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俺が勝手な理由

 それからさらに数日後、とうとうトンネルの建設が始まった。

 氷を作るために浅く掘った雪にはめる様に氷のブロックを積み重ねながらトンネルを作り上げていく。

 どうして浅く掘った場所にしたかというと魔物対策である。

 仮に魔物がこのトンネルの向こう側に行きたがる場合に破壊されては元も子もないと言う事で、魔物が入れるぐらいの高さまで掘ってその上にトンネルを作る事になったのだ。


 ちなみにたまに問題になる建設物の下に杭をぶち込む奴は魔法で行なっている。

 元々この国は地面より雪の上にある事の方が多いので地盤沈下に近い対策は十分に行なっているのだ。


 堅く固めた地面の上にブロックを重ねて作業を続ける作業員たち。

 ちなみに俺はこの場所で護衛として参加している。それは勇者パーティーもだ。

 俺達は東側、ユウガたちは西側を警護している。


 俺の家族では俺の他に寒さに強いアセナとトヨヒメ、アナザが参加している。アセナは近くの雪で遊ばずに俺の近くでゆっくりしているし、アナザはお茶の準備をして待機、トヨヒメは鮫の姿で雪の上に居ると言う謎の行動。

 あれ何してんの?


「なぁアセナ。トヨヒメの奴何してんだ?」

「水浴びの代わり。そして動物の姿になりたかったらしい」

「あ~確かに普段は寝る時鮫の姿だが最近鮫の姿になれなかったもんな」


 それでも……雪原の上に巨大な鮫がいると言うのはどうしても不思議な光景である。

 あのセフィロ・トータスを捕食する鮫らしくトヨヒメは真祖の中で特に巨大だ。作業中の人達もちらちらとトヨヒメの事を見て怯えたり、驚いたりしているがトヨヒメは人間を食べるつもりなど毛頭ない。

 何故ならおやつにもならないほど小さいからだ。

 鮫がプランクトンを食べる姿を思い浮かべる人はどれぐらいいるだろうか?

 海外のパニック映画で出てくるホオジロザメぐらいがちょうど良さそうなエサになりそうなのに、クジラの様にプランクトンを食べるとは思えない。


『おやつちょうだい』


 そんなトヨヒメが雪原を滑ってこちらに来るとおやつをねだってきた。

 俺はそんなトヨヒメに以前捕まえた大タコの足をトヨヒメの口に向かって投げた。

 トヨヒメはバカデカいタコ足をゲソの様な感覚で食べる。

 数メートルのタコ足をゲソ感覚って結構凄いんじゃないか?よく分かんないけどこの世界じゃタコは怖がられてるし。


「お待たせしました。お茶の用意が出来ました」

「ありがとアナザ。アセナも温かいお茶飲むだろ」

「飲む」

「トヨヒメは……飲むみたいだな」


 トヨヒメはタコ足を食べ終えた後、アナザがどこからか取り出した椅子に座る。

 と言うか本当にどこから取り出したんだこのテーブルとイスは。しかもしれっと魔法を使ってこのお茶スペースには風が来ないように調整してるし、どこまで有能なのこの悪魔。

 スノーが言ったようにもったいない使い方をしていると自覚するようになった。


「……ふう。温まるし美味いなこれ。ちょっとショウガ入ってる?」

「はい。この寒い地では身体の温まる者がよろしいかと。アセナ様トヨタマヒメ様にはこちらのスコーンとジャムをご用意したしました」

「私はいちご」

「わたくしはクリーム」

「俺バター」


 アセナはいちご、トヨヒメはクリームらしい。

 アナザは手早くスコーンの上に要望の物を乗っけて俺達に渡してくれる。

 何と言うか……洗練されていると言うか、有能過ぎると言うか。


 謎なんだよな……何でアナザが俺にくっ付いてたのか。

 俺だって流石にアナザの方が俺よりも強い事ぐらいは分かる。恐らくアセナ達と同等ぐらいだと思う。

 そんな悪魔が俺に尽くすなどと一体どういう理由なのかさっぱり分からない。

 大人しくしているのが肉体を与えた事と十分な魔力を与えた事と言うのは理解し出来たつもりだが……それでも信じがたい。と言うか目の前の光景が不思議でならない。


 なんでだろうな~っと考えていると今日は人魚姫がやって来た。

 敵意はないが何か覚悟を決めたような様子でもある。

 俺やアセナ、トヨヒメに仕返しに来たっと言う雰囲気でもない。

 俺は気軽に声をかける。


「よ、人魚姫様。一緒にお茶でもどうだ?」

「……ありがとうございます」


 アナザがさっと用意したイスを引いてそこに座るよう促す。

 人魚姫が座るとアナザは新たにお茶の用意をしながら物静かに人魚姫ように準備をする。

 お茶が注がれた事でいいお茶の香りが広がり、アナザがお茶と菓子を置いた後人魚姫は聞いてきた。


「私がユウガ様のパーティーにはいた理由はあなたに接触するためです。黒騎士様」

「へぇ。てっきり復讐にでも来るのかと思ってた」

「……復讐する理由は、ありません。ですが疑問はあります。何故あの時私とお母様を殺さなかったのか、その事を聞くためだけにここに居ます」


 あれ?それって前に言わなかったっけか?


「言ったはずだぞ。殺す理由がないって」

「ですが生かす理由もありません。あの時殺した方が真祖を、そこにいる彼女を手に入れる事は可能だったはずです。何故あの時最も簡単な方法を選ばなかったのですか」


 そんな真剣な表情で言われてもな……

 俺は菓子を食って茶で軽く口の中をさっぱりさせた後何て事のない事を言う。


「そりゃできるだけ恨まれたくないからな。本気で惚れた女とその子供を殺したお前の父である国王の怒りも相当なものになってただろ。俺はそれを回避する方法があった。だから回避しただけだ」

「回避?それだけの力がありながら?お父様の質問に対して自分の平和こそ最も大切だと言い切ったのに?」

「別に変な話じゃないだろ?とりあえず茶を飲んで菓子食って落ち着け」


 そう言ってから話を無理矢理切ると人魚姫はお茶と菓子を食べる。

 アナザお手製の菓子とお茶のうまさに驚いたのか、ちょっとだけ菓子に視線が集中する。

 程よく落ち着いたか所を見計らって俺は言う。


「確かに俺は俺の平和が1番大切だ、それは変わらない。でもだからって誰かの平和を壊す様な事を好んでいる訳でもないんだよ。確かにアセナ達真祖と言う存在は強大で人類にはどうしようもない天災に近い存在かも知れない。でも解放された後こいつ等は何か悪さをしたか?ただ俺の元で平穏に暮らしているこいつ等のどこに再封印する必要がある?」

「それは今だけでは。今は黒騎士様が止めて下さるかもしれませんがその後は?今後彼女達が人間の平穏を壊さない保証はどこにもないでしょう」

「確かにそう言われると確証なんて簡単に言えないよな。でも、最低でも俺の眼が黒い内は人間の平穏もおまけで守ってやるよ。アセナ達を穏やかに過ごさせるって形でな」

「……とても信用できません。キリエスでは多くのドラゴンのが彼方の指示で攻めて来たではありませんか。それ以前にドワーフの兵士を殺したではないですか」

「あ~あれな。ドワーフのは手加減間違えた。思っていたよりも鎧の性能が良くてな……つい間違えた」

「ついで殺されては困ります。だからこちらは無情な存在として警戒していたのに……」


 小声で言ったつもりかもしれないがばっちり聞こえてるぞ。

 色々と俺の行動を考えて殺されるんではないかと思っていたらしい。

 だが俺はそんなつもりは全くないのだからそんな怖がらなくてもいいじゃん。


「とにかく俺は自分のためだけに動いてるのは本当だ。アセナ達が居ないと俺は幸せだと感じない、アセナ達が居ないと飯すらあじっけない、面白くない、楽しくない、奪われたくない、壊されたくない。そんな感情ばっかりだよ」

「……随分と自己中心的なんですね。民を考えるお父様とは大違い」

「そりゃそうだ。でもあの人も思っていたはずだぞ。妻である王妃を助けたいって、もっと一緒に居たいって。お前は王族としての役目を果たすためなら王妃を見殺しにしてもいいってか?」

「そんな事ある訳ないじゃないですか!!」


 人魚姫は立ち上がりながら言う。

 俺はそんな人魚姫を指差しながら言う。


「所詮人間なんて自分のために生きてるんだよ。家族を失いたくないから、今ある幸せを失いたくないから、恥ずかしげもなく好きと言える相手が遠くに行ってしまうのが嫌だから。俺達は足掻くんだよ。どれだけお前が家族を思う気持ちが美しかろうとも、所詮お前の勝手なんだよ。俺は俺の幸せのために勝手に生きてる。アセナ達の封印を解除して平和に暮らすのは俺の勝手だ。他人が入り込む余地など一切ない。誰に言われようと止める気はない。傲慢?身勝手?どうとでも言えばいい。所詮この世は誰かの勝手と誰かの勝手が滅茶苦茶に絡み合っていくんだよ」


 全て勝手と言い付けた俺の言葉に人魚姫は怯んだ。

 そして俺は続けて言う。


「だから俺はその分だけできるだけ相手の勝手で同意できる部分は同意する。妻と子を失いたくないと言う国王の気持ちは分かる。だから殺さない選択肢を取った。まぁ元々お前と王妃を殺して飛び出たとしても不完全な状態なのは目に見えてたし、する気もなかったけどな。これでお前の知りたい事は分かったか?人魚姫」


 そう言うと人魚姫は力なく椅子に再び座る。座ると言うよりは崩れ落ちると言う方が正しいか。

 人魚姫は茫然としながらアセナとトヨヒメに聞く。


「あなた達はそれでよろしいのですか?彼は全て自分のためだと言い切りましたよ?」

「前から聞いてる。タツキの独占欲。自分の幸せのため」

「タツキお兄様は歪んでる。でも愛がない訳じゃない」

「歪んでいると分かっていながらも構わないと?」

「タツキはタツキ。それでも構わない」


 そう言って人魚姫に見せつける様に甘えると人魚姫は信じられないとでも言うように目を大きく広げる。


 そしている間に魔物の気配を感じた。

 作業員たちはまだ休憩しているが俺達は護衛なのだから動くべきだろう。


「タツキ様。アナザが参ります」

「いや、良いよ。動いて身体温めたいし」

「ではお茶のお替りを用意して待っています」

「おう頼んだ。アセナ達はいざって時のために待機な」

「分かった」

「行ってらっしゃいお兄様」


 その後5メートルのアザラシを仕留めたのだが帰ってきた時は既に人魚姫はいなかった。

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