春の魔女
彼女は春になると庭にやってくる。
四季の中でもいっとう可愛らしい装いで。
「こんにちは、はじめまして。私、春の魔女!しばらくお邪魔するわ」
そう言って返事も待たずに庭先に入り込み、花々を咲かせてゆく。
「あー忙しい、忙しい」
そんな彼女をお茶に誘うと、嬉しそうに軒先のテーブルについてひとときおしゃべりの花を咲かせる。
お天気のこと、花に暮らす妖精たちの様子、好みの茶葉について、etc...
ただひとつ、聞いてはいけないことがある。
「――前の春?さあ、知らないわ。他の子じゃないかしら」
去年の思い出を語らうことはできない。
そうして月が三たび巡る頃、満開を迎えた庭を満足そうに眺めた彼女は土にまみれた裾を払って立ち上がる。
「さあ、次に行かなくちゃ」
花たちは早いものから花びらを散らし始める。やがて虫たちが運んだ縁によって、実をつけ始めるだろう。
ただひとつ、私の胸に残る花開くことのない蕾を残したまま。
「さようなら」
「ええ――また、次の季節に」
「こんにちは、はじめまして!私、夏の魔女よ!お邪魔します!」
活動的な装いで、彼女は元気よく挨拶し、ずかずかと庭先を横切っていく。
春の彼女と同じ顔、同じ声。ただ、装いとともに記憶も人となりも新しくなる。
彼女は、四季の魔女。
私の惑星に欠かせない、季節を運ぶもの。
その営みは変わることなく、毎年私の心を灼き尽くす。そして私の涙が、梅雨となって大地を潤すだろう。




