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79_神官騎士はもう誤魔化せない②(ギズリ視点)

 

「……リゼット様の、ルーツィア・リーステラに対する振る舞いについて、ソレイユ様は何も感じませんでしたか?」


 そうだ、俺はあの時にも疑問を抱いたのだ。

 同じ光景を目にしたソレイユ様が、同じように違和感を覚えていてもおかしくないのではないか。


 一縷の望みをかけたその問いも、空ぶりに終わる。


「何も感じなかったかだと?そんなわけがないだろう!あの心優しいリゼット様のお心が傷つけられたあの瞬間、私は必ずあの方をお守りしなければと心に決めたのだ。なぜなら、聖女を守ることこそが、私の存在意義なのだからな」


 この時、俺は気づいた。

 ……ソレイユ様の瞳が、ほんの少しだけ揺れている。


 ひょっとして、ソレイユ様も本当は心のどこかで何かに気づいているのかもしれない。

 ただ、それを認めることは、聖女に仕えると決めて邁進し続けてきた己の存在そのものを否定することにもつながる。

 ソレイユ様は、認めるわけにはいかないのだ。


 聖女が、己の思い描いたものとはかけ離れていたかもしれないなどと、認められないのだ。


 ──結局、後日、神官モネは神教会を追放されることとなった。

 彼女が神教会を出て行く日、俺はこっそりと見送りに向かった。


「本当に、すまない。俺の力不足だ」


 何もできなかった不甲斐なさを噛みしめ、せめてもと頭を下げる。

 彼女が欲しいのは俺の謝罪などではないだろうと分かったうえで。


 しかし、モネはさみしげな顔でほんの少し微笑むと、俺に顔を上げてくれと言った。


「ギズリ様が私の話を信じてくださっただけで、どれほど救われたかわかりません。それに……今は、少しほっとしているんです。肩の荷が下りた気分とでもいいますか……ソレイユ様直々に神教会からの追放を言い渡されたことで、逃げ出すわけではなく、しかたなくリゼット様の元を去るのだと言い訳がたちます」


「モネ……」


「家族には罰がくだらないと言われましたし、あのままリゼット様のお側に仕え続けて心が壊れてしまうより、よほど良い結果となりました。……ギズリ様、本当にありがとうございました」


 去っていくモネのどこか吹っ切れたような様子が、せめてもの救いとなった。


 ◆◇◆◇


 しかし、このままでいいのだろうか?


 これまではモネがリゼット様の攻撃を一心に受けていた。しかしその彼女がいなくなった今、また新たな犠牲者が生まれるだけなのではないか。

 それとも、モネの何かがリゼット様の気に障っただけで、他の者ならば彼女のお眼鏡にかなうのだろうか?


 モネに代わって新たにリゼット様につく女性神官は現在選定中だ。表向きモネは『聖女を害そうと企てた罪』で追放された形になっているため、その選定は慎重に行われている。


 ただでさえ、瘴気の被害が増え、リゼット様の魔法石の需要が高まる一方なせいで、魔法石に聖魔法を込めるために力を使わされている空間魔法の使い手が酷使されすぎ、過労で倒れている。

 その調整も、モネに課されていた無理難題の一つだったわけだが。


 しかし、ここでその問題だけは解決することとなった。


「空間魔法使いさんは大変なんでしょう?もう私が全部やるから大丈夫よ」


 ある日、リゼット様に呼び止められ、そう告げられたのだ。


「よろしいのですか?」

「ええ。私と一緒にいる時間が増えて、フォーの力がますます強まっているの。魔法石に魔法を充填するのもフォーが補助してくれることになったのよ。うふふ、私の可愛い神獣は能力も素晴らしいでしょう?」


 得意げなリゼット様はにんまりと笑うとそう言った。

 そうか、神獣は聖女と契約し、ともにいることで、その力をどんどん強めていくという。聖女もまた相乗効果で能力を上げるため、神教会では聖女を迎えるとすぐに神獣召喚を行うことが推奨されているのだ。


 神獣フォー様もまた、リゼット様とお互いの力を高め合い、できることが増えられているのだろう。


 ──最近では、あまりのオーラに目が眩み、ともすれば恐ろしく感じることもあるくらいだ。


 リゼット様もますます瘴気だまりの解消を楽にこなすようになられているようだし、これは喜ばしい事である。


 ……しかし、俺は心のどこかでそれを苦々しく思うようになっていた。

『ああ、やはりリゼット様が聖女であることは間違いのない事実なのだ』と、突き付けられるような思いになるためである。


 はは……聖女に仕える神官騎士にあるまじき思考だな。

 そんな風に己の不敬を自嘲する。


 結局、リゼット様の身の回りの世話は、専属神官をおかず、女神官数人が持ち回りで行うことになった。

 神官の誰かと何かあった場合に、リゼット様がすぐに他の者に相談できる体制を整えた形だが、それは表向きの理由であり、実際には積極的に手を挙げる者が一人もいなかったのだ。


 なぜかと問うても、女神官たちは口々に「自分には恐れ多い」「聖女様の専属の栄誉をいただくには自分はまだ未熟すぎるから」と遠慮するばかりで、気まずそうなその口から本当の理由が語られることはなかった。だが、もしかするとモネほどではなくとも、皆今までに何か感じることがあったのかもしれない。


 俺は、ソレイユ様と親しく、ソレイユ様はモネに直接追放を言い渡した張本人である。女神官たちが俺に心の内を打ち明けるのをためらう心情はよく理解できたこともあり、詳しく女性たちの内情を探ることは叶わなかった。



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