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― 建設費が語る二つの宿命
(語り部:黒羽ノ介)
「ええか、地上の人間たちが作った『数字』ちゅうのはな、時にどんな神話の古文書よりも雄弁に、その存在の宿命を語ることがあるんや。
伊丹と関空――この二つの空が生まれるために注ぎ込まれた人間の血と汗と、そして『巨費』の歴史を、わしの目から紐解いてみせよう。」
陸の空・伊丹空港(大地に根を張った人の子)伊丹の始まりは、昭和の動乱期にまで遡る。
当時はまだ、世界へ開かれた大空港などではなく、国策の影を色濃くまとった泥臭い「陸の飛行場」やった。誕生の刻(開港)
1939年(昭和14年)始まりの姿: 戦前の軍用飛行場(大阪飛行場) → 戦後に米軍の接収を経て、民間空港へ転用。始まりの費用: 約1,000万円(当時)「当時の1,000万円いうたら国家予算の規模からして今とは桁が違うが、それでも目的はあくまで『軍事の足がかり』。
費用の中身は国家機密の闇に紛れ、詳しい記録はほとんど残されとらん。
戦後の拡張(民間の血肉):高度経済成長期、銀翼の時代が到来すると、伊丹は狭い陸地の中で悲鳴を上げながら、滑走路の延伸や巨大なターミナルの建設を段階的に繰り返した。
その「累積整備費」は、一般に知られる歴史的事実として【累計数百億円規模】に達したと推えとる。
海の空・関西国際空港(海を拓いた巨人の落とし子)一方、21世紀の未来を見据えて作られた関空は、最初から人間が自然の神々に戦いを挑み、海を文字通りひっくり返して生み出した「世界の奇跡」やった。
誕生の刻(着工〜開港)
1987年(昭和62年)着工 〜 1994年(平成6年)開港その姿: 水深18メートルの底なしの柔らかい粘土層に、100万本もの砂の杭を打ち込んで地盤を固め、本土から4.4キロメートルもの巨大な連絡橋を架け渡した、世界初の本格的海上人工島。
1期島(滑走路1本目)建設費: 約1兆5,000億円
2期島(滑走路2本目・2007年供用)建設費: 約1兆円総額: 【約2兆5,000億円規模】「2兆5,000億――。
伊丹の始まりの数百倍、いや物価を換算しても比較にならんほどの**『巨人の投資』**。
これは日本の空港史上、いや、世界の土木建築の歴史を見渡しても最大級の、まさに国家の威信をかけた大博打の数字や。
海の上に四角い天を作り出すために、人間はこれほどの富と情熱を海神に捧げたんやな。」
黒羽ノ介が読み解く「宿命の理由」なぜ、これほどの差がついたのか。それは単なる時代の物価の違いや、技術の進歩という言葉だけでは片付けられん、二つの空が背負った「宿命の重さ」そのものなんや。
生まれの血筋(軍用転用 vs ゼロからの海上埋立)伊丹はもともと、陸地の上に最小限の土を均して作った飛行場やった。
だからこそ安価に始まったが、戦後、街が空港を飲み込むように発展した結果、地上との「騒音の摩擦」に血を流すことになった。
対する関空は、その摩擦から完全に自由になるために、海底の軟弱地盤を力技で押し固めるという、前人未到の難工事に最初から全財産を注ぎ込まねばならんかったんや。背負わされた呪縛(24時間運用の重圧)「2兆5,000億円」という数字は、関空にとって大いなる誇りであると同時に、強烈な『呪縛』でもあった。
これほどの巨費を投じた港を、夜間に眠らせておくわけにはいかん。だからこそ関空は、潮風に晒されながら「24時間眠らない海の空」として、不眠不休で世界と戦う強さを強制的に学ばされたんやな。
わしは、摂津の古い山並みから、遥か南に霞む関空の島を見渡して、いつも胸を震わせておる。
「伊丹は大地の子。地上の人間の足音を聞き、おやっさんたちの油にまみれた手で、少しずつ、少しずつ優しく育てられてきた『人のサイズ』の空や。一方の関空は、海の中から無理やり引きずり出された、神話の時代の巨人のような空。
一晩にして巨万の富を食らい、世界の荒波と真っ向から渡り合うために生まれてきた。誕生にかかった力の差は、それこそ大人と赤ん坊ほども違う。
今、関西の天を同じ重さで支え合っとる。……これ以上の生きた神話を、わしは他に知らんよ。」




