中身がおっさん
翌日、朝から体を動かす暇もなく、王宮のメイドさん達によって磨き解され、エステにでも来たかのような感覚だ。
まぁ、エステになど行った事はないのだけど…。
その次は、着替えだ。
朝からする必要があるのかと思ったが、衣装はマリウス様が贈ってくれたもので、サイズのチェックをした。
どこで聞いたのか、サイズは殆どピッタリだった。
私の個人情報が漏れている…。
これからは、体型には気をつけないといけないようだ。
太ったら大変だ。
そして、直しをしている間に、アクセサリーなどを合わせていく。
その時に、殿下から今まで頂いていたアクセサリーを出したら、物凄く驚かれた後にニヤニヤされた。
その時に、『殿下もやはり、殿方でしたのね』『女性に興味がないのではなく、もう決めた方がいたのですね』などなど言われた。
恥ずかし過ぎる。
そして、そのアクセサリーのいくつかと、別の物を付ける事になった。
アクセサリーとは、地味に邪魔で重い。
これは、好きな人から貰ったという部分が無ければ、私なら絶対につけない気がする。
粗方衣装合わせが終わり、その頃にはお昼を過ぎていた。
そして、少し時間が出来たので、朝は出来なかった筋トレを…と思ったのだけど、王妃様にお茶に誘われたのでそちらを優先した。
「本日は、お招きくださりありがとうございます」
「あら、そんなに畏まらなくても良いのですよ?」
なんとも愛くるしい仕草をする方だ。
今日も一段と美しい…。
席を勧められお茶会スタート。
他愛のない話をした後、王妃様が嬉しそうに語り出した。
「あの子が、あんなに幸せそうな顔をするのを初めて見ました。きっと、心から貴女を想っているのでしょう。母としては、こんなに素敵な方があの子のお嫁さんになってくださるのは、嬉しい限りです」
「そんな、ありがとうございます」
「でも、あの子で本当に良いのかしら?あの子、よそよそしい所があるでしょ?」
「?そんなことはないと思いますが…?」
よそよそしい事なんてあっただろうか?
あまり思い当たらないのだけど…?
私が考えていると、王妃様は驚いた顔をした後に、あらあらと笑った。
「あの子、本当に貴女が好きなのね。家族にだって一線を引いているような子なのに」
「そうなのですか?」
「えぇ!聞いてくださる!?」
「あ、はい…」
王妃様はそう言うと、立ち上がって椅子を私の隣に運んで座った。
その時、周りのメイドさんと兵士がざわついたのが分かった。
確かに、王族が自分で椅子を運ぶなどしないだろうから、驚くのも分かる。
その時、一人の兵士が部屋を出た。
「全くあの子ったら、昔から大人だったと言うか、子供とは思えない行動や言動をする子でね?なんだか、子供時代が無かったというか、可愛げがないというか…」
「そんなことはないと思いますが…」
「そうよね…貴女のように…」
「王妃様…?」
「こんなにも素晴らしい…」
「あ、あの…?」
何故か、息を荒くして迫ってくる王妃様。
周りが息を飲むのがわかった。
そして、次の瞬間。
「ひゃっ!?」
「こんなにも素晴らしい身体をしているんですもの!!惚れない方が可笑しいですわ!!!」
「お、王妃様っ!?」
王妃様は、何故か私に抱きついて胸に顔を押し当ててくる。
私は、避けようとしたが遅れてしまい、椅子から落ちそうな状態だ。
周りは皆、目を逸らしている。
そして、尚も王妃様は離れてくれない。
寧ろ、触り方が激しくなっていく。
「あの子は良いわよねぇ、こんな素晴らしいものを手に入れたのですもの。いえ、まだ結婚したわけではないですけど、卒業したらすぐに結婚でしょ?あぁ…羨ましい」
「王妃様…少し、苦しいですわ…」
「こんなに良いものをあの子の独り占めなんて…狡いわぁ…大きいし柔らかいし…あぁ…至福」
あぁ…いつの間にか揉まれている…。
もう、そろそろ足と腰が辛い…。
椅子から落ちないようにバランスを取っていたが、徐々にキツくなってきた。
しかも、女性なのに背筋がぞわぞわする。
も、もう無理です――!!
私が王妃様の肩を掴む前に、別の人が私の両肩を掴んで後ろに引っ張った。
「きゃっ!?」
「…まぁ!マリウス!!」
「…母上。何をされているのですか…」
私を引っ張って抱きしめたのはマリウス様だった。
その声は低く、明らかに怒っている。
「少し、親交を深めていただけですわ」
「少し…?彼女の身体をいやらしく触ることが?」
「いやらしくだなんて…優しく触っていただけよ!こんな良い身体を貴方が独り占めするなんて狡いわ!」
「…」
「それに、私の娘になるのだもの!問題なんてないでしょう?」
「…大有りです」
「あら、嫌ですわ!!心の小さい男は嫌われましてよ?」
あぁ…まずい。
殿下は、かなり怒っているわ…。
私を包んでいる腕に力が入るのがわかる。
しかも、殺気が凄い。
実の親に向ける殺気ではない。
だからなのか、私は身体を捩って殿下の鼻をつまんでいた。
「マリウス様。そんなに怒らないで下さい」
「…!」
「あら…」
マリウス様や王妃様だけではなく、周りが皆驚いている。
そこで、状況を思い出して手を慌てて放した。
まずい事をしたような気がするわ…。
婚約したからと言って、こんな事をしてはいけなかったわよね…?
私が放心していると、またもや新たな人物が部屋に入ってきて、王妃様の首根っこを掴んだ。
「わぐっ!?」
「お前は本当に…一体何をしているんだ…」
「あなた、苦しいですわ…」
王妃様の首根っこを掴んだのは陛下だった。
肩で息をしながら、王妃様を睨んでいる。
どうやら、先程部屋を出た兵士は、殿下と陛下を呼んだようだった。
今、扉の前で息を切らせている。
陛下の手から逃れた王妃様は、殿下に抱きつかれたままだが、立ち上がっていた私に抱きついてきた。
背が小さいからか、顔が丁度私の胸に当たる。
「あなたまでなんですの!?ただ、テレサさんと親交を深めていただけでしょ!?」
「お前は…誰も止めないからと言って、暴走するのはやめなさい!!」
「こんな素敵な果実が目の前にあって、我慢できる貴方達の方が可笑しいですわ!!」
「可笑しいのはお前だ!!良いから目を覚ませ!!」
「私は正気です!!」
「尚悪いわ!!」
何だろう…この漫才。
最早、早く終われと思ってしまっている私がいる。
すると、陛下が王妃様を無理矢理引き剥がして連行していった。
その際『今度はじっくり!一緒にお風呂に入りましょうね!!』などと言っていたのは、聞かなかった事にしたい。
そして、途端に静まり返る部屋。
嵐のようだったわね…。
私は放心している間も、殿下が離れる気配はない。
だから放って置いたが、そういえば周りに人がいる事を思い出して離れてもらう事にした。
「あの、マリウス様。そろそろ放して頂けませんか?」
「…」
「マリウス様?聞こえていますよね?」
「はぁ…。アレと茶会をすると聞いて、急いで来たのに…遅かった…」
「アレだなんて…」
実の母親…しかも、王妃に対する言葉ではない。
殿下は、私の身体を自分の方に回して両肩を掴んだ。
「良いか、アレは女じゃない。だから、決して二人にならないように」
「え…女性ではないのですか…?」
「私や父上も、昨日までは他となんら変わらない女だと思っていた…。だが、晩餐会の後にあの本性がちらつき始めた。アレは…中身は、そこらの貴族よりも悪い。下賎な男のようなものだ」
「…」
…あんなに綺麗なのに、まさかの中身おっさん…。
だから、ぞわぞわしたのね…。
え、待って…もしかして、前世おっさんで、転生したとか無いよね?
いや、でもそれなら私が投げ飛ばしている筈だし…。
妙に恐ろしくなり、素直に頷いた。
すると、また抱きしめられる。
「父上には、母上に首輪でも付けてもらわなくてはな…」
「首輪はやり過ぎですわ…」
「いいや、そんな事はない。寧ろ足りないくらいだ」
王妃様って…。
何だか、とんでも無いところに嫁ごうとしている気がして、気が遠くなった。




