冒険者①
「名乗る程の者ではないさ」
そう告げてアーデラインのもとから立ち去った流星は、周囲に誰もいないことを確認すると、仮面とローブを脱ぎ、皮袋へとしまった。
変身がとけ身体を包んでいた万能感が消えた。
「……ああ、ステータスが元に戻ったのか、疲れたな」
ずっしりと重くなった身体を引き摺る様にして、ウォーグレンの街へと戻る。
他にいく宛もない、というかテレポートで跳ばされたためここが何処なのかもわからない為、しばらくはこの街を拠点にして今後の計画をたてようかななんて考えていた。
しかし、街の入り口の前まで戻ってきてあることに気がついた。
(どうやって街に入ろう?城をでる際にアイリス様から貰った身分証はあるけれど、それってこの国でも有効なのかな?そもそも俺って不法入国してない?)
どうしたものかと途方にくれて空を仰いでいると、騎士が声をかけてきた。
こんな状況だ、この混乱のなか危険人物も街に潜り込みやすいだろう、騎士たちも警戒してるに違いない、そしてここに1人不審者がいる、つまりそういうことかと、疲れもあってボーと騎士を見ていると、
予想外に「君、大丈夫か?」と心配そうにのぞきこんできた。
「へ?だ、大丈夫です」
疲れが顔に色濃く出ていたのだろう、この街に向かう途中で魔物の進軍に巻き込まれ、命からがら逃げ延びた哀れな旅人と解釈してくれたみたいだ。
「災難だったな、あっちに緊急の治療所がある怪我を見てもらうといい」
そう言って案内してくれた。
治癒師のお姉さんに傷を見てもらって
「うん、ちょっとした擦り傷と打ち身ね、薬塗っとけばすぐに治るわ」
と軟膏を塗ってもらって
「それじゃ、あっちで難民の受け入れ手続きやってるから申請してきてね」
とお姉さんが指を指した方をみると、確かに幾人かの役人が慌ただしく書類を片手に何人もの人々の間を動き回っていた。
「お大事に」
と微笑むお姉さんにペコリと頭を下げてあっちへ歩いていく。
とりあえず、張られた簡易天幕の前、人々が列をつくってる所に並んで順番をまった。
暫くして順番が来てお役人の質問に答える。
身分証は先の混乱のなか失くした、この街に身分を証明してくれる親戚や知人はいない、途方にくれていると伝えると
「大丈夫、街はいまこんな状況だ、復興には人手がいる、そういった作業に従事して問題を起こさなければ仮の身分証と給金がでるからさ、力を貸してくれ」
と言ってくれた。
なんでも身分が証明できてそれなりの資金をもっている者はそのまま滞在許可をだし、好きに宿でも取ってくれ、身分証がないがこの街の住民に身分を保証してくれる親戚等がいるならそのまま身を寄せてくれと、そしてそのどちらもなかったり、お金がないのならとりあえず最低限の衣食住は保証するから復興作業に従事してお金と信頼を稼いでくれとのことみたいである。
そんなこんなで俺は肉体労働に勤しむことになったのであった。
☆☆☆
そして瓦礫を撤去したり資材を運んだりして汗を流すこと一月が経った。
「リューセイ、ほれ身分証が発行されたぞ、一月ご苦労さん」
「親方、ありがとうございます!」
「ま、その身分証は仮だから早めに職見つけるなりなんなりしろよ、まぁお前さんの働きっぶりは街の連中も見ていたからな、何処かで雇ってもらえんだろ、なんなら俺のもとにくるか?」
「嬉しいお誘いですけど、俺、冒険者にでもなろうかなと思います」
「そうか、ま、頑張れよ」
と背中を叩く親方に御礼を告げて冒険者ギルドへと向かった。