73_聖魔法を込めた魔法石
セルヒ様は仕事の外出から帰塔するなり、その足で私のところへ会いに来てくれた。
「ルーツィア!リゼット・リーステラが聖魔法を込めた魔法石の販売を始めたらしい」
「えっ!」
それは思いもよらない知らせだった。
ということはつまり、その魔法石を手に入れることができれば、リゼットに直接お願いしなくてもリゼットの聖魔法を魔獣ちゃんに使ってあげることができるってことだよね?
「いくつかもう買ってきた」
「セルヒ様!ありがとうございます!」
小さな布袋にいくつもの魔法石を入れているのを見せてくれたセルヒ様。魔道具や魔法石を専門に取り扱っている魔法商から購入したとのことだった。
それを見て、あまりの感激に思わず目を輝かせてしまった。
リゼットが魔法石に魔法を込められるなんて知らなかった。
それがすごく難しくて、大変で、高度かつ繊細な技術が必要なことだっていうことは、習ったので知っている。
リゼットは本当にすごいなあ……。
リゼットに治癒してもらいたい人はたくさんいるはずだけど、リゼットは一人しかないから、きっとこれまでは皆を治癒してあげるには時間が足りなくてもどかしい思いをしていたんだろう。
それを、技術を身につけて魔法石っていう形で少しでも多くの人に治癒をって、すごく素敵なことだよね。
私はリゼットと上手く関係を築くことができなかったけど、やっぱり聖女として頑張っているリゼットの活躍に触れると、尊敬の気持ちが湧きあがってくるし、自分も頑張ろうって元気をもらえる。
そこまで考えてハッとした。
……とはいえ、リゼットの魔法を必要としている人はきっとたくさんいるよね?もちろん私は魔獣ちゃんを助けたいけど、同じように助けたい誰かがいる人は少なくないなかで、魔獣ちゃんのためにこんなに魔法石を使わせてもらっちゃったら、欲しいのに手に入らない人も出てくるんじゃないのかしら?
私の心配が伝わったのか、セルヒ様が説明してくれる。
「魔法石は余る程用意されていたから、在庫の心配はいらなそうだった。リゼット・リーステラがあれほどの魔法石を作り上げることができるなど、正直意外だったな」
「そうなんですね」
それなら安心だわ。
とはいえ、用意されていた魔法石にはいくつかの価格帯にわかれていたらしい。それはつまり、高価な物程、強い聖魔法が込められているということ。
1番高価なものも見本として一つだけ置いてあったそうだけれど、そちらは神殿でしか購入できないらしい。
たしかに、セルヒ様に渡された魔法石は、それぞれ石の色が少し違っている。
興味深く見ていると、魔法の強さで色の濃さが違って見えるのだと教えてくれた。
(魔法の色自体が見えるわけじゃないんだ)
魔法石の魔法は石の中に完全に封じ込められた状態なので、魔力や魔法は起動まで一切漏れない仕様だ。
魔獣ちゃんの体調は、現状ほんの少しずつでも改善しているから、ひとまず低価格帯のものを使用してみようと、私は中でも色の薄い魔法石を手に取った。
「魔獣ちゃん、これできっと楽になっていくからね」
「キュ~ン?」
だけど……魔獣ちゃんの治癒は、期待通りには進まなかった。
◆◇◆◇
魔獣ちゃんに魔法石の魔法を使って数時間後。
(どうして魔獣ちゃんの具合は良くならないの?)
魔獣ちゃんの様子を気にしていた私は、少し落ち込んでいた。
きっと、リゼットの聖魔法を使えば、魔獣ちゃんはすっかりよくなる。そう思っていたのに、魔獣ちゃんはなんだかぐったりとしてしまっているのだ。
少し熱もあるようで、辛そうに目を瞑っている。
(分かりやすい傷はちゃんと治っているから、魔法が全く効いていないわけじゃないのに……)
傷が治るほど治癒魔法が効いているのに、具合が悪くなんてことがあるとは思いもしなかった。
「低価格の魔法石で、込められていたのが弱い魔法だったから?」
それが理由なら、良くならないだけではなく、むしろ悪くなったようにも見える現状には説明がつかないようにも思えた。けれど、それ以外に理由が全く思いつかない。
(……明日はもう少し濃い色の魔法石を使ってみよう)
人間と違って、この子は魔獣だし、ましてや魔獣ちゃんはその正体がまだはっきり分かっていないため、当然その生態も不明な部分が多い。
そのため、セルヒ様には、治癒魔法を使いすぎることによって身体の負担になりえる可能性もあるから、命の危険があるわけではない魔獣ちゃんに使うのは念のため1日1回に留めておく方がいいと言われている。
症状が重いわけではないし、少しずつ良くなっているから、弱い治癒魔法ですっかり治ってしまうのならその方がいいかもしれないと思ったのだけれど。こんなことなら最初からもう少し強い物を使うべきだったよね。
「ごめんね、魔獣ちゃん……」
私のせいで、余計な辛さを感じさせてしまっている。
自分の選択を後悔しながら、今日は魔力量を上げる訓練もお休みして、私は魔獣ちゃんにぴったりと寄り添って一緒に眠ったのだった。




