不気味な聖騎士団
時々現れる魔物を倒したり追い払ったりしている間にトンネル工事は順調に進む。
大抵は俺の威嚇でビビって魔物達は逃げ去るのだが、ユウガたちは群れで現れない限りは出来るだけ倒す様にしている。
純粋にこの国の食糧を少しでも賄うためっと言う部分もあるが、その根幹は俺やアセナ達に少しでも近づける様頑張っているんだろう。
俺達の他にも護衛は当然いるが……俺達が居るので正直あんまり必要ない。
なんせ俺達と近衛兵達ではレベルが違い過ぎる。
俺は俺でアセナ達の力を得ているし、ユウガだって俺同様にチート転移組。こう言っては失礼かもしれないが格が違い過ぎる。
なので最近では近衛兵の人達も氷を持ってきたりと作業員の手伝いをしている事の方が多い。
そして完成した所から光を反射する魔法を使って溶けたりしないよう加工済みだ。
ちょっとずつ長くなっていくトンネルを見ているとなんだか嬉しさがこみ上げて来る。まだまだ先は長いが程々に頑張ればいいだろう。
それから最近は休憩時間にヤタを中心に雪合戦をまたやったら何か地元民にウケた。
雪玉を作って当てるだけだが手軽さと意外と白熱する遊びに近衛兵たちは訓練するつもりだとか。
流石にそれはリスペクトし過ぎだと俺とユウガは思った。
それからなんだかんだでほとんどの勇者パーティーとは上手くいっている。
ほとんどと言うのはルフェイだけは真面目と言うかと当然の反応と言うか、俺を強く敵視している。
敵だから仕方ないと思うが気を張り過ぎではないだろうか?長期戦での上手い戦い方はスイッチのオンオフ。つまり敵の前で緊張するのは当然だがそうでない場合はちゃんと身体を休めると言う事だ。
ルフェイの場合は常に緊張しっぱなしで非常に良くない。
意外と繊細なんだろうか?
それに比べて俺達は休む時は休むし、動く時は動く。キッチリと切り替えが出来ているので疲労を感じる事はない。
だがルフェイの方は明らかに疲労が溜まっている様に見えるし、今日はお客が来た。
「教会から参りました、聖女をしているヒジリと申します」
ユウガの嫁がやって来た。
ユウガの話によると、このホワイトフォレストは意外と戦いなどが起こっている訳ではなく、落ち着いたものなので自分が直接行って状況を確かめると言ったとか。
だがそれは方便であり、実際の所は自分に会いたいだけだろうとユウガは言った。
俺は1度だけ聖女と会ったが正直彼女は全く戦えそうもない。予言が主な仕事と言う事は戦う場に赴く事はないと予想される。
確かに俺達に敵意はないがそれでも随分思い切った行動をするものだと感心する。
危険でもユウガに会いたいと言う事なのかな?
「よくぞいらした聖女ヒジリ。どうぞ好きなだけご覧いただいて結構です」
「ありがとうございます」
新にやって来た聖女の護衛である聖騎士団も彼女と共に行動するようだ。
まぁ彼女は教会の重鎮……とは違うか。とにかく大切な位置に居るのは確定なのでちゃんと守らないとダメなのだろう。
気になるのはジャンヌさんやジョージさんよりも強い気がすると言う点と、とても人間とは思えない気配を放っているからだ。
より詳しく言うのであれば俺に近い。
人間の身体に何か別な物が混じっているような気配っと言えばいいか…………アスクレピオスに確認を取っておいた方が良いな。
ただ機械的に行動する聖騎士団に俺は初めて感じる不気味さを感じながら居なくなるのを待ったのである。
――
「なぁユウガ。あの聖騎士団おかしくないか?オーラとかその他もろもろ」
「確かに……何と言うか人の身体に無理矢理力を注いだと言うか、人の形をした何か?としか言いようがないと言うか……」
もはや日課になっている俺とユウガの試合。ユウガもある程度慣れたのか軽い会話程度なら出来るぐらい成長した。
「ちょっと気になる事があって今確認中。下手すれば教会の連中俺よりもひどいことしてる可能性がかなり高いぞ」
「な、なんだよその可能性って」
ユウガは気味悪そうに聞く。
「人体実験だよ。アスクレピオスは元々その人体実験のために教会で復活させられたって言ってたし、その実験成功例があの聖騎士団かもってこと」
となると初めて感じるあの気配は天使のオーラなのだろうか。
だとすれば1度捕食してどう言う物なのか調べてみる必要があるかも知れない。
そしてユウガは驚きながら俺にさらに問う。
「人体実験って!教会がそんなことしていいのか!?」
「正義の味方ってのは大義のために小さな犠牲を伴わない事の方が多いじゃん。大事の中に小事なし、だったか?俺と言う強大な敵を倒すために小さな犠牲は仕方ないとさ。それにアスクレピオスの言葉が本当なら一応犯罪者を実験体に使ってるとか」
「それでも……彼らは人だろ?」
こんな話をしているからか、ユウガは試合をする気分ではなくなったらしい。
剣を下ろしたので俺も拳を下ろした。
ユウガは彼らの事を思いながら言う。
「確かに犯罪を犯すのは悪い事なのは誰だって分かる。でもだからってそんな非人道的な事をして良いとは思えない。と言うかそれ以前にそんな選択肢を選んじゃダメだろう……」
「そうかもな。でもその対策の理由が俺やアセナを倒すためらしいぞ。あの連中が不気味なのは分かるがユウガはどうする?あれは教会が生み出した存在であり、俺を倒す仲間になるかも知れない存在達だ。受け入れるか?それとも受け入れない?」
そう聞くと考える瞬間もなくユウガは即答した。
「受け入れない。誰かを犠牲にして得た幸せってすぐに壊れると思う。例えその方が効率的だったとしても、僕はよくないと思う。それに僕はそんな犠牲を減らすためにここで勇者をしているんだ。だから、要らない」
そうか……こう言う奴が主人公に相応しいんだろう。
俺だったら気に入らないと言って勇者辞めてるわ。
「タツキ様」
アナザがそっと現れて俺に耳打ちをする。
「……そうか。そっちも気を付けてな」
「ご配慮痛み入ります」
そしてまたすぐに消える様に歩いて行った。
俺でも感知し辛い程の身体の動きにやっぱりアナザからも技術的なものを得られないかと思う。
俺に足りないのは経験と特に技術。あの森の中で戦っていた経験はそれなりに使えるがほとんど力業ばかりで技術的なものがない。
今俺が使っている無銘は純度100%の武器だから何の技術もなく綺麗に斬る事が出来るが、これでは無銘の力を全力で使っているとは言い切れない。
となると俺にも武器を使った師匠的な者が欲しいのだが……あてがない。
と言うか俺みたいなのを弟子にしてくれる人など存在するのだろうか?
とうの昔に人間やめた化物を?存在するとは思えないな……
「何の話をしてたの?」
「ん?あ~何でもない。俺はもう少し練習するけどそっちはどうする?」
「僕はもうあがるよ。またトンネル工事の護衛として行かなきゃならないし、その前に汗ぐらいは落としておきたいから」
「そっか。勇者様が不潔って言うのも変な話だもんな」
「単に僕が気持ち悪いって言うのもあるけど……タツキも遅れない様にな」
「あいよ。比較的直ぐ戻るさ」
そう言ってユウガは城に戻って行った。
俺は見送った後、無銘を握りながら言う。
「ユウガの奴はもう居なくなったぞ。それでどうするよ?聖女様」
そう言うと聖女とその従者である不気味な聖騎士団が現れた。
恐らくヤタが使っている光を反射する魔法で目に見えない様にしていたんだろう。だが俺は視覚だけではなく嗅覚や聴覚でも判断できるので光の屈折だけでは誤魔化しきれない。
聖女様は前に出て言う。
「ここいらでおしまいにしませんか黒騎士。我々教会はあなたの存在を認めるわけにはまいりません」
「だろうね。でも何でここに居るんだ?お前戦えないだろ」
「彼らの制御役としてここに居るだけの話です。彼らは失敗作で私の命令以外聞いてくれませんし、自我と言うものもありません。なので仕方がないんですよ」
肩をすくめながら言う聖女は本当に仕方がなさそうに見える。
「失敗作って事は成功作もあるのか」
「あなたも知っているでしょう。あの蛇の真祖の協力がなくなった事で実験はより困難なものになってしまいました。あのジャックと言う子供もあなたが手に入れてしまいましたし、だからあそこには弱くても騎士を配置するべきだと言ったのに」
「それも予言で最初から知ってたって事か?だとしたら礼を言うよ。お陰で仲間が増えた」
「あんな犯罪者のどこがいいのですか?罪には死という褒美しか与えられないと言うのに」
理解できないと言う表情で聖女は言う。
でも俺は平然と言う。
「俺は別に罪を犯したとかそんな事で決めちゃいねぇよ。ただあの場では子供が死ぬって言うのは気に入らない事だったし、改心するかも知れねぇじゃん。1度罪を犯したから即断罪ってのは手が早すぎなくないか?」
「子供だろうと大人だろうと罪は罪。断罪すべきです」
「無理矢理呪いが付いた首輪を嵌めて?無理やり言い聞かせておいてか?」
「彼女は罪を犯したからそのような目に遭ったのです。罪を犯さなければ彼女はあのような目に遭わなかった。私が言えるのはそんなところです」
「その分贖罪を積み重ねれば許される未来はないのか」
ちょっとぐらいの慈悲はないのか聞いてみるが平然と言う。
「ありません。1度犯した罪は永遠に消えません」
「どれだけ悔い改めても?」
「消えません。ジャッジ様はお許しになりませんから」
「お前らの崇める神はそんなに正しいのか?」
「神は絶対正義を掲げております。ジャッジ様の理想こそ正義の国、犯罪のない世界、誰もが綺麗な人間で溢れます。それこそが理想と言わずに何と言うのでしょう?」
………………ああ、こいつ等とは一生分かり合えるとは思えない。
「俺の理想は欲望渦巻く世界だ。誰もが理想を追い求め、そのために正義と悪に苦悩する世界。どこにも潔白な人間など存在するはずないだろ」
「潔白な人間が存在できる世界を作るのが我々教会の総意です。そのためには真祖開放を行う黒騎士には消えてもらうしかありません」
聖女が手を上げると聖騎士たちは構える。
俺はくだらないと思いながらも殺す事を決めた。
今そこから解放してやるよ、罪人共。