蟹の神の世界 アクアスフィア⑨ 裏切り
日が暮れ始めた頃、食糧投下の知らせがカードに届くと俺とクシナは、食糧を確保するべく走り出した。
一日二日食べなくても問題はないが、飲料水を確保することが最重要であった。
空腹は我慢出来るが、喉の渇きは止められず、下手をすれば一日で動く気力を奪われかねない。
俺とクシナは、動けるうちにと足を止める事はなかった。
「あった! 食糧だ!」
見つけた食糧の箱は、やはり初日より小さい。食糧に飛び付いた俺は「クシナ!」と叫ぶと、クシナは咄嗟にグングニールの槍を草むらに向けて構えを取る。
「あーあ、また取られちゃったじゃない。もー、サクラが遅いせいだよ」
「ご、ごめん。レンカちゃん……」
草むらから現れたのはレンカとサクラ。千里眼で常に確認していたため、すぐ側にまで来ていたことは、わかっていた。
しかし、サクラの様子が変である。
元々、おどおどはしていたが、何かに怯えるように腕を胸の前で折り畳んでいた。
「それより、その槍。それがクシナのカードの能力ってわけ?」
そう言えば色々有りすぎてクシナの本来の能力を聞くのを忘れていた。
もしかしたら、今後切り札になるかもしれないから、黙っておくのが得策だな。
「否定。これはクシナの所有物」
うん、あっさり喋ってしまった。クシナはいい意味でも悪い意味でも正直だ。
「じゃあ、ペナルティ受けたのグレンとクシナだったの? ふーん、まぁ食糧はいいわ。まだ隠してあるし。それより、情報教えてよ。私たち、他の人と全然合遭遇しないのよね」
「何か、随分上からの物言いだな。教えるとでも?」
「あ、そ。『イフリート』」
レンカはカードを掲げて叫ぶと、レンカの影が起き上がり炎に包まれる。
おいおい、こんな場所で火を使うと燃えるだろうが。と思ったが、イフリートの炎は草むらに触れても燃えない。
見せかけだけか。
いや、他にも何かあるかもしれない注意しないと、って思ったらクシナが襲いかかる。少しは警戒しろよ。
「ま、待ってぇ!!」
寸でのところで、サクラがクシナとイフリートの間に飛び込む。危ないことをする。
「サクラぁ?」
低くドスの効いたレンカの声に、サクラは小さげ身体をビクッと震わす。
怯えているのは、レンカに対してか。
一体二人に何が、親友じゃなかったのか。
「れ、レンカちゃん。わたしがお願いするから、ちょっとだけ待って……」
震えたサクラの声。俺にお願いと頭を下げるが体の前で組んだその手は小刻みに震えている。
どうするか……二人に何があったのかも気になるし、少し教えるくらいならいいかと、俺は条件を飲んだ。
『癒し手!』
情報の代わりにとサクラが俺とクシナの傷を回復してくれた。レンカは勝ち気な性格だったが以前より態度が大きくなっており、治療している間、しきりに舌打ちするなど、些細な時間さえも苛立っている。
(血の匂い……?)
サクラから微かに血の匂いがしており、服も土や埃で汚れてはいるが、不自然な位に汚されていた。もしかしたら血の染みを消すためにかとも思えた。
「俺が知っている限り、二人死んでいる。二日目にマキ。殺したのはシノブだ。これは間違いない。もう一人は三日目の今日、ダイジロウが殺された。此方は誰が殺したかわからないが、三日目ということもあり、ダイジロウがジョーカーとバレて殺されたんじゃないかと俺は思っている」
「ふーん、じゃあ貴方達はジョーカーではないと?」
「俺達がジョーカーなら問答無用で襲っているさ」
「まぁ、それはいいわ。それより貴方達の能力は、何?」
「充分情報をやっただろ? 教えるわけないだろう」
レンカの目付きが鋭く吊り上がる。一触即発の雰囲気にサクラは、間に割って入ると、レンカは苛立ちを隠そうともせずに立ち上がり、何も言わずに立ち去る。
「サクラ。俺達と一緒に来ないか?」
サクラは最初に会った頃より痩せた気がした。原因はレンカであるのは、予想がついたから、俺は誘ってみたのだが、サクラは首を横に振りレンカの後を追いかけていった。
その日の夜。俺は、サクラが気にかかり千里眼でレンカとサクラを追っていた。そして、サクラが何故あれだけ怯えていたのか、理由がわかった。
今、サクラはレンカのイフリートに抱きつかれていた。服や草むら等は、一切燃えずに、ただただサクラの身体を焼いていく。
皮膚は焼け血が滲む。
サクラが絶叫している横で、レンカは笑っていた。
恐らく初めてじゃないはず。俺がカードを使えない時に行われたのだろう。
サクラはイフリートから解放されると、自分の能力で傷を治していく。
傷は治せても痛みの記憶は消すことは出来ない。流した血も果たしてあの能力で戻っているのだろうか。
息も絶え絶えなサクラを他所に、レンカは眠りにつく。
一晩中、サクラは起きて見張りをしていた。
完全な上下関係。サクラの能力は攻撃用ではない。レンカにとっては、最も安全な下僕。寝込みすら襲われることはない。
失敗したら、全身を焼かれる痛みが待っているのだから。
サクラは、何故俺の誘いを断ったのだろうか。その理由は、いくら考えてもわからなかった。
◇◇◇
四日目の朝を迎える。いよいよ、折り返し。今日からは食糧は一回二人前。
シノブ達のグループは分裂するだろうと俺は予想していた。
朝の食糧投下。
落ちたのは、シノブ達の近くで、残念ながらシノブ達の方が一歩早かった。
シノブ達のグループは五人残っている。配られた食糧は二人前、案の定揉め始めた。
きっかけはマサカツであった。
食糧を奪い逃げ出した。
食糧を脇に抱えて一人連れて逃げ出す。その連れは、恋人と思っていたナゴではなく、モモだった。
「おいおい」
俺は千里眼でマサカツ達を追いながら呆れてしまっていた。幾ら何でもこんな時に心変わりするか、普通。
シノブとミツルは追いかけるのを諦めたようだが、元恋人のナゴは、そうはいかないようで、シノブとミツルの二人から離れて、マサカツを探しているようであった。




