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転移して1年経ちました

 あれから早1年が過ぎた。

 とっくの昔にこの世界で来た時の制服はボロボロ。ブレザーの上着に関しては冬場しか着ていなかったので原形はとどめているが、それでもほつれたり破けていたりする。

 今じゃ原始人とでもいうのが正しいだろう。

 狩った獲物の皮を何重にも重ねて木の蔓を使って結ぶ事で靴の代わりにしたり、と言うか全身狩った動物の皮で包まれているので他の人から見たら新種の動物かも知れない。

 そしてこの1年野生児として生きている間にスキルの使い方は全てマスターした。


 まず『捕食』は必ず対象に触れないと発動できない。触れる箇所は手でも足でも問題なく発動できるので結構便利だ。

 ただ腹が満たされる事はない。

『捕食』と言うスキルを利用した攻撃と言う意味なのかも知れない。


 それから『捕食』した物は全て俺の血肉に変わる訳ではない。

 ファンタジー物の定番、収納スペースの様な物も備わっていた。

 俺はこの空間を個人的に別腹と呼び、拾った石や止血に使える草などを別腹の中にしまっている。


 次に『変質』このスキルがどのように発動しているのかに気付くのは結構時間が掛かった。

 このスキルは常時発動型と言えるものでいつ使っているのかどうか判断に苦しんだ。どうやらこのスキルは食った獲物の特徴を俺の身体に直接変化させるものだった。

 あの牛を食ってからは俺の筋力が上昇したし、別な時に襲ってきたトラに似た生物を食った時は俺の爪が強化され、コウモリ食ったら聴覚と声帯が変質した。

 とまぁこんな感じで食った獲物の能力をコピーする、というピンクのボールみたいな可愛い奴と似たり寄ったりの力を得た。

 しかもこれらの能力はすでに俺の身体に定着。吐き出せないし、吐き戻す事など出来やしない。


 そして失敗したのは鉱物に関してだ。

 この変質を使えばゴーレム的な感じで俺の皮膚を石に変質させる事が可能かと思ったが駄目だった。

 理由はいまだ不明だが、その食った鉱物の情報そのものは何となくだが得ている事は分かっている。

 恐らく身体を鉱物に変える事が出来ないのか、その過程で問題があるのかも知れない。その辺はまたそのうち確かめてみるとしよう。


 しかし『変質』のスキルで形状を変える事は可能だ。

 簡単に言えば拾った石を粘土の様に俺の好きな形に変える事が出来る。

 それから拾った鉱石と思われる石は『変質』によって不純物を取り除いて別腹の中にしまっている。そのうち何かの役に立つかもしれない。


 次に『身体強化』の性能は格段に向上した。

 人間の身体で身体強化しても大した力にはならないが、動物の力がさらに強化されれば話はまるで違ってくる。

 どれだけ頑張っても人間と言う生物には限界があるが、俺の『変質』があればより効果的で強い筋肉を作り直す事がいくらでも可能だからだ。

 それにより俺はより強靭な肉体を手に入れ、『身体強化』の効果はより増したという訳だ。


 最後に『自己再生』だが、今じゃ『高速再生』と言うスキルに変化している。

 前にライオンに似た生物に襲われた時に大怪我を負ったのだが、その時に命の危険でも感じたせいか途中で再生能力が一気に高速化された。

 これにより俺は一命をとりとめた訳だが……スゲー腹が減った。

 おかげでその日は獲物を普段よりも多く食う事になり、しかもまたライオンが俺の獲物を横取りしようとしたのでぶん殴っておいた。


 とまぁこんな感じの1年だった訳。

 この世界にも四季と言うものはあるらしく、冬場は獲物を探すのに苦労した。時々冬眠している動物を探して回ったり、大自然と言うものは本当に大変だと身にしみる。

 と言ってもオチとしては途中で冬眠できる身体に変質させ、とにかく寝て冬が過ぎるのを待っていただけだけど。


 そして現在は多分春。

 様々な生物達が目を覚まし、出産ラッシュとなる時期だろう。

 さて、それじゃ久しぶりに腹いっぱい飯を――


『ちょっとストップストップ!!え、なんで君世界を掻き乱さないの?僕君にすんごい期待してたんだけど!?』


 …………………………あ、自称神だ。


「何でお前ここに居んの?神様がここに居ていいのか?」

『だって君ここに引きこもってばっかりなんだもん!!確かに好きに生きていいよとは言ったよ?でもね、もっと掻き乱す様な事をして欲しいんだよ!!それに前の君はどうしちゃったの!?前はもっとねちっこくて、世界の事なんか興味なくて、ずっと暇そうにしてたじゃないか!!』

「今の生活は充実してるし、毎日狩りをしないと文字通り食っていけないんだから仕方ないだろ?それに最後に好きに生きろって言ってなかったか?」

『それは……確かに言ったけど!でももっと広い世界を見たいんじゃないの!?あの世界では体験できない事をしてみたくないの!!』

「それは……確かにしてみたい」

『なら!』

「でもこんな原始人みたいな恰好で町に出ろと?田舎ものでもこんな原始人みたいな恰好はしてないだろ?」


 確かにこの世界を冒険すると言うのは面白いだろう。

 だがこんな原始人みたいな恰好でいいのか?俺の一張羅はとうの昔にボロボロだ。


『それじゃ……特別に君の服を直してあげるからそれ着て町に行きなさい!!その服ってどこ!?』

「あの神殿の中」


 そう言うと自称神は飛んで行った。

 それじゃ今の内に獲物でも狩って来るか。


 -


『ちょっと君!どうして僕が服を直している間にどっか行っちゃうかな!?』

「だって腹減ってるし、お前も食うか?」

『それブルーバイソンじゃん。直接食べれないからお供えして♪』

「お供えって……どこにお供えすればいいんだ?」

『ほら、君がこの神殿に来た時に立ってた場所。あそこが1番いいお供え場所だから。早く早く♪』


 言われるがままに牛の肉を2キロぐらいのブロックにして、デカい葉の上に乗っけてお供え物として置く。

 お供え完了と思った瞬間に肉は消えてなくなった。これどういう現象だ?


『わ~い♪久しぶりにお高いお肉だ~』

「喜んでいるところ申し訳ないが、俺の服はどうなった?」

『あ、それなら元の場所にあるよ。それから神様チートで二度と壊れない様にしておいたし、自然と服のサイズも調整されるようにしておいたから』

「ほ~それはありがたいな」


 どうもこの世界に来て野生児生活を送っている間に結構痩せたし筋肉も付いた。

 今時の中性的なイケメンだったらモテたんだろうな……


『中性的なイケメンになりたいなら出来るよ』

「え、マジで?」

『だって『変質』を使って顔を変えればいいじゃない。天然整形だから傷も全く残りません』

「あ~そう言う使い方も出来たのか。でもしない」

『あれ?中性的なイケメンになりたかったんじゃないの?』

「そこまでモテたいがために整形とか馬鹿らしい。この顔を好きだって言ってくれる奴を探すよ」

『その方がいいかもね。ちゃんとしたイメージがないと派手に失敗する時もあるから』


 それは素直に怖いな。

 ちゃんとしたイメージが出来ていないせいで顔がぐちゃぐちゃになったらそれこそ最悪だ。

 そんな雑談をしながら俺は服を着替える。

 久しぶりのパンツにちょっとキツい気もするが、まぁ問題ないか。

 痩せた分大丈夫かと気にしながらはいたズボンは丁度いい。上着のブレザーもむしろ以前より着心地がいいぐらいだ。


「うん。丁度いい。直してくれてありがとな」

『このぐらいサービスみたいなものだって。他の神々も1人ぐらいお気に入りが居て特別扱いしてる奴も居るから』

「ほ~そんな神様も居るのか」

『だから僕は君を支持させてもらうよ!何か困ったら僕の神殿でお祈りすればいいからね♪』

「それは分かったが……お前の名前は何だ?」

『え、名前?僕に名前はないよ?』

「え、ないの?」


 逆に驚いた。

 神様にだって大抵は名前あるだろ?小難しい漢字が並んでてよく読めないのが多いけどさ。


『だってねぇ?僕の事みんな“創造神”って呼ぶけど名前は決まってないんだよね……』

「そんじゃこの場でお前の名前決めてやるよ。それじゃ………………マコトってのはどうだ?」

『マコト?それってどんな意味?』

「特に意味はない!!ただ神って字はシンとも読み、シンって読みからマコトってイメージしただけだ」


 そう言うと自称神は笑った。

 腹を抱えて笑っているがそこまでおかしいか?

 それともそんなにセンスない?


『い、意味はないって!そんな風に名前を決められたのは初めてだよ!!それじゃ僕の事をマコトと呼ぶと良い!!』


 よく分からないがそう呼んでいいのならそう呼ぶとしよう。


「それじゃマコト。1番近い町ってのはどの方向だ?」

『1番近い国は北西、イングリッドだね。小さな国だけどいい国だよ』

「ならとりあえずそこに行く。服ありがとな!」

『ちょっと待って!そこにある骨全部持って行った方がいいよ!!』

「は?何で骨なんか持って行かなきゃ……」

『それ人間達の間では意外と売れるんだよ。お金は必要でしょ?』


 骨が売れるって肥料にでもするのか?まぁとりあえず持って行くとしよう。

『捕食』のスキルには鉱物などを溜め込んでいるよく分からない空間がある。この空間を個人的に別腹と呼んでいるのだが、ここにしまえば問題ないか。


『それじゃ行ってくると良い!!世界を乱す者よ!!』

「そのフレーズ絶対災いを呼ぶ類のフレーズじゃね?まぁ別に呼び方ぐらいどう言われようが関係ないけど」


 こうして俺はグダグダだが旅に出かける事になったのだった。

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