↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/101

39_お兄様、リゼットは無事なので、安心してください

 


「えっ、お兄様?」


 思わぬ人の登場に一瞬ポカンとしてしまう。

 どうしてお兄様がここに?……と、思ったけれど。


「ルーツィア……そっちにいるのはリゼットか?」


 お兄様は私に支えられているリゼットを見ると目を見開いた。そんな様子に、私もさすがに気がつく。


(そっか。リゼットを探しに来たんだ)


 私と会った時、リゼットは一人でいたようだった。護衛や侍女とはぐれたのかもと思っていたけど、ひょっとしてお忍びだったのかもしれない。

 街でこれだけ大きな騒ぎになっているんだから、きっとリーステラ家にもそのことは伝わったはずだし、それを知ったお兄様がリゼットが屋敷にいないことに気が付いて、慌てて探しに来たと考えるととてもしっくりきた。


 お父様やお母様と一緒で、お兄様もリゼットのことをとても大事にしているから……。


 私はホッと安堵して、思わず喜びの声をあげる。


「良かった!お兄様!!」


 そして、すぐにミハイルお兄様の元へ近づいていく。その間にリゼットもお兄様に気が付いたようで、支えている体の重さがほんの少しだけ軽くなった気がした。

 恐らく、お兄様に会えた安心感で少しだけ気力がわいて、自分で立つ力が戻ってき始めているんだわ。


 お兄様がこちらに思わずといった風に手を伸ばす。それと同時にリゼットが私の腕の中から抜け出すように走りだし、お兄様がこちらに向けて伸ばした腕の中に飛び込んだ。


「ミハイルお兄様!私っ、怖かった……!」

「リ、リゼット」


 リゼットの憔悴した様子に動揺しながらも、お兄様は飛び込んできた彼女をそっと受け止めた。

 その様子を見て、ほんの少しだけ寂しい気持ちになる。

 けれど、私はそれに気が付かないふりをして、お兄様とリゼットにニッコリと微笑んだ。


「良かったね、リゼット、お兄様が助けに来てくれて!お兄様、リゼットに怪我はないと思うから、安心してください!」

「は……」


 少しでも心配を晴らしてあげたいと思ってそう告げたのだけれど、それを聞いたお兄様の表情はみるみるうちに険しくなった。

 それで自分の失言に気が付いた私は、大慌てで、まるで言い訳するかのように続けた。


「あ、ごめんなさい!リゼットがそれほど怯えて辛い思いをしているのに、安心してだなんてあまりに無神経でした!怪我が無いからいいってわけじゃないですもんね。だけど、その、少しでも大丈夫だって伝わればいいなと思って、あの」

「……ルーツィア」


 今まであまり聞いたことがないような、お兄様の沈んだような低い声に呼ばれて、体が竦む。

 こ、これはもしや、怒られるやつ……?


 そうだよね、きっとお兄様は私の顔を見るのだって嫌なはず。

 それなのに、大事なリゼットを探しに来たら彼女は私と一緒で、私はこんなに元気なのに、リゼットは見るからにとても弱っていて。


 ……お兄様は私のことが嫌いなのに、今までそれを隠してずっと優しくしてくれていた。それは多分、リゼットが私を気にしていたからじゃないかと思う。


 それなのに今のこの状況、私に優しくする気なんてなくなって当然だ。


 私は恐ろしいことに気がついてしまった。


 それどころか、下手すれば私がリゼットを傷つけたと誤解されていてもおかしくないのでは!?


 リーステラ家にいた頃、私はいつも、知らないうちにリゼットを傷つけたり苦しめたりしてしまっていたから……。悲しいけど、信頼度ゼロの私だもの。そんな勘違いをされても仕方がないように思えた。


 その事実に気付いた私は──もう無駄な言い訳はやめて、さっさと逃げてしまおうと結論を出した。

 だって今までどうやっても解けなかった誤解が、こんな異常事態の中で解けるわけがないのだし。


 これは逃げじゃなくて、戦略的撤退だよね……!


「それじゃあ、お兄様は早くリゼットを連れて行ってあげてください!」

「ま、待て」


 逃げようとする私に、お兄様の表情がますます険しくなる。

 うう、どうしよう。


 すると、私の焦りを感じ取ったのか、少し後ろでちょこんと待ってくれていたフワフワが立ち上がり、私の前へ体をするりと差し入れて、いつものように尻尾を巻き付けてきた。


 途端にお兄様の目が驚愕に見開く。


 私は心の中でぼんやりと、いつも冷静で落ち着いているミハイルお兄様がこんなに感情をあらわにして、表情をころころ変えるなんて、やっぱりリゼットが危ない目にあうとこうも普段と違うのね、なんて呑気に思っていた。


「ルーツィア!?そいつは──っ!!」


 そしてやっぱり、逃げるが勝ち!


「この子は大丈夫です!というか私のことは気になさらないでください!それでは!フワフワ、行こう」

「がうっがうっ!」


「ルーツィア!」


 鬼気迫るお兄様。私は構わずに、二人に背を向けて走り出す。


 お兄様はまだ何かを言っていた気がするけれど、聞こえなかったということは言われていないのと同じだよね。というか、そういうことにしておく。


 少し離れたところで、フワフワが走りながら鼻先をぐいぐいと押し付けてくるので何かと思って立ち止まると、その場で伏せをして期待の眼差しで私を見上げた。


『ルーツィア!我の背中にのると早くて楽しいぞ!』

「ええっ!?」


 背中に!?お、重くないのかな!?

 そう不安に思ったものの、フワフワはものすごく尻尾を振りながら私を待っている。


 正直、リーステラ家にいる頃全く運動をしていなかった私は足があまり早くない。最近では魔法訓練のために体も動かすけど……逃げ遅れた人を助けるには早く向かった方がいいに決まっている。

 私は覚悟を決めた。


「重かったら、すぐに言ってね!?」

『我の可愛いルーツィアは軽すぎるくらいだ』


 そして意を決してフワフワの背中に乗ったちょうどその時、大きな魔物と戦っていたはずのセルヒ様が、上空から舞い降りてきた。


「ルーツィア!」


 そしてそのまま地面に降り立った瞬間、


「うっ、ぐっ……!!」

「えっ!?セルヒ様っ!?」


 ──セルヒ様は、足元から崩れ落ちるようにして膝をつき、苦しそうなうめき声を上げた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

大好きな勘違い・すれ違い盛りだくさんのお話です!ぜひよろしくお願いします^^

【勘違い令嬢は魔術師になりたい~聖女になった義姉に全て奪われましたが、好都合です!~】
― 新着の感想 ―
[一言] うーん、グレイスさん付き添いとしては失格ですね(汗) あまりルーツィアの事情知らなかったのかもしれないけど…。 セルヒがついてるよりグレイスがついてる方がよほど安心って言われてたけど今回は違…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。