人望のない長女
4体の悪魔達を召喚した翌日、国王から俺は言われた。
「昨夜法王より連絡があり、タツキ殿と面会したいと言っている。タツキ殿はどのように思われる」
俺と真祖達、ヒノ先生と子供達、ユウガ率いる勇者パーティーと人数が多いので食堂の様な所で朝飯を食っていたのだが、そこに国王がやって来てそう切り出したのだ。
ヒノ先生とユウガたち常識人組は驚いた表情をしている。
俺は口の中の物を飲み込んでから聞く。
「法王って教会のトップだよな?もう宣戦布告か?」
「そうではない。昨日の話で知った事だが法王の心は既に砕けている。孫娘の声が失われたと聞いてからな」
「なるほど。それじゃ逆に聞くが教会全体が真祖封印を諦めると?」
「それもないだろう。過激派は神のためになら何をするか分からない集団、法王の言葉でも止まらない可能性は高い」
「そんじゃなんで俺に会うんだよ。と言うかここで会うのか?俺達もうすぐ狐の真祖の方に行こうと思ってたんだが……」
トンネル工事は順調に進み、自然に生息している魔物達によって破壊される事もなく、意外なほどに順調に進んだ。
どうやら氷を作る際に出来た凹んだ場所にトンネルを作ったのがちょうどよかったらしく、その上を歩いて行くので邪魔になっていない。
トンネルの下に居る作業員たちは怖がっていたが、何事もなく過ぎ去って行った時には安堵したとか。
しかし出入り口から侵入してくる可能性は高いので、そこにだけは兵を並べて侵入されないように厳重に守ると言っている。
突発的な工事だったので、今思えば魔物対策用に逃げ道を確保しておくべきだっただろうが……次回からそうするか、今のトンネルを改造して頑張ってもらいたい。
そして終わりも見えてきたので次の真祖、狐の真祖が居る東方に行く事にしたのだが……何故か子供達だけではなく、ユウガたちまで付いて来るというのだから世の中分からないものだ。
子供達に関しては俺達が住んでいる家まで送り届けてからのつもりだったんだが……ついて行くと聞かないので付いて行く事にした。
これだけ真祖いっぱいの所に喧嘩を売るバカはそういないと信じたいが……そう決めてしまったのだから仕方がない。
「謝罪と今後の相談と言っていた。過激派はともかくとして、中立派や温厚派には温情をかけて欲しいと言っていた」
「う~ん。まぁ~別に良いけど……後から攻撃を仕掛けてくるって事はないよな?」
「それはありえません。法王の心は完全に折られ、抵抗すら考える余裕はないでしょう。話を信じるのであれば被害は過激派のみに押し付ける形でしょう」
「あくまでも温厚派、中立派は関係ありませんで通したいわけか。ま、俺達の平穏を犯さないのであればそれもありか」
敵が1人でも減るのであればそれは助かる。
それに宗教を根絶やしにするって相当無茶な話だろ。どれだけ厳しく取り締まったとしても、消えないのが信仰心と言うものだろう。
「俺は構わないが……アセナ達はどうだ?」
「構わない。邪魔さえしなければ」
アセナがそう言うと他のみんなも同意見の様だ。
信仰と言うものに全く興味がなさそうだ。
「だってさ。アセナ達も気にしてないし、良いよ。温厚派と中立派が何もしないのであれば俺達も手を出さない。それから……いつごろ会うつもりなんだ?」
「狐の真祖様が居る地、東方の獣国です。獣人達が多く居る地であり、大国の1つでもあります」
「お、ケモミミ大国か。それならアセナ達が珍しがられる事はなさそうだな」
なんでかは分からないがこの大陸の西、つまり教会に近くなればなるほど獣人の姿は見なくなっている。
単に遠いと言う理由だと思っていたがそうでもないらしい。
何でも教会過激派は人間こそが至高であり、神様に最も愛された種族であると言って獣人をイジメていたりしていたという。
なので獣人は教会嫌いである事が多いらしい。
その事を国王から説明されると、ふとユウガたちの事を見た。
「そう考えるとユウガたちは大丈夫なのか?思いっ切り教会の人間だろ?」
「僕達の方も大丈夫だよ。確かに教会に所属してるけど、ほとんど冒険者みたいな事もしてるから。ヒジリが予言してくれた所には獣人が居る場所も何度か助けたし、大丈夫なはずだよ」
「そうなの?」
「その通りだ。獣人族から勇者への悪評はあまり聞きかない。ただ教会に属しているので多少疑われているという感じか」
国王がそう言うのであれば多分大丈夫だろう。
むしろ法王の方が獣人の国に行って大丈夫なのか?っと言う心配の方が出てくるが、多分大丈夫だから行くんだろう。
強そうな護衛も連れて行くだろうし。
「それじゃ今度獣人の国で法王と会ってみるか。にしてもなんでだろうな……」
「タツキ?」
最後のつぶやきにアセナが反応した。
俺は苦笑いをしてから言う。
「聞こえた?」
「聞こえた。何がなんで?」
「いや、最近こう、権力のある人とばっかり話をしてると思ってな。ここに居る国王もそうだし、次は法王と話をする約束が付いたんだ。自由気ままに生きてたはずなのに、何でこうなったんだろうと思ってな」
「強者の周りには強者が集まる」
「そう言うもん?」
「そう言う物。私もタツキと言う強者に惹かれて妻になった」
「それは……素直に嬉しいからまぁいっか」
アセナと一緒になれたのがそのよく分からない現象?だと言うのであればそれでいい。
たま~に運命じゃない~とかいう作品もあるけれど、好きな奴と一緒にいれるのであれば、俺は運命だろうが偶然だろうが構わない。
そんな風にしていると、ちょっと遠くでトキが頬を膨らませていた。
あれは食いもんが口の中にある訳じゃないな。普通に不満なんだろう。
そしてその頬を突っついているのがアラドメレク。頬の空気が抜けてトキが珍しくアラドメレクに軽いパンチを何度も当てる。
「それじゃ法王に会って狐の真祖を解放しておかないとな。ところで狐の真祖ってどんな奴なんだ?」
そうアセナ達に聞くと、全員が黙った。
なんでだろうと思っていると、アセナが自然と不機嫌なオーラを漏れ出すし、それにビビるユウガたちと国王。
ため息を付いたアスクレピオスが口を開いた。
「簡単に言うと、とてもうるさい長女です。何かと私達を引っ掻き回す様な事もしましたし、神の真似事をしていた時期もありました」
「神の真似事?それってジャッジみたいな?」
「ジャッジよりも人間と近い生き方をしていますよ。長女は地に関する能力を持っているので、それを利用して土地を開発したりする事で直接信仰を集めていたのです」
「……そんな悪い奴には聞こえないが?」
「悪い方ではありませんよ。でも……それ以上に媚びるような性格と言うか、うざったい性格と言いますか……アセナ姉さまが嫌っている理由はそこです」
あ~。確かにそう言う性格の人をアセナは嫌いそうだな。
と言うか確か双子って前言ってなかったか?それなのに長女はウザい性格で、次女は大人しい性格って何?世の中の兄弟はバランスを取るために~とかって噂は聞くけど、あれ本当だったんだ。
そしてアセナは不機嫌なオーラを垂れ流しにしながら言う。
「あれは嫌い。何かと私に突っ掛かって来て姉だからって調子乗ってるし、かと言って何もできない口だけの存在が。どうせその国でも酒池肉林で怠惰な生活をしているだろうし、どうせ自分じゃ何もしない人にやらせるだけのクズ。あんなの要らない。むしろ完全に封印してやる……」
アセナが今までに聞いた事ない恨み節を語ってる!?どんだけ嫌われてるんだその狐は……
とりあえず他の妹さん達にも聞いてみる。
「私も嫌い。一応長女だけど敬意は払う価値なし」(猫)
「狐の姉さまは……無茶な要求をしてきたのでちょっと……」(蛇)
「えっとね、一緒にイタズラした事あるよ」(烏)
「うるさいから嫌い」(鮫)
「人望なさすぎないかその狐!?」
どんだけウザいんだその狐……
ヤタは一緒にイタズラしたとか言ってるけど、妹と一緒にバカする姉ってどうよ?1つか2つぐらいの差ならともかく。
とりあえず5分の4は嫌いか。
だからあそこまでアセナは狐の真祖は最後と言い張ってたのか……
よく分からんがその国でも人望がなくて獣人の人達に迷惑かけてないよな?
喜んで連れて帰って下さい的な事を言われたりしないよな?
初めてだな……真祖を取り返す事が不安な状況。
どちらかというと身内からの反対が出ないか気になる俺なのだった。




