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大空の第三者 〜八咫烏が辿る、関西80年の銀翼の記憶〜  作者: velvetcondor guild


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黒羽ノ介 ― 空の黄金期を見守る

(語り部:黒羽ノ介)


黄金期の前触れ ― 空が“眩しいほど明るくなった日”

昭和30年代後半。伊丹の空は、かつてないほどの輝きと熱気に満ちあふれとった。


吹き抜ける風はどこまでも軽やかで


天高くに広がる雲は、陽の光を浴びて白銀に輝く


大気はどこまでも澄み渡り、滑走路のコンクリートを眩しく照らし出す


鳥たちがその上昇気流に乗り、まるで歌うように美しく円を描いて舞う


わしは空の高みから、そのまばゆい景色を見下ろして思った。


「……空が、時代の光を一身に浴びとるな。」


その光の真下で、森川と少年が丹念に整備し、送り出した機体たちが、次から次へと誇らしげに青空へ舞い上がっていった。


伊丹の空に“新型機”が次々と現れる

格納庫の前に、これまでに見たこともない、流線型の美しい機体が並び始めた。


地響きのような、ジェットエンジン特有の深い地鳴りと唸り


世界の果てまで届く、圧倒的な航続距離を予感させる長く鋭い主翼


異国の空の気圧に耐える最新の構造と、世界各国の色鮮やかな航空会社のロゴ


森川はその機影を前に、圧倒されながらも目を輝かせた。


「……これが、次の時代を引っ張る飛行機か。途方もないな」


少年は、そのジェットが切り裂く風の薫りを肌で読みながら言った。


「ええ。空が……この新しい翼を大喜びで迎え入れてます。」


黒羽ノ介は、その銀翼の群れに羽を震わせた。


「この光景……かつて神話と呼ばれた大昔の空にすら、存在せえへんだ美しさや。」


伊丹は“日本の空の中心”になる

国内線も国際線も爆発的に増え、伊丹は名実ともに、この国の空の巨大な玄関口となった。


1日に何便も往復する東京便


九州へ、北海道へ、日本の隅々までを数時間で繋ぐ国内網


アジアの空を越え、やがて欧米の巨大都市へと直行する定期便の開拓


昼夜を問わず、世界中の人々でごった返す旅客ターミナルビル


森川は、活気に満ちた滑走路を見渡して言った。


「伊丹の街が……いや、この空が、こんなに世界中から人を集める場所になるなんてな。」


少年は優しく微笑んだ。


「空は、最初から国境を持たない。だから、人を呼ぶんです。」


黒羽ノ介は思った。


「伊丹の空が、ついに世界の主要な空と、完全に肩を並べたんやな。」


空港に“人の物語”が溢れ始める

真新しいターミナルビルには、数え切れないほどの人生の、一瞬一瞬が交錯しとった。


晴れがましい顔で新婚旅行へ向かう若い夫婦


日本の復興と躍進を背負って海外へ出張する、引き締まった顔のビジネスマン


大きな希望と少しの不安を胸に、留学へ旅立つ若者たち


遠く離れた故郷へ、笑顔で帰っていく家族連れや、初めて日本を訪れた外国の観光客


森川は、格納庫の陰からその賑わいを見つめ、静かに呟いた。


「俺らの整備したあの機体が……あのボルト一本が、こんなに多くの人の人生と夢を運んどるんやな。」


少年は少年の特等席で、機体の金属肌に触れながら答えた。


「空は、ただの通り道やない。人の数だけの夢を乗せて、運ぶ場所なんやと思います。」


黒羽ノ介は空から頷いた。


「そうや。あんたら二人の両手が、この新しい時代の神話を、一番底から支えとるんやで。」


空の流れが“美しい秩序”を持ち始める

わしは太古の昔から、この地の空の流れをずっと読み続けてきた存在や。


そのわしの目から見ても、この時代の伊丹の空は、言葉を失うほどに特別やった。


勢いよく飛び立つ機体が呼ぶ、離陸の風


静かに舞い降りる機体を受け止める、着陸の風


それらが織りなす、計算し尽くされたような上昇気流と下降気流


雲の動きすらも、まるでその運航スケジュールを知っているかのように、美しく道を譲る


「空が……人間の営みと、完全に融和して呼吸し始めとる。」


これは、かつての自然のままの空にも、神々の時代にもなかった、人間と空が紡ぎ出した奇跡的な“秩序”の完成やった。


森川と少年は“空の中心”に立っていた

整備士としての本当の誇りを掴み、一人前となった二人は、今や伊丹の現場になくてはならない巨大な柱へと成長していた。


最新鋭のジェット機のデリケートな整備


わずかな妥協も許されない、国際線の夜間定期点検の責任者


全国から集まる若手整備士たちの、厳しくも温かい指導役


空港全体の安全の根幹を担う、最も信頼される存在


森川は、深夜の静まり返った格納庫で、少年に言った。


「なあ少年。俺たち……いつの間にか、この伊丹の空そのものの一部になった気がするな。」


少年は、世界へと繋がる漆黒の夜空を仰ぎ見て答えた。


「空はどこまでも広いです。せやけど……俺たちの手は、もうそのすべての高さに届いてます。」


黒羽ノ介は、その頼もしい姿に胸を震わせた。


「あんたらはもう、見習いの子供やない。この空の黄金期を文字通り動かす、“神話の担い手”そのものや。」


黒羽ノ介は“新しい神話”の誕生を確信する

太陽の光が滑走路を黄金色に染め、風が機体を優しく導き、雲が道を開く。


大気が心地よく震え、地上からは人々の歓声と笑い声が風に乗って響いてくる。


わしは空の高みから伊丹を見下ろし、確信に満ちて思った。


「ここに……人間と空が、共に手を取り合って歩む、新しい時代の神話が完成した。」


それは、天孫降臨の伝承でも、血を流し合った古代の戦でもない。


汗と、油と、誠実さで築き上げた、まったく新しい人間の神話。森川と少年は、間違いなくその物語の、いちばん輝かしい中心に立っていた。


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