうだけど……」
「何か引っかかるの?」
トリスタンは何と言うか悩んだ。
勇者である事を否定した彼にとって、祝賀会への参加がどういう意味を持つか。
その沈黙を察したアリアは、首を傾げる。
「あんまり乗り気じゃないんだ?」
軽い口調でアリアは言葉を投げかける。
「でも、アリアの……」
トリスタンの言葉を、アリアは手で制する。
ニヤリと笑うアリア。その赤い瞳は、イタズラっぽく揺れていた。
「じゃあ──逃げちゃおっか!」
アリアはトリスタンの手を掴む。トリスタンは驚いて彼女を見つめた。
アリアもまた、彼の目を見つめると、その手を強く引っ張った。
一陣の風。それが、トリスタンの手から招待状を奪う。ヒラヒラと舞うように、手紙はどこかに飛んでいってしまった。
リゲルサクセの風はまだ冷たい。けれど空には、雲ひとつなかった。




