乙女の神の世界 地球③ トマトジュース
挨拶する前に俺達は、隼人と美里に案内され一軒の家の前で待たされていた。
周囲からは物珍しげなものでも見るような視線が気にはなるが、さほど大したことではない。
何せ、ほとんどが女子供だ。
「ごめん、待たせてしまって。兄さんが御礼を言いたいって。とりあえず中に入って」
美里に家の中へと案内されると、隼人が俺に向けて手を差し出してくる。
「改革派のリーダーである、隼人だ。すまないな、美里から話を聞いておかないといけなかったから。えっと……」
「グレンだ。敬語は苦手だからな、隼人って呼ばせてもらう。俺もグレンでいい」
俺と隼人は握手を交わす。握手は何処の世界でも不思議と共通の友好の証だ。
「それと、こっちの黒髪がナゴ、赤毛の方がクシナだ。初めに言っておくが奴隷じゃねぇぞ。そんな目でみたらタダじゃおかないからな」
「大丈夫。改革派の中にそんな目で見る奴はいないよ」
にこやかに笑いながら言う隼人から視線を移し、俺は美里を睨み付けた。
こいつは、初め奴隷だと見ていたからな。
美里は気まずそうに、頬をかきながら視線を俺から外した。
「美里。悪いが何か飲み物出してやってくれ」
「はーい」
この場に居たたまれなくなった美里は、ラッキーと言わんばかりに軽い足取りで奥へと引っ込んだ。
隼人は「かけてくれ」と、テーブルを挟んで隼人と対面する。
「まずは、礼を言わせてくれ。美里を助けてくれて、ありがとう!」
隼人に深々と頭を下げられると、俺も申し訳なくなってくる。
助けたと言っても、それは美里が汚された後の話だ。
俺は正義の味方ではないが、女性を暴行して無理矢理なんて卑劣な奴らは、俺の主義に反する。
だから、助けただけの話だ。もし、命のやり取りならば、美里が武器の一つでも持っていたなら、俺は助けなかったかもしれない。
「頭を上げてくれ、隼人」
「いや……もし、君たちが来てくれなかったら、美里は男達に拉致され一生慰み者として扱われただろう」
なるほど、美里は兄の隼人には全て話したようだ。でなければ、慰み者なんて言葉は、そうそう出ない。
強いな、美里は。普通なら、たとえ親兄弟でも話辛いことだ。
「そもそも、何故美里が功に焦っているのに気づかなかった。こうなることは、美里から話を聞いた程度の俺でも予想はつくだろう」
「そうだな、俺はリーダーも兄としても失格だな……」
「兄さん、それは違う。今回は、ぼく自身のせいだ。自分を責めないで!」
赤い液体の入ったグラスを持った美里が話に割り込んできた。
美里はグラスをテーブルに置くと、大声で隼人を庇う。それこそ、自分が何をされたのかを話す勢いで。
俺は咄嗟に「外に漏れるぞ」と、美里の口を塞ぐ。
「二人とも熱くなりすぎだ。何度も言うが俺たちは、なにも見ていない。ただ、美里を助けた、それだけだ」
クシナが美里達に向かって指で自分の唇を横になぞる。口をチャックしろ、そういう意味なのだろう。そういえば、俺の槍の師匠でもありクシナの師匠が、よくやっていたな。
「そうだな、沈黙は金と言うしな。美里も、これからは頼むから無茶をしないでくれ」
「わかったよ、兄さん……」
俺は二人を見ながら出された赤い液体に口をつける。ほどよい酸味と甘さ、それでいて少しドロッとしており野菜っぽいが青臭さは感じない。
むしろ、濃い上によく冷えており疲れた体に良さそうだ。
「なんだ、これは?」
「トマトジュースだよ。俺たちの生命線でもある。何せ貴重な水を、栽培にそれほど利用しなくていいし、みずみずしい上に、水が少ないほど甘くなるからな。知らないのか? トマト」
「初めてだな」
嘘だ。俺は、これがトマトジュースだと聞いたとき、頭の隅で“知っている”とよぎった。
俺には、記憶が残されていないのに……。
◇◇◇
「それじゃあ、今は改革派が優勢なのか?」
「ああ、ぞくぞくと戦力も増えて来ている」
「増えて来ている? 穏健派から来ているのか?」
隼人は強く頷く。真っ直ぐな眼で俺を見ながら。
穏健派が策を用いているにも関わらずに、この男は真っ直ぐすぎる。
美里が慰み者にされると、心配していたが、俺が穏健派ならば、まずは頭を潰す。つまり、隼人だ。
妹を人質に取り隼人を無力化する。
慰み者にするなら、すればいいし、散々男どもに弄ばれボロ雑巾のようになった美里を返すだけでも、精神的に病むだろう。
「食料はどうなんだ? 人が増えれば食い扶持も増えるだろ?」
「悩みの種だな。自給自足で賄うだけで、正直ギリギリか、それとも下回るかの瀬戸際だ」
食料不足になれば、暴動も起きかねない。俺なら人を侵入させて、それを理由に暴動を扇動する。
「一つ聞くが、まさか疑うことなく穏健派からの亡命を受け入れていないだろうな」
「…………」
ダメだ、これは。恐らくリーダーとして人としては慕われているのだろうが、あまりにも眩しいくらいに真っ直ぐ過ぎるだろ。




