63_それでも、自分を奮い立たせて、できることを
私を非難するような言葉に眉をひそめたセルヒ様と目が合う。
けれど、私が大丈夫だという気持ちを込めて首を横に振ると、何かをこらえるように飲み込んだセルヒ様は、そのまま瘴気だまりの方へ向かって行った。
こうなることは簡単に予想できたので、実は事前にセルヒ様やオーランド様と話し合って決めてもらっていたのだ。
『もしも神官騎士様が私に酷いことを言ったとしても、直接危害を加えるなどの行き過ぎた行動がなければ黙認すること』
そもそも私が聖教会側の人達に良く思われていないのは、以前聖教会に行った際にソレイユ様に門前払いされた時点で分かっていた。
今回の討伐に私も同行するにあたって、セルヒ様が一番心配していたのは魔物からの危険ではなくて、聖教会側の私への負の感情だったのだ。
セルヒ様はとっても優しくて、私に甘いから、私が傷つくかもしれないことをとても気にしてくれていたんだよね。
だけど、それを私が「受け止めたい」と願った。
魔塔に来てからは皆に優しくしてもらえているけれど、元々私の立場はあまりいいものとはいえない。
だからこそ、聖教会の人に限らず、こういう場面はきっとこれからも起こるはず。そのたびにそれを気にして、セルヒ様たちに守ってもらうわけにはいかないもの。
私は、きちんとみんなと対等に討伐にも参加できるようになりたいし、ちゃんとみんなの役に立てるようになりたい。
そんな風に願うからこそ、この問題は受け入れるしかないと思うようになっていた。
それに、私はもう、リゼットやリゼットの周りの人に嫌われても、傷ついたりしないから。
私とリゼットの間に深い溝ができてしまっていることについて、私は今まで全部自分が悪いんだと思って、自分のことを責めていた。
だけど、魔塔で誰かに大切にしてもらえることを覚えて、「私だけが悪い」なんてことはないんだと思えるようになった。
その上で、私を好きではないリゼットを大事に思う人が、私をよく思わないのなんて当然だし、仕方がないのだと割り切れるようになったのだ。
だって、その誰かに好かれなくても、私を大事だと言ってくれる人は、たくさんいると知ることができたから……。
人の優しさに触れて、前向きに考えることを覚えた私は、人との関係について必要以上に思い悩むことはないのだと理解できるようになっていた。
だからこそ、傷つく必要のない場面で傷つくことに怯えてやりたいことをやれないなんて、とってももったいないとも思うようになっていた。
「私は、あまり関わりのない聖教会の人になんて思われても、何を言われても、もう全然平気です!」
そりゃあ、あまりに強い言葉だと、びっくりくらいはしちゃうかもしれないけれど……。
「だから、セルヒ様や皆さんも、聖教会の人達がもしも私を良く思わないことを言っていたとしても、気にしないでください。私をどう思うかは、その人の自由だと思うから……」
それよりも、そんなことが起きた場合に、セルヒ様が私のために怒ってくれて、その影響でますます魔塔と聖教会の関係が悪くなったり、こうやって問題のある討伐の際にうまく協力しあえない、なんて事態になるほうがすごく困るし、悲しいもの。
セルヒ様は最初はためらう様子を見せていたものの、最終的には私のお願いを後押ししてくれたオーランド様やノース様のおかげもあって、私のことで聖教会の人に抗議はしない、と約束してくれたのだった。
私は瘴気だまりの方に向かうセルヒ様の背中を見送りながら、気合を入れ直す。
(セルヒ様、私のお願いどおりにしてくれた。私も、頑張らなくちゃ!)
すごく心配そうな顔をしていたから、申し訳なさはあるけれど。それでも、どんな内容のことであろうと私の願いを尊重してくれるセルヒ様に、感謝でいっぱいだった。
(それに──)
目の前で、ついさっき私を忌々し気に睨んだ神官騎士様の剣が、突然姿を出現させた魔物に払い飛ばされてしまった。
武器を失った神官騎士様は、すぐにでも繰り出されそうになっている魔物の攻撃に対抗する術を失い、顔を青ざめさせている。
他の神官騎士様は、それぞれ別の魔物を相手取っていて、そちらに助けに入る余裕はなさそうで。
私は急いで両手を前に突き出すと、風魔法を繰り出した。
そのまま飛ばされた神官騎士様の剣を風で巻き上げ、一気に持ち主の方に向けて飛ばす!
オーランド様やフワフワとの特訓が、脳裏によぎる。
あれは、訓練用の魔石を初めてオーランド様の手元に運ぶことに成功したときのこと。
『わあ!うまく飛ばせました!成功です!』
『ルーツィア、上達が早いねえ。だけど、今君はただ私の手元にこれを運ぶことだけを考えていただろう?飛ばす対象によっては、もっといろんなことを考えて、緻密な魔法操作が必要になることを忘れてはいけないよ』
『どういうことですか?』
『例えば、そうだね、具体的には──』
オーランド様から教えられたことを思い出しながら、迅速に、だけど慎重に魔法を操作する。
物を渡したい相手の手元に運ぶ場合、それを受け取る方がどう手に取るのかをきちんとイメージする。
(具体的には──それが剣ならば、うっかり刃を相手にむけることなんかがないように、きちんと柄を握る方向にぴたりと手の中に送り込む!)
「神官騎士様!受け取ってください!」
「!?」
反射的に手を握った神官騎士様は、突然自分の手の中に戻って来た、手に馴染む剣の存在に驚いている。
けれど、次の瞬間には自分に向かう魔物を、すんでのところで切り捨てていた。
(やった!上手くいったわ!)
今、私、ほんの少しでもあの神官騎士様の助けになれていたよね!?
この調子で、小さなことでいい。私一人が安全を確保するために一歩引いたこの場所にいるからこそ、少し俯瞰してみることができる周囲の状況をよく観察して、できることを素早くこなすのよ。
散々人の目を気にすることで身に着けた、周りのことを気にする癖も、状況把握をすることに利用できる!
リゼットやセルヒ様たちのように、大きな活躍は出来なくても、私にだってやれることはある!
そう自分を奮い立たせ、いつでも魔法を使えるように、魔力を練り上げ集中した。




