何てこったい
さっきまで騒然としていた会場が、静まり返る。
「ダグラスに話を聞いて、君と一度話がしてみたかったんだ」
「そんな、恐れ多い…」
本当に、マリウス君も天使だけど、今はやめて欲しい。今はそう言う雰囲気ではない。話なら、お爺様にして下さい!
などと心の中で訴えても、届く筈が無く。
「顔を上げてくれ。ちゃんと顔を見て話がしたいんだ」
「いえ、ですが…」
「あぁ、確かに。こんなに囲まれていては、話も出来ないな。ナターシャ嬢、屋敷の部屋を借りたいのだが」
「「えっ!?」」
まさかのナターシャちゃんと声がシンクロしてしまった。
顔を上げると、既にマリウス君の侍従らしき人が動き出していて、振り返ったマリウス君と目があった。
ひぇっ…マリウス君も神秘的可愛さ…。
そして、あれよあれよという間に話が進み、部屋に案内されて、今はふっかふかのソファーに座っている。
隣にはマルロ君。私が強引に連れて来た。
テーブルを挟んだ向かいには、マリウス君とナターシャちゃんが座っている。
そしてマリウス君の後ろには、先程の侍従も控えており、あとメイドと何人かいる。
なんだよこの空間。手の届く範囲に天使がいっぱい居る。
侍従はどうでも良いが、それが居なければ天国!!
「ナターシャ嬢まで、付いてこなくても良かったのに」
「いえ、マリウス様を一人には出来ませんもの」
ナターシャちゃんの中での私達って一体…。
マルロ君も緊張しているのか、ずっと下を向いている。
少し遠い目をしていると、マリウス君が話し始めた。
「テレサ嬢はなんでも、ダグラスから剣術などを教わっているとか」
「まぁ!信じられませんわ!本当に貴族の娘なのかしら!!」
「羨ましいよ。我が国の英雄に直接指南してもらえるなんて」
マリウス君は、全くナターシャちゃんの言葉は聞こえていないようだ。私は苦笑いしかできない。
「確か、乗馬の腕前も素晴らしいと聞いたのだが」
お爺様、個人情報がダダ漏れです…辛い。
「え、えぇ。お爺様の腕が良いからですわ」
「そんな、謙遜するな。君は自分で馬の世話までして、信頼関係を築いていると聞いたよ」
「まぁ!馬の世話を!?信じられませんわ…。令嬢としての品位を疑いますわ…」
あぁ…ナターシャちゃんの汚らわしいものを見る目…まさか生で直接見られるなんて…幸せ過ぎる。
「もし良ければ、今度一緒に乗馬をしないか?」
「な!?」
「「え…」」
今度はマルロ君とシンクロした。
ここに来て、今初めてマルロ君の声聞いた。
「いえ、私など…」
「まぁ!貴女!!マリウス様の誘いを断るつもりですの!!なんて身の程知らずなの!!」
「遠慮はいらない。君の乗馬する姿は、とても美しいのだとダグラスから聞いてな、私も見てみたいのだ」
ひぇぇ!?お爺様ぁぁ!!なんて事マリウス君に言ってるんですかぁぁぁ!!!
心の中で発狂する。
しかし、マリウスの誘いを断る理由が見つからない。
「それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
「そうか。ではまた後日、こちらから連絡する」
「はい。お待ちしております」
「さて、私はそろそろ王宮に戻らないとだな。テレサ嬢、わざわざすまなかった」
「いえ、滅相もございません」
立ち上がり、深々と頭を下げる。
マルロ君も、私に習って慌てて頭を下げた。
マリウス君が部屋を出た後、ナターシャちゃんが声を低めて
「貴女…あまり、調子に乗らないで下さいましね…」
と、言っていった。
部屋に取り残された私とマルロ君。
私は疲れ切ったマルロ君の方を向いて「今の見ましたか!?あぁ…流石ナターシャ様。今日は良い日ね!」と笑って言った。
しかしマルロ君には「全然…」と、眉を顰められてしまった。だけどすぐ後に「助けてくれてありがとう」とも言われた。
本当に可愛い子だ!
私達が会場に戻ると、先程よりもこちらを見る視線が増えた気がする。
まぁ、王子に名指しで呼ばれたのだから仕方ない…仕方ないのか?
だが、そんな視線のせいか、はたまた王子の前に出されたせいか、マルロ君はぐったりしていた。
なので、今日はもう帰る事を勧めた。
勿論私は終わりまでいるのだけど!!
ナターシャちゃんを存分に愛でてやるのだ!!(遠くから)。
マルロ君は、私の言った通りに今日は帰る事にしたらしい。
「…今日は、ありがとう」
「いいえ。私こそ、楽しい時間になりましたわ。ありがとうございます」
「…」
「そうだ!今度、お手紙書きますね」
「うん」
そんな約束をして、私はマルロ君と別れた。
その後は宣言通り、ナターシャちゃんを存分に眺めて過ごした。
周りは、ヒソヒソと何か言っていたけど、天使達のそんな姿も愛らしい。
今日は、ナターシャちゃんを愛でて、可愛いお友達も出来て、もの凄く充実していた。
最高の日だった。




