目が覚めて
目が覚めると白い天井が見えた。
もちろん見覚えなんてない。
強いて言うなら、保健室の天井を金掛けて豪華にした感じ。
「なんじゃそりゃ…」
思わず口から漏れた言葉に、苦笑いをしてしまう。
「目が覚めたか?」
「あら…お爺様」
寝たまま、声がした方に顔を向けるとそこにはお爺様が腕を組んで座っていた。
「どうかされましたか?」
「お前が大怪我をしたと聞いて、飛んで来たに決まっているだろう」
「私が、大怪我?」
確かに体中怠いけど、大怪我ってなんだ?
起き上がろうとして、全身に痛みが走る。頭を動かして自分の体を見る。両腕が包帯ぐるぐるで、頑丈に固定されている。
うわぁ…。
仕方ないので、大人しく寝ている事にした。
「二日も眠っていたんだ。暫くは、安静だな」
「二日も…ここは、王宮ですよね?」
「あぁ、そうだ。陛下や殿下のご厚意で、使わせていただいている。お前は、ロゼライン公を庇って馬に蹴られたそうだな。公が謝罪に来た。追い払ったが」
追い払ったんですねお爺様…。
でもそうだ。
私は、何故か馬の後ろに立ったナターシャちゃんのお父さんを突き飛ばして、代わりに私が馬に蹴られたんだった。咄嗟に腕で蹴りを受けた為、腕がへし折れて骨がこんにちわ…という…。
思い出しただけで吐きそう…。
あれは、グロかった…。
前世では、こんな大怪我した事がない。というか、前世でこんな怪我していたら発狂していただろう…。
それが無かったのは、お爺様に鍛えられているからだろう。
「まだまだ鍛錬が足りんな」
「…そのようですわね」
お爺様は、私が目覚めるまで側に居てくれたらしい。しかし、一応私の目が覚めたので、一旦屋敷に戻るとの事。私は一人でだだっ広い部屋のベッドの上で、痛み出した腕と戦っていた。
ぐおぉぉぉぉぉ!!痛み止めをくれぇぇえぇぇ!!やばい…真面目に痛い!!!
涙が出る程痛い!!
「ぐぬぬぬぬぬぬ…」
変な鳴き声を漏らしていると、扉をノックする音が聞こえた。
『はい』と返事を絞り出すと、マリウス君と侍従さんだった。
今の聞かれただろうか?
「テレサ嬢、少し良いか…?」
「はい。こんな姿で申し訳ありませんわ」
「いや、問題ない。やはり、まだ痛むか…すまない」
そう言って、軽く私の腕を撫でるマリウス君。
憂い顔が絵になる…誰か絵師を呼んでくれ。
「えぇ、少し…。ですが、問題ありません。私は、あのダグラスお爺様の孫娘ですもの」
煩悩を隠して、マリウス君に微笑みかける。
憂い顔は可愛いけど、やっぱりロリもショタも笑っているのが一番可愛い。
マリウス君も侍従も目を見開いた後、困ったように笑った。
「ははは、テレサ嬢は強いな」
「そうです。私は強いのですわ」
少し、場の雰囲気が和らいだ気がする。
「ルーベルン様、この度は本当に申し訳ありませんでした。私共がついていながら、この様な事になるとは…」
「いえ、謝っていただく必要はありませんわ。それに、私は役得でしたので大丈夫ですわ」
「役得?」
「はい。だって、ナターシャ様のお父様を守る事が出来ましたもの。役得ですわ」
「…。ロゼライン公には、怪我一つございませんでした。これも、ルーベルン様が身を呈して庇ってくださったからです。本当に、感謝致します」
そう言って、侍従が深々と頭を下げた。
良かった!無傷だったのね!!
これで、ナターシャちゃんが悲しまなくて済むわね!お父さんは一回どつきたいけど、それも今は無理だし、面倒だから許してやろう。
「それは、良かったですわ」
「しかし、テレサ嬢に傷を残す事になってしまった…」
「そうですわね。でも、仕方がありませんわ。お爺様にも先程言われましたが、これは私が未熟なせいでもあります。これを戒めに、もっと鍛錬を積みますわ」
私、一応令嬢の筈なんだけど、いつの間にか私も脳筋に近づいていっているわ…。
まぁ、ダイレクトに顔面やお腹を蹴られなくて良かったと思うべきよね。下手したら死んでたもの。そう考えると、お爺様にも感謝ね。
「テレサ嬢…。何も出来なかった私を許してくれ…」
そう言って、頭を下げ出すマリウス君。
「で、殿下!?そんな!!頭を上げて下さい!!?」
私は、かなり慌てふためきながら殿下に声をかけた。
王族に頭を下げさせるなんて!?私の首が飛ぶ!!
マリウス君のすぐ隣後ろに控えた侍従に視線を向けると、困った様な笑顔と目があった。
いや、そんな顔してないであんたも止めろよ!?
ちょっとイラっとしながらも、マリウス君に少し強い口調で言葉を続ける。
「殿下、本当に頭を上げて下さい。王族である殿下が、私の様な者に頭など下げてはいけませんわ。王族は、人々の先に立ち導く存在。神にも等しいのです。そんな方が、頭を下げるなどあってはなりません。今回の事は、私の落ち度です。殿下に非はありませんわ」
「しかし…」
「しかしではありません。殿下はただ、どんと構えて下されば良いのです。もしも…もしも落ち度があると思うのでしたら、これからそれを補えば良いのですわ」
「!!」
マリウス君は頭が良い。だから、しっかりと理解してくれる筈だ。
マリウス君は顔を上げ、私の目を見た。
綺麗な紫色の瞳からは、何かを確かめる様な強い光が見て取れる。
そして一度目を閉じ、次に開いた時には意思が固まった様で、強い眼差しをしていた。
「テレサ嬢の言う通りだ。私もまだまだ鍛錬が足りない様だ。これからはこの様な事がない様に、王族として一層精進に励もう」
「はい。それでこそ殿下ですわ」
でも、あまり体は鍛え過ぎないで欲しい。ゴリゴリの王子になど近寄りたくなくなるから。
二人で笑っていると、侍従さんもにこやかな顔をしているのが目に入った。
貴方ももっと頑張りなさいよ。という目で見てやっといた。
そして会話もそこそこに、マリウス君達は部屋を出た。
さっき、あんな偉そうに言ってしまったが、私の首は大丈夫だろうか…?たかが伯爵家の小娘が口を挟んで良い事ではなかった…分かってる…分かってはいるのだが…。
あんな可愛い子が、辛そうにしてたら仕方ないだろ!!そりゃあ、勝手に口も動くさ!!!
最後は、天使の様な笑顔を見せてくれたのだから、もし首を刎ねられるなんて事になったら、全力で逃げよう!!私の大福ちゃんなら、そこらの馬になんて負けないわ!!
そんな風に、動かない体で妄想を繰り広げていると突然部屋の扉が開いた。
誰が入ってきたのかと思い顔を動かして入り口を見ると、そこにはナターシャちゃんが居た。
「ナ、ナターシャ様?」
「!!…起きていたの」
なんだか、ばつの悪そうな顔をするナターシャちゃん。
視線を泳がせていたナターシャちゃんは、決意を固めた様に私の寝ているベッドの横にやって来た。
「…貴女は、一体何?」
突然の問いかけに、びっくりしてしまった。
何って…どういう事?まさか、私の精神がババァだと気づかれた!?
「なんで貴女なんかに…殿下もお父様も…ちょっと名の知れただけの伯爵家が…」
「…ナターシャ様?」
「気安く呼ばないで!!私は公爵令嬢!貴女は伯爵令嬢!弁えなさい!!」
声を荒げ、涙目で睨みつけられる。
迷子になってしまった子供の様で、見ていてとても切ない。
しかし、こんなまともに動かせない両腕では、抱きしめる事も出来ない。
「どうして…どうして貴女なのよ!!」
「…ナターシャ様。私が、憎いですか?」
「えぇ、憎いわ!憎くて憎くて堪らない!!」
「それでも私は、ナターシャ様が好きです。大好きです」
「なっ!!」
涙を溜めた目を大きく見開き、私を凝視している。まるで、化け物でも見るかの様に。
でも、これは本当の事なんです。私はナターシャちゃんが好き。それこそ、一度死んだ今となっても変わらない。
私は、ナターシャちゃんに笑ってみせた。
「貴女…何なのよ…。狂ってる…」
「そうですね。そうかも知れません」
そう言うと、また扉が開き今度は兵が入ってきた。
そして、ナターシャちゃんを見てギョッとした。
「声がしたので、様子を見にきたのですが…何故、ロゼライン嬢がこちらに?」
「…」
兵の問いかけにまたしても、ばつの悪そうな顔をするナターシャちゃん。
「ナターシャ様は、お父上の代わりにお見舞いに来てくださったのですわ」
「…」
「…そうでしたか。しかし、面会は極力させない様にと言いつけられております。お帰り願えますか?」
「残念ですわ。もっとナターシャ様とお話ししたかったのに…ですが、仕方ありませんね」
「…」
ナターシャちゃんは何も言わず、唇を噛み締めて部屋を出て行った。
その瞳には、困惑の色が見えた。
もう一押しすれば、私に心を少し開いてくれるかしら?
私も、ナターシャちゃんの取り巻きになって、もっと近くで観察したいわ…。
そんな事を考えながら、まだ明るい外を見てから瞼を閉じた。




