街と冒険者登録
森の外を目指して1時間ぐらいだろうか、ようやく森の外に出ることが出来た。
「お~久しぶりの外だ~」
「久しぶりってどれぐらい森に居たんですか?」
「え~っと、ざっと1週間ぐらい?」
マルダが聞いてきたので適当にそう答えるとマルダは驚いたように目を見開く。
「よくそんなに長い時間生き残れましたね!しかもこの森で!」
「運だけはあるんだよ俺」
「それよりジョージさんを早く運びますよ。止血はされていますが急がないと」
「そ、そうですね。森を出れば比較的安全な方ですし、急ぎましょう」
どこまでもジャンヌは生真面目だな。
俺はジョージさんを背負いなおして2人の後を追う。
そこからさらに15分ほど歩いただろうか?人とすれ違ったり、荷馬車とすれ違ったりするようになってきた。
その光景は元の世界では考えられない光景であり、人と言っても明らかに冒険者や魔法使いのコスプレの様な恰好をしている。
でも周りは何1つ変な者を見る様な目線は送っていないのでこれが普通のようだ。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
ジャンヌ急かす様に言うので素直に従おう。そりゃ人命がかかった状況だから当然と言えば当然だけど。
で、やって来た国の門番が登場。こういう時って証明書が無いって事で最初のイベントみたいな感じになるはずなんだが……
「救命です。急いでいます」
「え、ですが彼の」
「私が保証人となります。よろしいですね」
「は、はい……」
ジャンヌの一言であっさりと通れてしまった……なんか拍子抜けだな。
他の3人は騎士の鎧を着ている事で既に証明書代わりになっているようだが、俺って本当に通ってよかったのか?
本当に大丈夫なのか~っと不安になりながらも俺はジャンヌ達と共に教会に向かう。
向こうの世界でも教会と言うものはちゃんと見た事が無いが……意外と地味だな。
レンガを塗装していないのか茶色いまんま。教会のてっぺんと思われるところに十字架があるのは同じか。それとも単にこの教会に金が無いだけか?正直教会って真っ白なイメージが強いけど。
「タツキさん!こっちです!」
マルダ言われて教会に入る。
内装はベンチみたいなイスがあるだけで地味だ。その先には神様をイメージしているのか人型のステンドグラスが描かれている。
その下で慌てて真っ白い綺麗な布を敷いているシスターっぽい人や神父っぽい人たちが何かの準備をしている。ジャンヌもその手伝いをしていた。
「ジョージさん。もうすぐ回復できますからね」
マルダは俺の背にいる彼に優しく声をかける。止血の薬草を使っているからか呼吸は安定している。と言っても医療に関しては素人なので本当に大丈夫なのかどうかまでは分からないが。
「タツキさん。彼をこの布の上に寝かせてください」
どうやら準備が整ったようでジャンヌが俺を呼ぶ。
俺はそこまで歩き、シスターや神父に手伝ってもらいながら彼を寝かしつけた。
パッと見では血はちゃんと止まっているように見える。だが傷跡が消えているわけではないのは俺がよく知っている。この薬草のおかげで助かったことが何度もあるし。
「お待たせしました。これより彼の治療を始めます。少し下がっていてください」
そう言いながら現れたのは金髪碧眼のシスターさんだ。王道だな~と思いながらも予想より大人だとも感じる。
こういう時ってたいてい俺と変わらないぐらいの10代の女の子が出てくるものだと思うが、シスターは20代半ばから30代前半の様な感じがした。
そういや神の祈りで~とかなんとかマルダが言ってた気がする。長い時間神様にお祈りしないと使えない魔法なんだろうか?ちょっと不便じゃない?
てっきり魔法ありなんなら誰にだって使えるものだと思ってたし。
他のシスターや神父と同じように彼女の邪魔にならないように下がる。
彼女はまかれていた布をはがして傷の具合を見た。彼の腹には俺が押し付けた薬草がみっちりとくっついているが、その葉っぱは既に真っ赤に染まっている。
他のシスターたちは目をそらしたり可哀そうな目で見ている。
彼女は葉っぱをはがさずに祈るようなポーズをとった。
十字架を手に必死に祈っていると彼の腹部に光が当たる。いや、光が当たったのではなく彼の腹部が薄い金色に光っていた。
こんなの初めて見るなっとまじまじと見ていると途中で光が消えた。
もう終わったのかとシスターを見ると顔中汗まみれになっており、疲れ切った様子だ。
シスターは立ち上がろうとしてふら付き、倒れかけるがジャンヌに支えられた。
「治癒魔法、終わりました。あとは彼を寝室に」
「はい」
「シスターもお休みになって下さい。治癒は体力を消耗するでしょう」
「ええ。少し、休ませてもらいます。それからそこのあなた」
「ん?俺ですか?」
「ジョージを助けていただき、ありがとうございました」
「俺がしたのは止血だけですよ。それより疲れてるなら休んでください」
「失礼します」
シスターさんにお礼を言われたが本当に止血をしただけだからな……お礼と言われてもそんなたいした事をした気にはならない。
シスターさんに肩を貸していたジャンヌはそのままシスターさんを運んで行った。
で、取り残されたのは俺とマルダだけ。
とりあえず……冒険者ギルドって感じの物があったらそこに行こうかな?骨が売れるって本当何だか怪しいが。肥料にでもするのか?
そう思っているとマルダが聞いてくる。
「えっと……そう言えばこの国を目指していたようですが何か目的が?」
「え?ああ、まぁ軽くな。田舎暮らししてたから他の国とか見て見たくなってな、田舎を飛び出して来たばっかりなんだ」
「そうなんですか。それなら私がご案内しますよ」
「え、マジで?そりゃ助かる」
「いえいえ、ジョージさんを助けていただいたお礼です。このぐらいならいくらでも頼ってくれていいですよ」
そう言いながら俺達は教会を出る。そう言えばマルダってジョージに対して報告書とか書かなくていいのか?大丈夫だから俺に案内するのかも知れないけど。
「それでどこかご希望の所はありますか?流石にこの街にない施設の案内とかはできませんけど」
「それじゃ魔物の骨を買い取ってくれる場所に案内してくれないか?」
「魔物の素材ならアヴァロン組合が良いでしょうね」
「アヴァロン?」
「以前は冒険者組合と呼ばれていた組合ですよ。最近カッコよく名前が変わったんです」
つまりゲームで言うギルド的な組織がそこだと思っていいんだよな?
にしてもアヴァロンね……俺同様に居世界から来た奴が仕切ってそうなネーミングだな。名付けたのは絶対中二病拗らせた奴だな。うん。
マルダの案内でついでに街の様子も見ていたが何と言うかレンガで出来た街並みなので凄く違和感がある。
歴史の教科書で見た、中世ヨーロッパの街並みってこんな感じなのかな~っと思う。ビルでもなく、俺の知っている家でもなく、レンガ造りの家ってだけでなじみがない。
まぁ~慣れればなんてこと思わなくなるんだろうけどさ。
「ここですよ。ここがアヴァロン組合イングリット支部です」
レンガで作られた2階建ての建物だった。
入口の上の所に大きな旗印が巨大な釘で止められている。旗印は騎士が城に向かって歩いている様なマークだ。
足元の部分だけは石造りのようで流石に全てレンガで出来ている様ではなさそうだ。と言っても地震には弱そうだけど。
扉は西部劇で見る様な押しても引いても入れる扉になっており、簡単に出入りが可能となっている。
マルダが先に入り、次に俺が入るとギルドの中は結構騒がしかった。
酒を飲んで盛り上がっている団体、地図を見て何か相談している団体、ボードを見ている数人のチームなど様々な人達が好き勝手している。
ただ思ったのはファンタジーあるあるでおなじみの獣耳のある人が見当たらない事だろうか。
それともここには居ないだけで他の国とかには居るんだろうか?
その辺はこの世界の常識を調べながら言った方がいいか。
マルダは3つ並んだ受付と思われる場所の1つに声を掛けた。
「オルニさん。魔物の素材の買取をお願いします」
「あら、マルダちゃんじゃない。今日は騎士のお仕事じゃなかったかしら?」
オルニと呼ばれたのは受付のおばちゃんだ。
マンガとかで見る人のいいおばちゃんと言った感じの人で安心感がある。
「いえ、今日はこの人の素材を買い取ってほしいんです」
「ん?彼は誰だい?」
「初めまして。俺はタツキ、旅をしています」
どう言えばいいのか分からないのでとりあえずそう言ってみた。
俺の世界じゃ旅人なんてろくに聞かないが、この世界の交通網は元の世界よりも低そうだし大丈夫だろう。
「そうかい。私はオルニ、このイングリット支部で買取専門の受付嬢をしているよ」
「彼は田舎から出てきたばかりであまり町について詳しくないそうです。アヴァロンの事もよく知らないみたいで……」
「あら珍しい。最近は重要な国だけじゃなく、色んな国とかにも手を伸ばしているって言うのに」
「お恥ずかしながら、本当に何もない田舎でして」
気まずそうに頭を掻きながら言うとオルニさんは信じてくれたようだ。
オルニさんは頷きながら言う。
「それならアヴァロンについての説明から始めさせてもらうが良いかい?」
「ぜひお願いします」
「それじゃ説明すると、受付は基本的に4つある。1つは依頼達成用受付、これは冒険者が依頼をこなしてきた事を受付に証明する所だからあんまり気にしなくていいよ。2つ目と3つ目は依頼に応じた素材を渡すための受付と、ここの冒険者じゃなくても買取を行う受付の2種類ある。大抵はばらけているはずだけど、規模的に2つ一緒になっている受付もあるから気を付けておいた方がいいね。で、最後の4つ目は冒険者に依頼するための受付だよ。これは依頼内容を確認しながら内容にあった依頼金を用意してもらうから気を付けておきな。大雑把にはこんなもんかね」
意外と設備はしっかりしているんだな。
結構大きな組織のようだし信頼も厚いのかも知れない。
なら続けて聞いてみよう。
「俺が冒険者になりたいって言った時はどの受付に行けばいいですか?」
「それならこの受付と一緒になってるよ。この部署は基本的に暇だから」
「暇って」
「実際薬草や魔物の素材となると冒険者から買い取る事の方が多いんだよ。来るとしても精々小遣い稼ぎに来た町の子供が薬草を片手にやって来るぐらい。基本的に暇なんだよ」
「へ~それじゃ来ないですね」
「それでどうだい。冒険者になってみる気はあるのかい?」
「ちなみに冒険者になった際の良い事ってあります?」
「基本的には国に入りやすくなる程度、かね。冒険者として他国を巡る事はよくある事だから同時に通行証明書にもなるんだよ。後はこの国にはないけど図書館で一定のランク以上になっていれば閲覧できる本の種類も増えるって聞くね」
随分と信頼が厚いな冒険者。
それともアヴァロンに信用があると言った方が正しいのか?
そしてオルニさんは確かめる様に言う。
「それで、冒険者になるのかい?」
「なるよ。国を自由に行き来できる証明書は必要ですから」
「あの~タツキさん?素材の買取は……」
あ、忘れてた。つい話し込んでしまっていた様だ。
マルダに笑って誤魔化しているとオルニさんは言う。
「そう言えばそうだったね。手ぶらに見えるが……」
「あ、この骨を買い取ってほしいんです」
そう言ってから少し開けたところにとりあえず雷を纏ったライオンの骨を一式別腹から取り出す。
ガラガラと音を立てながら取り出してから改めて言う。
「これ知り合いが言うには結構高値で売れるって聞いてたんですけど……本当に買い取ってくれるんですか?」
そう言うとオルニさんは骨を拾って集めながらじっと見る。
そしてこう言った。
「あんた……これあんたが倒したのかい?」
「え?ええ」
「なんの魔物か知ってて狩ったのかい?」
「いや、名前とか全く知りませんね。何というか、雷を纏ったまま攻撃してくるライオンでして……」
そう言うと周りの雰囲気も何だか変な方向に向かっている様な気がした。
何と言うか……俺の骨が本物かどうかじっと観察されているというか、俺自身が本当に持ってきたのか怪しんでいるというか……
マルダの方もこの空気に感化されているのか俺の袖を軽く引っ張りながら聞いてくる。
「あの……タツキさん?もしかしてその魔物、スパーキングレオじゃ……」
「スパーキングレオ?なんだそれ?」
「タツキさんと会ったあの森の中心部分に住んでいる化物ですよ!!常に雷を纏い、獅子とは思えない俊敏さで動く雷獣ですよ!!」
「あ~特徴だけは合ってるな。でもそれなのかどうかは本職の人に確認取ってもらわないと」
そう話している間にオルニさんは片眼鏡を取り出して骨を1つずつ確かめる様に見る。
全ての骨を見たかと思うと、オルニさんは疲れた様にして言った。
「……これ、全部本物のスパーキングレオの骨だよ。全く、とんでもない物を売りに来たもんだ」
俺にはその価値が分からないが周りの冒険者達は大声を上げて驚いている。
マルダはブルブルと震えているので価値が分かっているんだろうか?
「なぁマルダ」
「は、はひ!何ですかタツキさん!!」
「この骨って何に使うんだ?知り合いは教えてくれなくてさ、やっぱ細かく砕いて畑の肥料か?」
「そんな事ある訳無いじゃないですか!!」
ぬお!ものすんごい勢いで言われた。
ち、違うのか。
「魔物の素材は一般的に魔道具や武器として利用されます!!特にS級、あの森の中心部に住んでいる魔物達は特S級とまで言われており、1匹狩れば英雄扱いですよ!!」
「そ、そんなレベルの魔物だったのか?と言うか武器ってどうやって作るんだよ?あれ骨だぞ?」
「詳しい事は分かりませんが、骨でも十分に魔道具や武器になるんですからその事実で十分です!!道理でビックボア相手に怯まない訳ですよ……」
う~む。
どうやら俺は知らず知らずの内にとんでもない強者になっていたらしい。
そりゃ何度だって言うけどあいつらとの戦いは毎度命がけでしたよ。と言うか今でも命がけですよ。
となると……あの牛の骨とかもしばらくは持っておくか。
ここで出したら大問題になりそうだし。
「で、いくらぐらいになりそうなんだ?」
「そうだね……ちょっと金庫を開けてくるよ。どのぐらいの金貨が残ってたかね?」
金貨?この世界って紙幣はないんだな。
まぁある意味テンプレか。異世界物で貨幣が出てくる事ってそんなにないし。
それから金貨の価値についても知っておかないとな。
マルダにあとで教えてもらお。




