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蟹の神の世界 アクアスフィア⑩ ミツル

 ナゴが元恋人であるマサカツを探している時、シノブの方にも動きがあり俺達は移動していた。

シノブとミツルが此方に向かって来ていたのだ。


「ナゴの方に気を取られて思ったより近づかれた。少し離れるぞ、クシナ」

「困惑。グレン、襲わないの?」

「俺は慎重なの。千里眼が此方にある以上、相手の動きは見える。最終日にでも、カードを奪えばいいさ」


 とはいえ、もうすぐ四日目の閉鎖が始まる。更に移動出来る場所は限られてくる。なんて考えていたら島が揺れ始める。


「なんだ? いつもより揺れが大きい!」


 思わずクシナも尻餅をついてしまう。俺はクシナを背中に乗せると、島の中央に向かって走り出す。

嫌な予感がビンビンする。


 杭が地面から伸びて森の木々の背丈を越える。危なかった、想像していた範囲以上が閉鎖されてしまった。

俺はすぐに千里眼を使い他の人達と食糧が何処に投下されたか探る。


 全員いることを確認した俺達は、食糧に向かって走り始めた。

ちょうどシノブ達と接触するかしないかの位置。


「見えた。あれだ! クシナ、警戒しろ、左だ」


 俺はコンテナを奪うとコンテナにカードを差し込み中身を取ると、そのままアイテムボックスへ。代わりにアイテムボックスから二丁板斧(にちょうはんぷ)を取り出した。


「よ、よう。グレン、クシナ」


 現れたのはミツルだけ。わざとらしく偶然を装おっている。背丈もなく、どう評価しても普通の少年。警戒してはいるがカードすら手に持っていない。


「シノブはどうした? 一緒じゃないのか」

「あー、えー、いや、別れちゃってよお」


 さっきまで一緒だったのは知っている。しかし目の前で千里眼で探る訳にはいかない。俺とクシナは互いに背合わせて警戒していた。


「それで、何かようか?」

「あー、うん。その、レンカ見かけなかったか?」

「レンカ?」


 てっきり食糧を奪いに来たものだと思い込んでいた。レンカとミツルには何かあるのか。さて、何て答えようか。


「一度だけ会った。サクラと一緒にいたぞ」

「そ、そうか。無事なのか……良かった」


 ミツルは心底安心した表情をする。


「そんなにレンカが心配か?」

「い、いや。あー、うん。一応幼馴染みだし……」


 俺でもわかる。ミツルのやつ、レンカに惚れているな。だったら何でこいつはレンカと居ない。それに今のレンカの本性を見たら、ミツルはどう思うのだろうか。人を笑いながら焼く姿を。


「それで、話はそれだけか?」


 俺の質問にどうしたものかと思い悩むミツル。芝居するにしても、もう少し計画してこいよな。

その時、俺の背後に誰かが近づく気配を感じる。

クシナも同じように感じたようで、俺の真後ろで殺気を放つ。


「あー、いや、その……」


 煮え切らないミツルに俺は苛立ちを覚える。


「あ、そうだ。その食糧分けてくれないかな。なんだったらカードと交換でいい」


 そういうとミツルはポケットからカードを手に取る。

不覚だ。ミツルのわざとらし過ぎる芝居に気を取られてカードを手に取らせてしまった。

これで能力を使う準備を整ってしまった。


 ミツルは無警戒に俺に近づいてくる。


「おい、それ以上近づくな!」


 背後から草むらを掻き分ける音が聞こえたその時だった。


「えっ……」


 ミツルは、腹から血を吹き出させていた。ミツル本人も何が起こったのかわかっていない様子で、腹から流れる血を手に取ると呻き声を上げながら地面に倒れた。

その時に落としたミツルのカードを、突然赤い血で染まった手らしきものが奪って行くのを俺は見逃さなかった。


 恐らくシノブの仕業だ。しかし、あいつの姿は見えなかった。かろうじて血で濡れた獣のような腕だけしか。

別のカードの能力も使えるのか、だったらちょっと厄介だぞ。


「急遽。グレン、こちらも不味い」


 俺がクシナの声に反応して振り返ると、そこにはレンカとサクラの姿が。

レンカは体を小刻みに震わせていた。


「よくも……よくも……ミツルを、ミツルを殺したわねぇええええ!」

「なっ、ちょっと待て」

「問答無用! “イフリート”」


 人の話を聞こうとしないレンカの周りに三体の人型の炎が現れる。一体だけじゃないのか。

くそっ、レンカからは俺がミツルを殺したように見えたのか。確かに俺もシノブがやったという確証は無い。


「クシナ!」


 イフリートがクシナに襲いかかる。俺も二丁板斧で反撃に回る。

ところがイフリートは体が炎なだけあって、体を斧がすり抜ける。


「なんて、厄介な! あちいっ!!」

「殺してやる、殺してやる、殺してやるぅうううっ!」


 体が炎なだけあって動きが速い。しかもこちらの攻撃を避ける必要も無いのだから、無防備に突撃してくる。

鬱陶しいことこの上ない。


「ならば、本体を狙う!」

「“イフリート”」


 更に人型の炎が二体追加される。計五体になったイフリートは、俺達を四方八方から襲い来る。


「クシナ!」


 俺はクシナの後ろ襟を掴むと逃げ出した。

追ってくるイフリートの動きは速いが、本体であるレンカは、そうでもない。

レンカが見えない範囲にまでに逃げ込むと、俺達は草むらに身を潜める。


「“千里眼”」


 レンカは、まだ近くをウロウロしている。イフリートは本体であるレンカから離れようとしない。

予想通り、あれはレンカが操っていると俺は見た。



◇◇◇



 レンカが去った後、俺は他の奴らを覗き見る。

シノブは、やはりミツルのカードを手に入れたのだろう。木にもたれ掛かりながら、余裕の笑みを見せていた。

レンカとサクラも、俺達のことは一時諦めたのかミツルの遺体に泣き崩れている。

そう言えば、あいつ等はこのゲームで人が死ぬのを初めて見たのだったな。


 そしてナゴ。それに近づくマサカツだったが、背中にかなり太い木を隠すのを俺は見た。

そして、マサカツはナゴに後ろから木で襲いかかった。

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