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月姫 MOON-DIVA  作者: 高峰 玲
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Phase・Ⅰ 想い出を識った夜


─ PROLOGUE ───


必ず戻ると男はいった。

待っているわ─少女はこたえる。

いつまでも……いつまでも!

たとえこの身が年老い、黒髪に霜が降るまでかかるとしても。

それでも、あなたを待ち続ける!

少女の笑顔が男を力づけた。

離れたくはない。

地球までは遠い。

光の速さで百年以上もかかる距離を、往って復ってこなければならない。

そのあいだ、ふたりは離ればなれだ。

待っていてほしい。

待っているわ。

約束はかわされた。


そして──歳月は流れる……。





 星都(せいと)ヘリオス市での夕食時。

『──続いて芸能関係のニュースです』

 全惑星ネットテレビのトピックスは冒頭からおだやかだった。

 ニ十年ぶりに交代になる地球からの全権大使の話題がトップで、その次は地方都市を視察する首相のエピソード、それから経済関係が入って……きまじめな男性アナウンサーから、笑顔が売りの女性アナウンサーにカメラが切り替わる。

『今年のクィーン・オヴ・ミラーズが発表になりました』

 とたんに、息を殺してテレビに全神経を集中させたのは、男性視聴者よりも女性のほうが多かった。なぜならば〈鏡の(クィーン・オヴ・)女王(ミラーズ)〉とは地球から人類が持ちこんだ「鏡よ鏡、世界でいちばん美しいのは誰?」というあの有名すぎるおとぎ話を由来とする、業界によって選出されるこの星で最高の美女に与えられるタイトルだからである。

 半年から長いときは四、五年はクィーンに選ばれた女性が惑星全土の美の、ファッションの、規範とされるために彼女たちの関心はいきおい高くなる。

『惑星アポロニアの美の女神(ヴィーナス)、クィーン・オヴ・ミラーズはメイハ・プロダクション所属のモデル、エスメラルダ・グリーンさんに決定いたしました』

 ややぽっちゃりとした女性アナウンサーに代わって画面に映った姿に、身をのりだしたのは今度は男性たちだった。リアルタイムの映像ではなく、ファッションショーの録画からのものが流される。

 彼女の美しさを一言で表現するとしたら、筆頭候補には〈しなやかさ〉が挙げられる。

 女性的すぎるほどふくよかな体形ではない。

 コマーシャルフィルムやポスターによく登場するだけあって、その整った知的な容貌も彼女の魅力の一翼を担う要素ではある。だが、なによりもハイヒールを履くと百八十センチを軽く超す長身が、ショーでは()()を言っている。

 小気味よく、すらりとのびた四肢。

 少年めいた生命感あふれるシャープなボディ。

 欧米系にはないあたたかみのある肌の色と(つや)やかな黒髪は、東アジア人の特徴だ。エメラルドグリーンの瞳が植民星だったアポロニアの歴史を物語るかのように、彼女の中に流れる血の融合を証明していた。

 エスメラルダ・グリーンはこの瞳ゆえの芸名(ステージネーム)だ。

『番組では急遽ミズ・グリーンにインタビューを申しこみましたが、プロダクションによりますと長期休暇中とのことで、マネージャーからコメントをいただきました。

 モデルとしての仕事を始めて日も浅く、経験も少ないままに光栄なポストを与えていただき感謝しています。ショー以外にも、化粧品メーカーのイメージパーソナリティとしてみなさまの美の先遣をつとめさせていただいておりますが、今後ともアポロニアの女性の美を、追求してゆきたいと思います。

 ──ぜひとも、そうあってほしいですね』

『そうですね』

 男性アナウンサーのあいづちは機械的だった。

 ひるまず女性アナは笑顔をふりまく。

『なお、ミズ・グリーンのクィーン襲名に伴い、ムービィシティの映画会社ダイヤモンド・マウンツのレーブ・トリッケン監督が企画中の映画《ニーベルングの指環》──これはR・(リヒャルト)ワーグナーが原作ですね──への出演を要請するとのことです』

『ダイヤモンドとエスメラルダ(エメラルド)の組み合わせでは、どんな()()()ができるか楽しみですな』

『ああ、なるほど。わたしはやはりミズ・グリーンの役どころや、衣装担当とかそちらのほうが気になりますね。アポロニアの女性やファッション業界の注目度ナンバーワンの映画になりそうです』

 ここで画面下部に番組スポンサーのテロップが入り、カメラが引かれる。

『コマーシャルのあとはお天気です』

 にこやかなアナウンサーに続いて、画面はとある化粧品メーカーのコマーシャルに変わった。わざとらしくも、にこりともせず美を訴えかけているのはエスメラルダ。

 テレビの前の人々は、あるいはこの美神を賛美し、あるいは羨望し、こっそりとそのメーカーの製品を買いこむことを心に決め、フィットネスを考えたりしていた。

 ニュースのとき以上のアップを喜んだ者は、その逆よりは大多数を占めていただろう。思わず熱いため息がもれる。 

 しかしたった三人だけ、他とまったく異なる反応を示した男がいた。

 第一の男──。

 エフゲニー・ティラーデス・フォース。

 地球政府が、独立植民星アポロニアに派遣した新任の特命全権大使である。

 アポロニアは地球では〈黄金の月〉とも呼ばれている。太陽神アポロンの女性形としてのイメージ色と、かの地から百光年以内の植民星をすべて〈月〉と呼んでいた名残だ。

 アポロニアが惑星国家として独立してすでに半世紀が過ぎていた。

 かつて地球上に百五十を超える国家が築かれていた時代から、異邦に外交のための大使を派遣するのが地球人類の習いだ。特命全権大使を遣わすからには、地球政府は、アポロニアを対等の国家のひとつとみなしていた。科学力において、その差は比べようもないほどに水をあけられている。アポロニアの生活様式は、人々がまだ地球という大地に張りついていたころの──おおむね二十世紀後半のものだ。

 地球政府からの独立を勝ち取った初代首相サーリ・ザドルは、アポロニア全土における核兵器の保有を拒絶した。その妻であり後継者となった現首相オーガスタ・メラビーはさらに、急激な科学文明の流入を厳しく制限した。人力にできない部分だけを機械力で補う、古き()き時代を守ろうとしたのである。地球やその他の星々からの宇宙船はアポロニア衛生軌道上のステーション停まりとされ、入国には厳格な審査が必要だった。

 そんなご時世での特命全権大使という身分は、特権階級の恩沢にまみれている。

 先任大使ハウザー・ハムイの任期がまだ二週間残っていたため、エフゲニーはヘリオス市の中心部にある最高級ホテル、アルハパティの特上貴賓室(ロイヤルスイート)をキープした。費用はもちろん、アポロニア政府持ちになる。

 だらしなくボタンをはずしたシャツにジーンズというラフな格好で全権大使はテレビの前に陣取っていた。

 地球から特別経路でステーションに入り、そこからまた特別機でアポロニアに降り立ち、特別車で大使館へ乗りつけ、ホテルに送られる。特別の洪水にさらされていたあいだ、ずっと身を固めていたオーダー品のスーツは部屋に入ると同時に脱ぎ捨てていた。

 見るとはなしに見ていた画面の水をイメージした映像の中を、長い黒髪をなびかせた硬質な美貌の女性が漂っている──化粧品のコマーシャルらしいが、直前のニュース番組で紹介されていたモデルだと気づくよりも先に、彼は自分の頭髪をかきみだしていた。真剣に考え事をするときの癖なのだ。

 きれいにセットされていた長めの前髪がばらりとこぼれて、秀麗な顔立ちを隠す。

 エウロパ地区出身の大使は異例の若さで、外見上は地球年齢にして二十代前半にしか見えない。

「なにか、フォース?」

 みごとな金髪が覆い隠してしまった緑の目が、怪訝そうに細められたのを見逃さずに、窓のそばにいた人物が声をかける。フォースとは〈Ⅳ世〉という意味として、一種の敬称めいた大使の通称とされていた。

「いまの佳人を、きみは知らないかい、(あまね)?」

 問いかけられて、東尽(とうじん)普はすばやくテレビ画面に視線を走らせる。しかし、コマーシャルは次の瞬間には健康飲料のものに変わっていた。彼が目にしたのは化粧品のメーカー名だけだった。

「──ああ」

 だが、東尽は東洋系らしいさっぱりとした(おもて)にかすかな笑みを浮かべた。

 吐息すら、もらさぬ第二の男は言う。

「エスメラルダ・グリーンですよ。リューズ化粧品のイメージパーソナリティです。今年のカラーが緑ですので起用されたんだったと思いますよ。あのグリーンアイズ、あなたと同じ色だと思いませんか? とても印象的なみどり」

 むっとした表情でエフゲニーは、五、六歳は年長に見える長身の青年を見上げた。

 ファッションなどの流行には無関心だと思っていた相手がスラスラと回答を用意したのがおもしろくないのが半分、まごうことなき美女と同列扱いされたくやしさが半分というのが彼の不機嫌の主成分である。

 が、ややあって唇にシニカルな微笑が、のる。

「リューズ化粧品は赤竜(せきりゅう)グループ系列だったな、たしか。それなら()()()が彼女を知っていても、不思議はないな。知ってるならついでに教えろ。彼女の住所は? フォンナンバーは?」

 いかに相手が特命全権大使とはいえ、こう頭ごなしに言いつけられていい気持ちはしないものだ。東尽は彼が頼れる数少ないアポロニア人のひとりで……出会った経緯からいけば、敵対関係といってもよい間柄だった。

「特命全権大使がナンパを?」

 苦言まじりの声になる。

「茶化すなよ、東尽っ」

 エフゲニーは軽やかな身ごなしで男に詰め寄った。

 一般的、アポロニア的常識を身につけた人間ならばおそらく、そうやって彼に迫ることなど思いつきもしないだろう。東尽はアポロニアでも一、ニを争う大企業赤竜コンツェルンの会長である咲王辰子(さきおうたつこ)の第一秘書であり、なおかつ養子でもあり、次期会長と目される人物……つまり、将来的にアポロニアの経済界を背負(しょ)って立つ男だからだ。

 できれば絶対に、喧嘩を売りたくない相手と思うのが処世術の基本的判断だ。

 表立って彼を敵にまわすということは、アポロニアの経済界ばかりか社会そのものをさえ、敵にまわすも同じなのだ。

「フォース……」

 黒曜石を思わせる怜悧なまなざしで見つめられ、つかみかかろうとしていた手を止める。

「おまえにフォースなんぞと呼ばれると、いやみにしか聞こえないな。俺はただ彼女に会いたいだけなんだ」

「フォース」

 あえて東尽はその名で呼びかける。

「彼女というのは誰のことです?」

「おまえ……」

 エフゲニーはソファーに戻ってどっかりと腰を下ろした。

 わざと東尽から目をそらし、いまいましげに言う。

「ガキのころから()なヤツだと思っていたが、想像してたより性格悪く育ったな。それもこれも咲王辰子なんてぇ海千山千の妖怪に、育てられたりするからだぜ」

「私の義兄(あに)よりはましだと、思っていますよ。それよりも、質問に答えてくれないと困ります。あなたはいったい、誰に、会いたいというのですか」

「……恵利奈(えりな)だ」

 エフゲニーは告白した。

 ほとばしる情熱を、内に閉ざして努めて平静を保つ。

「彼女に会うために戻ってきたんだ」

「それは……無理です。あなたは彼女には会えません」

 拒まれるであろうことは予想していた。

 彼女にしてみれば、いまさら、彼に会うのはつらい……つらすぎることだろう。

 それでも、きっと彼女は待っていてくれたはずなのだ。

 その想いに応えられない自分ではないと、大声で叫び散らしたいくらいに、彼は焦がれていた。

 そのひとの存在に。

 再び、アポロニアの姿を肉眼に捉えたときには、思わず涙が出たほどだ。

「無理は承知のうえだ。咲王の屋敷に、連れ戻されちまってるんだろう? 普、彼女に、恵利奈に会わせてくれ」

 勢いのままに立ち上がり、またおちつきなく掛け直す彼を、東尽は珍妙なものを見る目つきで見ていた。

「なんだよ?」

「フォース」

 ためらいながらも、彼は言葉をつないだ。

「会うのは不可能です。彼女が今日、あなたの前に現れなかったのは、会長が監禁しているせいでもつまらない羞恥心のせいでもありません。あなたは遅すぎた。亡くなっているんです、三年前に……ルナポリスの中華街(チャイナタウン)で」

「ルナポリス……!」

 太陽の都市ヘリオスの下町はルナポリスと呼ばれている。名前こそ幻想的で美しいが、暴力と麻薬と貧困が人々を蝕む治安の悪い区域だ。

「世間知らずの、ぬくぬくとした安全な家しか知らない彼女を掠め取ったサードが、あのひとをあそこに、まるで地獄みたいなあの街に置き去りにしたんだ。知らないとは言わせませんよ、フォース。そしてあのひとは来ないはずの男を待って、あの掃きだめで、清らかに生きて、死んだんです。ただひとつの恋を信じて、豊かな生活を棄てて……」

「……責めて、いるのか? 俺を?」

 東尽の語気は平調だった。感情などまるでないかのごとく、よどみなく出てくる。それゆえに、彼は確かめずにはいられなかった。

「いいえ、フォース」

 東尽は認めない。

「あなたは最善の手段をおとりになりましたよ。ただし……間に合わなかった!」

 いっそ責めてくれたなら、自分も躍起になって己を弁護することができるのに……エフゲニーの胸中にいらだちが芽生え始める。

「……なぜ、いまになって彼女のことを思い出したんです?」

 彼の思いを見透かしたように、東尽は熱くならない。

「いまのいままで、口に出す機会すら与えなかったくせに何をぬかす! そのクィーンなんとかってぇモデルの顔見たら思い出したんだ」

「エスメラルダ?」

「ああ。似ていると、おまえは思わないのか」

 つい先刻、彼女という人間の存在を知ったばかりの彼でさえ感じたその印象を、東尽が心のどこにも(いだ)かなかったはずはない。

「恵利奈の代わりに会いたいというんでしたら、私は手をお貸ししませんのでそのつもりで。エスメラルダについてのデータは非公開になっていますし、彼女は休暇中ですよ。どこにいるかなんて、プロダクションは教えないでしょう」

 冷たくあしらわれたのに、腹を立てるよりもむしろ感心したように全権大使は東尽を見つめた。

「徹底してるよな、おまえって」

「中途半端は苦手ですので」

 彼のポーカーフェイスはくずれない。小揺るぎすらしない。

「それでは私はこれで。就任式には呼んでいただけなくても結構ですから」

 ビジネスライクな握手でさえ交わそうとせずにドアに向かう。

「待てよ。じゃあ、なんで今日は来たんだ?」

「さあ?」

 その日、何度目かの微笑が東尽の唇に浮かんだ。だが、冷めたままのまなざしが、頑として心情への介入を拒んでいる。

「野次馬根性かもしれませんね。地球人に会える機会など、めったにありませんから。それから、あまり何々が欲しいだの誰それに会いたいなどといった個人的願望は、口に出されないほうがいいと思いますよ。特命全権大使に取り入るためになら、何だってやってしまう人間がいる星ですから、ここは」

「あいにくと、俺は取り入ってもらうだけの権力なんぞ、持ち合わせちゃあいないのさ。地球人にとってアポロニア全権大使なんてポストは、(てい)のいい左遷だ。でなければ俺みたいな青二才に、あの因業ジジイどもが特命するわけがない!」

 彼のその言葉に、東尽は貼りつけただけの微笑を奇妙な──とまどったような表情に変化させる。

「青二才、ですか?」

「あァ?」

「あなたが、青二才だというのですか」

「なんだ、いやにつっかかるな、普」

 それまでのくだけたムードを改め、アルハパティに入るまでずっと見せていた真摯な、冷徹な役人の顔でフォースは言った。

 その豹変を東尽は目視した。

「べつに……つっかかっているわけではありませんよ」

 気持ちを整理する間すらとらない。それから、心にもないことを口にしていたあいだに考えついたごまかしを、さりげない口調で切り出した。

「モデルに関してのデータは私がそろえてさしあげますから、あなたは動かないでください。彼女には関わらないほうがいいと思いますがね」

「どういう風の吹きまわしだ?」

 外交的手段としての笑みすら、東尽は使わなかった。

「あなたの好奇心に歯止めなどないということは経験ずみですから。私としてはあなたのスキャンダルがスクープされたところで痛くも痒くもありまんが、エスメラルダはうちのリューズ化粧品の顔、ですので」

「たいした鉄面皮だよ、おまえさん」

「それが私の褒め言葉となっているようですよ」

 感情面での攻撃など、通用する男ではないのだ。東尽普という人間は。

「普!」

 手動のドアを開けて出ていこうとするのを、再びエフゲニーは呼び止める。

「……来てくれてありがとう……うれしかった」

 東尽は何も言わなかった。

「……ニ十年だ、恵利奈」

 広い室内にひとり、とりのこされた大使は低くつぶやいた。ソファーの上で両足を(かか)えこんで丸くなる。

「死んだだなんて」

 自身のからだの内にくるまれたその顔に、涙が筋を引いたかどうかは、わからない。嗚咽する声はもれていなかった。

 つけっぱなしのテレビからドラマティックな旋律が流れる。

 反射的に顔を上げて画面を見た。

 エスメラルダの冴えた美貌が挑みかかるかのように彼を見つめている──そう見えた。

 他人の空似だと、脳裏の冷めた部分が理性的判断を下す。

 しかし……やはり彼女は咲王恵利奈に似ていると彼は思うのだ。ひょっとすると、娘なのではないかと思えるくらいに。

 エフゲニー・ティラーデス・サードが恵利奈と離れて地球に発ったのが約ニ十年前、エスメラルダは芳紀ニ十五、六といったところか。彼の知るかぎり彼女に子供はいなかったので、年齢的には合わない。また、野の花のごとく可憐な美少女だった恵利奈に比べて、エスメラルダの美しさはまさにその名にふさわしい豪華な宝石のそれだ。

 エフゲニーはそっと息をついた。

「まあ、いいさ」

 急いで結論を出すまでもなく、その麗人については東尽が情報をもたらしてくれるのだ。

 もしも彼女が、彼の知らぬうちに生まれていた恵利奈の娘だったとしたら(業界美女のメイクは一種のSFXだと彼は思っている。五歳、十歳、調整するくらいテクニックと呼ぶまでもない)エフゲニーは肉親を得られるのだし、赤の他人の美女ならばおつきあいしてみるのもよかろう。

 不名誉なスキャンダルの種になったとしても、なんらかの形で愛を手に入れることができるのだ。

 ゆっくりと室内のバーまで歩いていって簡単なカクテルを一杯こしらえる。キャビネットの鏡に映る自分の顔の中にかの美人とそっくりな緑柱石(ベリル)の瞳を発見し、エフゲニーはグラスを掲げてささやいた。

 まるっきり彼らしくないそれは、昔、地球でみたオールドムービィの台詞(せりふ)である。

「きみの瞳に乾杯、だ。エスメラルダ──」  

 このロマンティストな情熱家との出会いの真の意義を、彼女は未だ知らない……。







── おもいでをしったよる ───────




あの惑星での物語です。どこかで見かけた名前が出てきますが、ミメもヤクノも出てきません。





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