65_やっぱりそううまくはいかないようです
「恥を知れ、ルーツィア・リーステラ!いや、リゼット様と同じリーステラ家を名乗るのも許しがたい卑劣な存在め!この私ソレイユがいるかぎり、二度とリゼット様を害することはさせない!」
私とリゼットの間に立ちはだかったソレイユ様は、私を鋭く睨みつけると、すぐにでも光魔法を飛ばせるように神官様が持つ専用の錫杖を前に突き出した。
セルヒ様がすかさず背中に私を庇ってくれる。
だけど、リゼットにお願い事をしたいのも私だもの。私がちゃんと話さなくちゃ……!
「わ、私、本当にリゼットを傷つけるつもりなんかなくて……!」
いつもみたいに誤解されてしまっては大変だから、すぐに魔獣ちゃんの症状と、魔獣ちゃんに害がない事、そしてリゼットに癒してほしいだけなのだと言うことを説明しようとしたのだけれど。
私がそうするより先に、リゼットが厳しく私に告げる。
「さっき、ルーツィアはギズリを攻撃したわよね!?びっくりしちゃったわ!タイミングよく魔物が現れたからうやむやにできると思った!?残念、魔物が姿を現すより先にルーツィアがギズリに向かって魔法をぶつけようとしたこと、私、ちょうど見ていたのよ!」
「!?ちがっ……!」
否定しようとした声が掠れてしまう。喉が詰まって言葉が続けられない。
もちろん、私はギズリ様を攻撃しようとなんてしていない。とんだ誤解だ。
だけど、無能なダメ令嬢の私が、魔物が姿を現す前に察知した、だなんて。そんなことを言ってもきっと信じてもらえないだろう。私は攻撃の意図を持って魔法を放つことができないのだけれど、そんなこともリゼットたちは知らない。
セルヒ様たちは私を信じてくれるけれど、リゼットたちからすると、どう見ても私がギズリ様を攻撃したとしか思えない状況だったと理解してしまったのだ。
俯く私に、リゼットは容赦なく続ける。
「それに、私の護衛依頼をセルヒ様に断るように強要したのもルーツィアなんでしょう?」
「え……?」
「私はこんなにも危険な使命を果たしているって言うのに、どうにか自分を守るために必死にお願いしたことを自分の我がままで無理やり断らせておいて、私にはひどいお願いを押し付けようとするなんて、そんな理不尽な話はないでしょうっ?」
「……っ」
リゼットが言っていることは、もちろん誤解で、私がセルヒ様に護衛依頼を断るようにお願いした事実なんてない。
私がそういう依頼があったのだと知ったの自体、セルヒ様が断ったあとのことだった。
だけど……。
(私、セルヒ様がリゼットの護衛を断ったこと、嬉しいと思ってしまった)
自分がこの場にきて、魔物討伐がいかに危険な仕事なのか、瘴気だまりの解消はどれほど大変で重要な仕事なのか、身をもって実感した私は、リゼットがセルヒ様に守ってもらいたいと思うのも当然のことだったのではないかと感じていた。
ギズリ様は素晴らしい力を持った神官騎士様だし、それ以上に前線にいてリゼットの側を守るソレイユ様も、とても強いのだろうと想像できる。
だけど、それだけじゃ安心できない程、リゼットは体を張って崇高な使命を果たしているのだもの。
それなのに、その依頼をセルヒ様が断ったことを簡単に喜んでしまったことは、リゼットのいうようにとんでもない我儘な感情だったと分かってしまった。
だから……はっきりとリゼットの言っていることが誤解だとは、とてもじゃないけれど言えなくなってしまったのだ。
リゼットの言っていることと、あまり違わないように思えたから。
けれど、そうやって俯いてしまった私の頭上から、声が降ってくる。
「もうダメだ」
ぽつりと呟かれたその言葉にハッとして、セルヒ様の方を見上げると、セルヒ様もまた、私をじっと見つめていた。
「ルーツィア、すまない。これ以上は約束を守れそうにない」
「セルヒ様……?」
セルヒ様は眉を下げ、申し訳なさそうに私に謝ると、きりりとした表情に切り替わり、リゼットに視線を向けた。
「俺が聖女殿の護衛依頼を断ったのは俺の意思でしかない。ルーツィアが断らせた?そんなことがあるわけがないだろう」
そして、真っ向からリゼットの主張を否定してくれたのだった。
(セルヒ様、私のために……)
そんなセルヒ様の姿に、さっき私に告げた「すまない」は、『もしも神官騎士様が私に酷いことを言ったとしても、直接危害を加えるなどの行き過ぎた行動がなければ黙認すること』という約束を破るということに向けてのことだったのだと気付いた。
「なっ……!」
「セルヒ殿!あなたのリゼット様への態度はずっと目に余ると思っていた!これ以上聖女であるリゼット様を侮辱するような言動は聖教会として看過することは出来ないっ」
セルヒ様の冷たい否定に絶句するリゼットと、そんなリゼットを守るように立ち、顔を真っ赤にして怒りを爆発させるソレイユ様。
私はまた、フワフワを治癒してもらえなかった幼い頃のことを思い出した。
……ああ、また私のせいで、リゼットに治癒してもらうことができない……。
申し訳なくてたまらなくて、そっと懐の魔獣ちゃんを抱きしめる。
その時、ハッと気づいてしまった。
「魔獣ちゃん……!?」
魔獣ちゃんは毛をぶわりと逆立てて、恐怖と警戒心を膨れ上がらせて、何かに耐えるように縮こまり、ブルブルと震えていたのだ。
どうしよう、魔獣ちゃんの様子がおかしい……!
そのことに動揺していると、セルヒ様にそっと背中を押され、その場から立ち去るようにと促される。
「ルーツィア、このままここにいても冷静に話は出来ないだろう。願いを聞いてもらうことも難しい以上、君がこれ以上謂れのない誹謗にさらされる必要もない。……帰ろう」
「は、はい」
たしかに、魔獣ちゃんのためにも、一刻も早くこの場を去った方が良いかもしれないと思った私は、素直に頷いた。
立ち去る私達の後ろ姿を、ギズリ様が難しい顔で見ていたことには、またもや気づくことなく……。




