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乙女の神の世界 地球② 隼人

 俺とクシナとナゴは、美里を連れて路地裏から出ようとすると、急に背後から美里に首根っこを掴まれる。


「ぐえっ、な、何するんだよ!?」

「さっき話しただろ! 僕やこの子達が襲われたらどうするんだよ。言っておくけど、ここは穏健派の領域なんだぞ」

「それなら、そうと早く言えよ。全く……」


 俺はナゴに合図を送るとカードを一枚取り出す。


「あまり長期間は無理だから、その改革派の領域までの案内、しっかり頼むぞ、美里」

「わかってるよ。任せてくれ」


 俺達は互いに手を繋ぐとナゴがカードを掲げて「バニッシュ」と叫ぶ。

互いの姿が見えなくなり、俺は左手に握っている美里へと声をかけた。


「手を離すなよ。このまま案内してくれ」


 グイッと俺の左手は引っ張られる。走れば速いが俺とクシナでは歩幅が違いすぎる。

俺の右手に繋いでいるクシナが遅れ出すと、俺は左手を引っ張り少し速いと合図を送る。


「まだ、着かないのか?」

「あと、少し!」


 穏健派の領域は、かなり酷い有り様で、道のど真ん中で少女を襲っており、誰も止めようとしない。

見かける度にクシナ、というよりはナゴだろうけど、足を止めようと引っ張られる。

俺は淡々とナゴに今はそれどころじゃないと諭すしかなかった。



◇◇◇



 何度かバニッシュが切れかけては路地裏に入りかけ直す。

その間に、美里は俺に改革派がどういうところかを教えてくれた。


 改革派のリーダーであり兄の隼人は、慎重に事を進めたいと望んでいる。

つまりは、オダイバコロニーから外へ出る目的は変わらないが、帰る場所を失う訳にはいかないと、穏健派に一緒に行かないのなら、せめて今ある改革派の領域に侵攻しないで欲しいと説得を続けていた。

ところが、穏健派は中々聞く耳を持たず、度々小競り合いが続く。


 穏健派は、協力を望むなら改革派の領域に逃げ込んだ、特に女性を返せと言ってくる始末。

隼人は、それをずっと拒み続けていた。


 しかし最近、穏健派のリーダーと名乗る男から、手打ちにしたいと打診があった。

穏健派のリーダーが代わったのだ。


 条件は、かなり破格の提示をされた。領域への不可侵、外へ出ている間の補給、そして何より改革派が望んでいた他コロニーのほぼほぼ正確な地図を。


 締結に向けての話し合いを持ちたいと言われて、代表者を一人寄越して欲しいと言われた隼人は、自ら行くと言い出すが、周りに危険だと止められる。

美里と並んでもう一人の副リーダーが名乗りを上げたが、それを止めたのは美里であった。


 そして、彼女は自ら立候補をした……。


「なんで、そんな無謀な事を! この有り様を見て美里が一番危険だろ!」

「ぼくは副リーダーだけど、それは隼人兄さんがリーダーだから……」


 どうやら美里は功を焦ったようで、皆が止めながらも一人無謀にも穏健派の領域へ向かったらしい。

今となっては、その代償はとてつもなく大きいものとなってしまった。


「ほら、行くぞ。俺達のことは、チンピラに絡まれている所を助けてもらったことにしておけ」


 俺は美里に伝えると、ぎゅっと俺の手を握る力が強まった。



◇◇◇



「見えた! あのバリケードの向こうだ」


 俺達の眼前に現れたのは石や煉瓦、土嚢などで積まれた高さ三メートル程の壁。一見頼り無さそうではあるが、その手前にはかなり深い溝が掘られてあり、唯一橋を渡らなければ、壁には辿り着けない。


(この橋が落とされたら、そうそう攻め込めないな)


 橋の手前でバニッシュを解くと、警備をしていた若者数名は突如目の前に現れた俺達に驚いた。


「な、な、なんだ、お前──美里ちゃん!?」


 心配していたのだろう、一瞬安堵した様子であったが、すぐに俺の上着しか着ていない美里を見て、俺達に牙を向ける。


「待って! この人達は、ぼくを助けてくれたんだ! それより隼人兄さんに先に会わせて!!」


 美里の計らいで警備の若者達からは、睨まれながらも橋を渡り終え、壁の向こう側へも美里がいることで、すんなりと通してもらえた。


「美里!!」


 美里と同じ黒髪黒目の青年、二十歳そこそこといったところだろうか、美里を見つけると遠慮なく抱き締めた。

彼が改革派のリーダーの隼人なのだろう。

後ろ髪は襟元まで伸び、前髪も左目を覆うほど。

愛おしそうに美里を見つめる青年の前髪が風で揺れると、左目には大きな火傷の痕が見えた。 

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