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38_私にだって、やれることがある。それを頑張る。

 


 セルヒ様の背中から、冷気が漂っている気がする。


(こ、これは怒っている……)


 そうよね、私、セルヒ様の力になりたい、役に立ちたいって思っているのに、結局こうして助けてもらって、足を引っ張っている。

 離れないように気を付けてと言われていたのに言いつけを守らず、グレイス様とはぐれるようなことになったのがいけなかった。

 ううん、もっと言えば、そもそも今日のお出かけをやめておいたら、今頃セルヒ様はもっと自由に動けただろうし、私が魔塔で大人しくしていれば邪魔にならなかったのに。


 セルヒ様が怒るのも当然だわ……。


 一瞬でそんな考えが頭の中を駆け抜けたけれど、次の瞬間それはセルヒ様から発された低い声で吹き飛ばされた。


「今日はルーツィアが魔塔に来てから初めてでかけた記念日なのに……!万が一この出来事をきっかけにルーツィアが『魔塔にきたら恐ろしいことがたくさん起こる』などと思ってしまったらどうしてくれるんだ?楽しい思い出になるはずの一日を台無しにしやがってこの魔物めそのでかい体が爪先一つ分も残らない程に跡形もなく消し去ってやる」


 わ、私に怒っているんじゃあなさそうだわ……!!


 普段の臆病な私なら怒られているのが私じゃないとホッと安心するところかもしれないけれど、なんだかセルヒ様の言葉が物騒でドキドキしてしまう。

 というか、よく考えると今の言葉って、私の楽しいおでかけが邪魔されたことに怒ってくれている、の……?


 そうだった。セルヒ様はそういう温かい人だった。

 魔物を前に恐ろしい思いをしたからって、また悪い癖が出ていたみたいだわ。あんなに反省したはずだったのに、なかなか考え方の癖って治らないわね。

 だからこそ、もっと前向きになれるように、私だって頑張っていかなくちゃ。


 ずっと決意しているように、セルヒ様のお役に立ちたいから……!!


 そうやって自分の気持ちを再確認していると、艶やかでもふもふな尻尾が巻き付くように私を包み込んだ。


「あっ!フワフワ!」


 私に体を擦りつけて上目遣いで見上げてくるのはもちろんフワフワで。

 そうか、さっき強い風が巻き起こったのは、フワフワが風魔法を使ってここまで来てくれたからだったんだわ!

 フワフワは私と『繋がっている』と言っていた。私が危ない目に遭っているって気づいて飛んできてくれたの?

 そう気づいて、胸がじわじわ温かくなっていく。


『我もいるぞ!だからルーツィア、安心しろ』


 フワフワは私を元気づけるように「わうわう!」と元気よく吠えた。

 すごい。セルヒ様が来てくれて、フワフワがくっついていてくれるだけで、こんなにも勇気がわいてくる。


「……フワフワ。私、セルヒ様の力になりたい。お願いしてもいい?」

『我の望みはルーツィアの願いを叶えることだ』


 頼もしい答えに奮い立っていると、リゼットが怒ったように声を荒げた。


「ちょ、ちょっと!なんなのよ一体!?ルーツィア、あんたそれ、魔獣でしょっ!?」

「リゼット、大丈夫。フワフワは魔獣だけど、とっても優しくて頼もしい、良い魔獣さんだから」

「あんた何言ってんの!?」


 うーん、フワフワのことを知らないリゼットが怯えてしまうのも無理はないかも。私だってフワフワに夜の森であった時は、恐ろしい魔獣に食べられるんだって思ったものね……。

 そんなことを考えていたけれど、すぐにそれどころではなくなった。

 ハッと我に返るとリゼットの後ろから、さっきとは別の魔物が牙をむいていて、今にも襲い掛かろうとしていたのだ。


「っ!リゼット危ない!フワフワっ」

「グルルルルッ!わうっ!」


 私は慌ててフワフワの背中に触れて魔力を渡す。

 咄嗟のことだったけれどフワフワはばっちり私の意図を汲んでくれて、渡した魔力を使い炎を吐いた。大きな虫型の魔物だったから、きっと火に弱いはず!


「きゃああ!もういやっ!」


 思った通り魔物はフワフワの炎に包まれ焼け落ちる。けれど、リゼットは随分参っているみたいだ。当然だよね。怖いに決まってる。フワフワが側にいてくれる私だってそうだもん。

 まずはリゼットをこの場から避難させてあげなくちゃ……!


「ルーツィア、大丈夫か!?」


 私たちを取り囲もうとする別の魔物を魔法で薙ぎ払いながら、セルヒ様が私を気遣う。


「私は大丈夫です!セルヒ様、私もフワフワとやれます!このままリゼットを安全な場所に連れて行くので、セルヒ様は大きな魔物を倒しに行ってください!」


 こうして道の端にいる私たちに近寄ってくるのは、比較的体の小さな魔物たちだ。その相手なら、フワフワと一緒ならできるはず。

 街を大きく攻撃しようとしている一際大きな魔物は広場の方面にいて、グレイス様もその相手をしている姿がチラチラと見えていた。


 私はオーランド様から教わったことを思い出す。


『魔物は単独行動がほとんどだけれど、時には種族も属性も超えて群れをつくり人を襲うこともあるんだよ~。そう言う場合は一番強い奴が群れのボスで、そいつを抑えれば大抵は引いていくんだ』


 だから、誰が群れのボスなのかを見極めるのが大事なんだって、そう言っていた。

 もちろん、体の大きさが必ずしも強さに比例しているわけじゃないことは私にも分かる。けれど、今の場合はどう考えてもあの一番大きな魔物が一番強い。


 だって、魔力の質が全然違うもの。初めてでもそれがどういうことかよく分かる。

 私には魔力が見えているから。


 一瞬迷う様子を見せたセルヒ様は、私がじっと見つめるとやがて頷いてくれた。


「フワフワ、ルーツィアを頼んだぞ。すぐに片づけて戻ってくるから」

『誰に言っているんだ』


 セルヒ様が魔法を使って飛んでいくのを見届けて、私はリゼットに向き直る。

 さすがのリゼットも恐怖のあまりか、体から力が抜けてしまったようだった。


「リゼット、もう少しだけ頑張ってね」

「…………」


 私はリゼットを支えて、なんとか歩き出した。フワフワがその私たちの周りに近づこうとする魔物を攻撃して守ってくれている。

 どこまで行けば安全かも正直よく分からなくて、このままでは絶対にリゼットを置いていけない。だけど、リゼット以外にも逃げ遅れて動けなくなっている人がちらほらといて、いつそんな人たちに魔物が襲い掛かるか分からない状況だった。

 リゼットを避難させて、他の人のことも助けに行きたいけど……。


(どうしよう、思ったよりリゼットが弱っている。誰かにリゼットを連れて一緒に逃げてもらえればいいけど……)


 湧きあがってくるそんな焦りに、どうしようと考えを巡らせていると、大きな声がその思考を遮った。


「ルーツィアっ!!!!」


 その声の方に思わず振り向く。そこには、髪を振り乱して焦った表情を浮かべた──ミハイルお兄様がいた。



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