第3章8話 Cランク昇級試験(上)
今回は上下話になっているため、2話連続投稿していますのでよろしくお願いします。
今日はCランクへの昇級試験のために、昼食代わりにブラブラと海沿いの屋台でアレコレとつまみ食いしながら、昼過ぎに間に合うように冒険者ギルドまでやって来ていた。
ギルド会館に入ると、いつもの猫人族の受付女性がやって来て一番端の受付カウンターに連れて行かれて、小さな声で昨日助けた女性冒険者二人の様子を教えてくれる。
「おはようございます。昨日救出いただいた女性冒険者二人なんですが、今朝日が昇って暫くしてからほぼ同時に目を覚まされました。体調に問題は無く、こちらが把握している状況説明をしたところで――つまり、パーティーメンバーの男性三人が亡くなられていることを知った彼女達が霊安室で確認されて、まあそうゆうことです。
現在のところはそっとしておくしかありませんが、皆様にはとても感謝しておられて会ってお礼を言いたいとのことでした。如何いたしますか?」
「そのうちギルドで会うこともあるでしょうから、わざわざには必要無いわ」
わずかに視線を逸らせて眉を寄せながらも自然な口調で、まるで何でも無いことのように答えるアリス。
でも、分かってるんだ。もう少し早く、ちょっとでも早く助けに行けていれば、あんなことにはならなかった筈なんだ。
結局、俺達は今回も間に合わなかったんだよ。だから、彼女達に何かを言われても返す言葉なんて持っていない。
そして、それを誰よりも一番よく分かっているユウナが、無表情のままで静かにみんなに小さく頷く。それでもいいんだと、繰り返し頷いて見せる。
その後は簡単な質問に答えてから、ネコ耳の受付嬢がギルド会館の中庭にある練習場に案内してくれた。そう言えば、昨日は具合が悪そうだったけど、今日はロシアンブルーの毛並みも艶々していてとっても元気そうだ。
「ようこそ、冒険者ギルドCランクへの昇級試験へ。本日は、皆様以外にも三人の方が受験に来られています。この方々は騎士団からの派遣で、某お貴族様の子弟になります。
実は当冒険者ギルドの副ギルマスは騎士団副団長が兼務していて、彼らはその部下で昇格条件はクリアしていませんが特別に推薦されての今回の試験となっています。
周囲に大小さまざまな地下迷宮が乱立しているここニースィアでは、騎士団と冒険者が共同戦線を張ることも多いので、平素からの意思の疎通と交流を目的に兼務体制を取っていて、その実力も一般騎士団員でも中級冒険者と同じCランク以上が要求されているのです」
若いイケメンなお貴族様の前だからか、ご機嫌でせっせと解説してくれてはいるんだろうが、如何せん俺達ときたら。
「ふあぁ~~ぁ。何か、今朝はちょっと寝すぎたかも」
「ハクロー、爺臭いわよ。でも、私もかもぉ~」
広い練習場の端の方でアリスと二人で大欠伸をしていると、ネコ耳の受付女性にギョッとした顔をされて――ちょっと呆れられてしまったかも。
流石に昨日はアリスも俺もみんなが大量の魔力を消費したので、数値が見えないMP回復をするためにも夜は早く寝たし、今朝は珍しく日が昇ってから起きたんだけど。
このニースィアでもあんなことがあって、結局はみんなあまり良く寝れなかったようだ。
おっと、見るからにお貴族様っぽい三人の騎士団員からも、すっごい顔で睨まれてるぞ。
まあ、普通なら待ちに待ったCランク昇級試験という所なんだろうに、ちょっと緊張感が無さ過ぎたかもしれない。なんかもう、既に帰りたくなってきたなぁ。
「そ、それでは、冒険者ギルドから今回の昇級試験ために試験官を依頼してある、こちらのBランクの上級冒険者の方と模擬戦をしていただいて、中級冒険者のCランクとして必要な実力があるか確認させていただきます。ああ、もちろん勝利する必要はありませんので。
じゃあ、早速ですがアイーダさんお願いしますね」
そう言ってネコ耳をピンとさせた受付嬢が声をかけたのは、小さなコロンの身長と同じぐらいはある刃引きの大剣を持ったままで腕組をしている、ウルフカットの黒髪の女性で――立派なケモ耳があるので獣人さんなんだろう――不敵な笑みを浮かべた、間違いなく凄い美人のお姉さんだ。
身長も俺ぐらいあるから180cm弱ぐらいだろうが、野生の猛獣のように引き締まった身体に、豊かな胸の膨らみとスラリと長い脚が特徴的な――所謂、大人の美女ってやつだ。
「紹介のあったアイーダだ、Bランク冒険者をやってる。見てのとおり、黒狼人族の大剣使いだな。で、誰から始める?」
鋭い犬歯を覗かせながら、ニヤッと笑顔で受験者達をぐるっと見回す。
「それでは、我々から」
そう言って、一歩前に出たのはお貴族様の一人で、背の高い金髪を短くしたイケメンくんだ。
ついさっきまで話をしていた、あの嫌らしい笑みを浮かべた男が副ギルマスなんだろう――どっから見ても貴族といった風情の冴えない中年男に向かって目礼すると、練習場の中央に出て片手剣と盾を騎士団らしく、ピシッと構える。
「よしよし、元気のいい坊やは好きだよ。ほら、どっからでもいいから、かかって来な」
ジャリン、と刃引きした大剣をだらんと地面に引き摺って構えを取る様子も無いアイーダが、左の手のひらを上に向けて人差し指をチョイチョイとさせながらニヤけている。
「このっ、舐めるな! 下賤な獣人風情が!」
平民にそんなことされたことが無いのか、激昂するあまり顔を真っ赤にしたお貴族様な騎士団員くんは、馬鹿正直に真正面から突進して行ってしまう。
案の定、初撃をあっさりとかわされると、以降もそのまま掠りもしないイケメンくんに、アイーダがため息をつくと闇雲に振り回していた口だけ騎士団員の片手剣ごと、ズドンッと地面に叩きつけるように刃引きの大剣の一振りで斬り伏せてしてしまっていた。
地面に半分埋まるようにしてのびている、仲間の惨状を唖然とした表情で見ていた残り二人のお貴族様。
「き、貴様ぁ、この平民がよくも!」
「この不届き物がっ、卑しい獣の分際で!」
何故か二人で一緒に突進していくが、あっという間に次々と一刀のもとに斬り伏せられてしまう。
あの馬鹿二人はこれが昇級試験ってこと、忘れてないか?
結局、アイーダは最初に立っていた位置から一歩も動かずに、お貴族様の騎士団員三人を秒殺してしまったことになる。
あちゃ~、と隣にいるアリスに視線を向けないまま、ボソッと小さな声でつぶやいてみる。
「おい、アリス。化け物じゃね、あれ?」
「まあねぇ~、あんたの師匠ほどじゃないけど」
「おいおい。可憐な乙女に何てこと言いやがるんだい、坊や。ほら、後がつかえてるんだから、サッサと来な」
ついつい本音を漏らしてしまうと、流石は黒狼人族の聴覚なのか聞き逃すことなく、凄い目で睨まれた上に次の獲物にご指名されてしまう。
「うっわ~、俺かよぉ」
「あら、だったら私が行こうか?」
そう肩を竦めたアリスにニヤッと苦笑されてしまうと、そうそうヘタレてばかりもいられないので、手をヒラヒラと振りながら前に出ていく。
「へいへい、行きますよ。行きゃあいいんでしょ」
スタスタと歩いてニヤニヤしているアイーダの前まで行くと、ペコリと頭を下げて名乗りをあげる。
「【ミスリル☆ハーツ】斬込隊長のハクローだ。よろしく頼む」
「ほお……礼のひとつぐらいはできるのか。よし、相手になってやる。来い」
それまでとは違い、大剣を持つ右手を後ろに隠すように下げて構えると、若干腰を低くして斜めにした身体の前に左手をゆっくりと差し出して来た。
「では……っ!」
『マルチタスク』で並列起動していた【HANABI(爆裂)】を挨拶代わりに、十発ばかり重低音の爆破音と共に爆撃させると、吹き荒れる爆風の中に【チューブ(転移)】で転移して、砂埃 で視界がゼロの中で【ソナー(探査)】を切って相手の気配だけをめがけて、【抜刀術】からの一閃を横に直刀【カタナ】で振り抜く。
すると、バッキィン、という重金属同士がぶつかる衝撃音がして、砂埃が一瞬で払われると、無傷のまま大剣で直刀【カタナ】を受けきったアイーダが姿を現す。
「ふん……いいな。坊や、名はハクローと言ったな。合格だ」
そう、ニヤッと犬歯を見せると、最初の立ち位置に戻っていた俺に向かって楽しそうに笑って言い放つ。
見ると、アイーダが立っていた位置からわずかに足の位置がズレていたのだった。
「「「「「おおー!」」」」」
嬉しそうにパチパチと手を叩くルリとコロンにフィそしてユウナの所へ、ペコリと頭を下げてから戻る。
「じゃあ次は私が」
そう言って、手を上げたのは『車椅子』に座った無表情のユウナだった。
「よし、がんばれ」
そう励ますと、ゆっくりとユウナの『車椅子』を押して練習場の真ん中まで行く。
「【ミスリル☆ハーツ】の狙撃手、ユウナ。よろしく」
ペコリと『車椅子』に座ったままで頭を下げるユウナに、アイーダがその金色の瞳を細める。
「ふん……では今度はこっちから」
そう言い終わらないうちから、見えない抜き撃ちでレーザーサイトを外した魔法自動拳銃P226の銃口が、耳をつんざく爆裂音と白い閃光と共に文字通り炎を噴く。
後には白煙の中で、チンッ、チンッ、……という、最初から薬室に入っていた1発を含めて最大装填数16発の焼けた空薬莢が、地面に落ちる音だけが聞こえてくる。
ゆっくりと視界を覆っていた煙が晴れると、そこには刃引きの大剣をボロボロにして、ユウナまで数mの距離で止まっているアイーダの姿があった。その周囲には直進することができずに、左右に銃弾を避けようと踏み込んだとみられる足跡が残されていた。
もちろんユウナは予備弾倉に入れ替えて、アイーダの額のど真ん中に照準をピタリと合わせたまま銃口を向けている。
「ふむ、全弾この大剣に命中――いや、狙い撃ちされるとは思わなかった。ユウナと言ったな、お嬢ちゃんも合格だ」
そう言って、あと何発か命中されると確実に破壊されるであろう、ボロボロに変形してしまった刃引きの大剣をネコ耳の受付嬢に言って交換させている。
まだ体調が十分ではないはずのユウナは、それでもBランク冒険者のアイーダの【神速】スキルによる突進と回避を全て狙い撃ちして全弾命中させ、アイーダはその全てをあの白煙に遮られた視界の中で刃引きの大剣を持って打ち払ってしまったということなのだろう。
いずれも化け物と言う他無い。
「「「「「おおー!」」」」」
また、大歓声と共にルリとコロンにフィと俺の拍手が鳴り響く。それはそうだ、ユウナはほんの一週間前までは基礎レベルがLv1で、【射撃】スキルに至っては意味不明のLv0だったんだから。
「はいは~い、次は私が行きます~」
そう言って、元気に手を上げたのはルリだった。えへへ~、と笑いながら、見えない白く長いウサ耳をピョコピョコさせながら、トテトテと練習所の真ん中まで行って、新しい刃引きの大剣と交換したアイーダの前に立つ。
「【ミスリル☆ハーツ】の精霊使いルリです。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げるルリに、わずかに金色の瞳を細めて微笑むアイーダは大上段に刃引きの大剣を構える。
「ほお……それでは見せてもらおうか」
「精霊さん達っ、お願いします!」
というルリの掛け声と共に、その周辺には空から降り注ぐ聖光、眩しいばかりの閃光、舞い散る花々と葉、澄み切った霧雨、渦巻く砂嵐、唸りを上げる轟炎が巻き起こる。
そして、その中からどこまでも透明な少女の姿をした高位六精霊がルリを守護するがごとく顕現する。
そしてルリはそれだけに止まらず、多重結界を展開すると自身に大量のバフをかけ始める。
「ぐっ……これは……流石に初めて見るが……いや、よい機会だ。行かせてもらおう、いざ尋常に勝負!」
その瞬間、フッとアイーダの姿が消えたかと思うと、今までで一番大きな斬撃音と地響きが辺り一面に響き渡る。
そして、ルリの直上の空中で多重結界の魔法陣に阻まれた、アイーダの持つ刃引きの大剣が斬りつけた空間から閃光、火花、水飛沫、火の粉を撒き散らしていく。
「がぁああああ――――っ!」
鋭い犬歯を剥き出しにして咆哮を上げるアイーダに、それでもルリの守護結界を打ち破ることはできないようだった。
フッとアイーダの姿が消えたかと思うと元いた場所には、途中から半分に折れてしまった刃引きの大剣を持ったアイーダが、トントンと残った半剣で肩を叩いていた。
「ふぅ~、いかんいかん。つい本気になってしまった。ルリ殿と言ったな、見事だ。ああ、忘れていた、もちろん合格だな」
「「「「「おおー!」」」」」
またまた、嬉しそうなコロンとフィにユウナと俺の拍手が練習場に反響する。
そして、えへへ~と白い長髪の頭をかきながらトコトコとルリが帰って来ると、パン、パン、パン……とハイタッチが交わされるのだった。
「次はコロンが行くのでしゅ!」
「フィも行くよ!」
少し緊張気味にトットットッと早足で練習場の真ん中まで向かう小さなコロンと、その頭上をヒラヒラと舞うように付き従う妖精のフィ。
もちろん、タマゴは俺が預かってお腹に抱えている。
「【ミスリル☆ハーツ】戦う料理人、コロンでしゅ。よろちくお願いしましゅ」
「我が友コロンの使い魔、妖精のリリス=フィよ。小娘、かかってきなさい」
カミカミながらもペコリと頭を下げて、召喚した【魔法のおたま】と【魔法のフライパン】を空中で掴み取り、堂々と【二刀流】に構えるコロン。
そしてこれまで【暴食】で溜め込んできた魔力を惜しむことなく、背中の七色に輝く四枚の透き通った羽から放出する妖精のリリス=フィ。
その光景に、黒狼人族の野生の勘で得体の知れないものを感じとったらしいアイーダは、新たに交換した三本目となる刃引きの大剣をつられるように正眼に構えてしまう。
「行きましゅ!」
「スキル合成!」
シタッと【加速】からアイーダとの間合いを、コロンが一瞬にてゼロ距離にする。妖精のリリス=フィは【魅了】と【睡眠】に【淫夢】そして最近習得したばかりの【幻影】を全てスキル合成して、アイーダの五感だけでなく第六感までもを混乱の渦に落とし込む。
「うっ……しかし、それだけでは……いや、これは……」
嫌な予感の通り、絡め手で来られて一瞬だけ眉をひそめるも、すぐさまコロンの【二刀流】から繰り出される鋭い斬撃とも言うべき、強烈な打撃に刃引きの大剣を合わせるアイーダ。
そう、わずかにズレた五感と明後日の方向を指し示す第六感に、流石のアイーダも白銀の残像を避け切ることができずに不本意ながらもパリングさせらていたのだ。
しかし、一撃、二撃、……十撃、……二十撃、……五十撃、……百撃と続けるうちに、段々と五感のズレが大きくなり、第六感も全く当てにならなくなってきて、ついには休み無く【加速】し続ける【二刀流】に段々と刃引きの大剣が削られていることに気がついたアイーダは、金色の目を大きく見開くことになる。
「面白い! どこまでついて来れるかなっ」
「やあっ、たぁ、とぉ、ほっ、てやっ、よっ、うちゃ、ちょっ、ていっ」
可愛い掛け声とは裏腹に火花を散らしながら、なおも更に【加速】し続けるコロンの【二刀流】と、そして未だ輝く虹色の魔力を大量に放出し続ける妖精リリス=フィに、アイーダは少しづつだが互角な剣戟をさせられ始めてしまう。
「がんばれ、コロン!」
「コロンちゃん、頑張って!」
「そうよ、頑張ってコロン!」
「いけ、コロン! やっちまえ!」
仲間達からの声援が飛ぶが、しかし、いつかのように小さなコロンの金色の瞳に涙を浮かべることは、もう無い。
今までに無い最強の使い手を前に、尋常では無い驚異的な速度で経験値を稼ぎ、今この時もリアルタイムでスキルアップをし続けるコロンとフィが、アイーダを正面からの剣戟での討ち合いにおいて、ついに後ろに半歩下がらせる。
その瞬間、ズバンッとバックステップで元いた位置まで戻ったコロンと、スッと上空からその肩に降り立つ妖精のリリス=フィ。
「うん、筋は良い。これからも精進を怠らないことだ。妖精のリリス=フィ殿も、良い契約者に巡り合えたようだ。そうだな――勿論、合格だ」
「「「「おおー!」」」」
「わーん!」
ぴょーん、と泣きながら俺の胸に飛び込んで来る小さなコロンを、ルリがそのまま抱きしめると、『車椅子』のユウナが背中を撫でる。そして、俺の肩に座ったフィがコロンの白銀の頭をゆっくりと撫でてやる。
「よくやった。偉いぞ、コロン」
「うえ~ん、ハク様ぁ~」
そんなコロンの肩をよしよしと叩いてから、アリスが紅と蒼のオッドアイを練習場の真ん中に立つアイーダに向ける。
「それじゃ、最後に一発デカいの決めて来るから待ってなさい」
そう言って、スタスタとアイーダの方に向かって歩き出す――が、ここまで黙って見ていたお貴族様な副ギルドマスターが突然、その口を開く。
「アイーダ、手を抜いているのでは無いか?」




