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ミスリルハーツ ~サーファー、異世界へ~  作者: 珠乃 響(ゆら)
第2章 異世界旅行編
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第2章18話 国境の街へ


 いつもの通りに夜明け前から剣術の朝練――という訳で、昨日と同様に寺小屋の老剣士が指導してくれているのだが。


「ふぉふぉふぉ、そんなことでは何も守れないぞい。

 ちっとはこの()()()()()を見習ってみんかのぅ、ふぉふぉふぉ」


 やたらと満面の笑みで両手に木剣を持って、スキップするような(かろ)やかなステップを()むように、しかし決して軽くはない剣戟(けんげき)(なさ)容赦(ようしゃ)無く打ち込んで来るので。


「痛い、痛い、痛い、すっごく痛い、痛い~」


 半泣きになりながら、(なん)とか【身体強化】を最大にして素手の拳で打ち返す。その横で歩行訓練をしているルリが困ったように苦笑しながら、ご機嫌な老剣士に(たず)ねる。


「お爺ちゃん、どうしたんですか? 何かいいことでもありましたか?」


「ふぉふぉふぉ。え? 聞きたいかのぅ。綺麗なお嬢さんに聞かれては、そりゃあ答えない訳にはいかんのう~。いや、しょうがないのう~」


 うっざ~。どうしちまったんだ、これは。


「じ・つ・わ・あ~。いやん、恥ずかぴぃ~」


「くおらっ! (じじ)ぃ、ぶった()るぞ」


 木剣を持った両手で(シワ)だれけの(ほお)を押さえて、いやんいやんと始める先代【剣聖】に、思わず直刀【カタナ】を取り出して斬りかかりそうになってしまう。


「先生、おはようございます」

「今日も指導お願いします」

「はやくはじめようぜ、先生」

「先生、きょうも木剣でいいの?」


「あ、お爺ちゃん、おはよう……」


 夜明けと共に明るくなり始めて、早起きの寺小屋の子供達がぞろぞろとやって来た。


 だが、いつもと同じはずの台詞(セリフ)で、しかし何か聞きなれないニュアンスが混ざっていたような気がするのは気のせいではないらしい。


「おお! アンリエッタ、おはようじゃ。みんなもおはよう。

 うんうん、アンリエッタは可愛いのお~。いい子じゃ、いい子じゃ」


「あ~、分かった気がする。もしかしなくても、(じい)さん、孫娘(まごむすめ)さんに話したんだな?」


 半眼になって(あき)れるように聞くと、全身で喜びを表現するように先代の王国最強の老剣士は、アンリエッタを抱き上げると(ほほ)にスリスリと(ほお)ずりを始めてしまう。


「わしの孫娘のアンリエッタと、お爺ちゃんはとっても仲良しじゃ~」


「えへへ、お爺ちゃん。お髭がいたい~」


「おい、先生。アンリが嫌がってんだから、やめろよな」

「先生、ちょっとキモイよ~」

「いいかげんにしないと、アンリにきらわれるよ」

「もう、先生ったらしょうがないなぁ」


 孫娘にも寺小屋の子供達にも(あき)れられてしまっている、先代【剣聖】のお爺ちゃんだった。


「お孫さんがおられたのですね」


「はい姫様。実は生き別れた孫娘殿を、密かに助けておられたようです。そこには聞くも涙、語るも涙の物語が……よよよ」


 いつの間にか経緯の概要を知っているクラリスが、ハンカチを片手にミラに説明を始める。


「これじゃ、ただの孫可愛がりのお爺ちゃんだね~」


「これが(ジジ)馬鹿(バカ)という生き物ですか」


 ちょっとビックリといった様子でルリとユウナが二人して、コソコソと小声で話している。


 昨日の夜から、(なん)だか二人はとても仲がいいようで、実は【解析】で視たユウナのステータス情報に【ルリの友達】が既に発現していた。

 もちろん、すぐにパーティー登録は済ませてあるので、歩くこともままならないユウナも俺達に合わせてレベルアップが可能となったのは朗報(ろうほう)だ。


 しかも、ルリの【友達】スキルもLv4にレベルアップしており、とてもではないが加速度的に物凄(ものずご)いチート性能を発揮し始めていた。


 <守護【ルリの友達】>;経験値取得1.4倍化。スキル取得に必要な経験値1/1.4倍化。倍率は友達であるルリの【友達】スキルレベルによる。パーティー全体で獲得した経験値をメンバー全員で分割せずに各人で全て取得できる。


 まあ、お爺ちゃんが孫娘のアンリエッタと、ちゃんと話ができたのは(なん)にしてもよかった。この世には、世界を(また)いでしまって、会いたくても会えない家族だっているんだから。


 ふと、少し心配になってルリとアリスの様子を(うかが)うのだが、二人共に孫娘を抱き上げるフニャフニャな顔のお爺ちゃんを、ニコニコと笑顔で見つめている。

 だから、ルリとアリスの頭をなでなでと()でていると、ルリは「えへへ~」と微笑みを向けて来て、アリスは「ふんっ」とソッポを向いてしまう――が、手を振り払われることはなかった。


 そしたら、コロンが白銀の狐耳をピンとさせて頭をグリグリと寄せて来るので、続けてコロンとついでにフィの頭もなでなでと撫でることになった。


 気がつくと後から起きてきたらしいミラが指を(くわ)えてこっちを(うらや)ましそうに見ていたので、実家を出てきたばかりなのを思い出してしまったんだろうと思い、しょうがないのでジィッとこちらを見据(みす)えるユウナに続けてなでなでと()でてみるのだった。

 でも、王国第一王女の頭なんか()でてもいいんだろうか。




◆◇◆◇◆◇◆◇




 今日になって予想通りに河の水位も下がってきて、ようやく渡し舟が出るというので、ジュネヴァン連邦国との国境の街に向けて出発することにする。


「じゃあ、みんなも元気でね」


 馬車から顔を出したアリスに、寺小屋の子供達がブンブンと手を振っている。


「お姉ちゃん達も気をつけてね」

「また会おうね~」

「いろいろ、ありがとね」

「また来てね~」

「ほら、お爺ちゃんもご挨拶をして」


「ふぉふぉふぉ、お爺ちゃんは我が剣を教えたからのぉ。もう語ることも無いんじゃな、これが」


「「「「「「「ばいば~い」」」」」」」


 ルリ達も手を振って別れると渡し舟に馬車を乗せる――のだが、ここでふと思い出してみると、【波乗り(重力)】をかけて浮かせると河の水面も渡れたりするんじゃないだろうか、などと考えてしまった。

 いや、そもそも空中に浮かせるのなら、もっと高度を取って、飛行機のように直進できたりするのではないだろうか。


 そう思って渡し舟で河を渡ってから街道を少し離れると、馬車を【波乗り(重力)】で高度100mぐらいまで浮かせてみる――あ、できた。


「ぎゃあ~!」


 高い所が苦手なのか、ぽんこつフランだけが騒ぎ出したが、他は目をキラキラさせて嬉しそうにしていて(いた)って普通だった。


「ハクロー、これは便利よねぇ」

「ハクローくん、飛んでますよ~」

「ハク様、(すご)いです」

「そういえばフィと同じで、ハクローも飛べるのよねぇ」

「クロセ様、こ、これは人に知られると、ちょっと」

「はい姫様、これは軍事バランスだけでなく、輸送事業についても革命を起こしてしまいます」

「クロセくん、これは……随分(ずいぶん)と高いのねぇ」


「は、ハクローさん、早く降ろしてください~。高いの怖いです~。おお、女神様お助け下さい~」


 ただ、魔力消費が間違いなくデカいのと、街道から丸見えだと無駄に目立ってしまって余計な連中を呼び寄せそうなので、必要がない限りは今まで通りに街道を進むことになった。


 まあ、いざとなれば空を飛んで逃げられるというのは、大きなアドバンテージになるだろうから、取りあえずは良かったな。




◆◇◆◇◆◇◆◇




 国境の街までは半日ほどで到着するぐらい近い距離だったようで、昼下がりの時間には立派な城壁の前に到着していた。


 王国の国境を守るとあってか、王都ほどではないものの、街全体が高い城壁に守られた所謂(いわゆる)見るからに要塞堅固(ようさいけんご)といった風情(ふぜい)だ。ただ、王都と違って訪れる者が多くないのか、城壁門に列は無く、衛兵と思われる騎士団員に手招(てまね)きされるほどだった。


「ジュネヴァン連邦国へか?」


 馬車を見上げて御者席に座るドレスを着たテディベアのぬいぐるみのビーチェに一瞬ギョッとしたものの、切り替えるのは早かったようで愛想の無い問いを投げかけて来る。


「控えなさい、見苦(みぐる)しい。姫様――ミラレイア王女殿下の御前(ごぜん)ですよ」


 メガネの奥の目を極限まで細めて極寒のオーラと氷点下の魔力を背負って、背筋をピンと伸ばしたクラリスが馬車の扉を半分開けて顔を出す。


「え? 姫……さま?」


 突然のことでキョドッてしまった衛兵さんは、チラッと開けられた扉の隙間から馬車の中を(うかが)うと、ミラレイア第一王女の姿を見つけて。


「も、申し訳ありませんっ、少々お待ちください!」


 右手を左胸の鎧に、ゴツンとぶつけて敬礼して、そう叫ぶなりガシャガシャと重い金属鎧を着込んでいるとは思えない、すごいスピードで城門横の小さな扉に向かって走り去ってしまった。


 しばらくすると、大きな城門から騎馬隊が出て来て、クラリスと何やらお忍びがどうとかやり取りをしてから、前後を護衛されながら城門の中に入ることになった。


「凄いですねぇ、流石(さすが)はお姫様です」


「ミラって、本当にお姫様だったのねぇ」


 ミラレイア第一王女姫殿下のご威光(いこう)に素直に驚くルリとアリスに、本人は顔を真っ赤にしてしまう。


「や、やめて下さい。私は何もしていませんし、さっきも心臓が飛び出るほどドキドキしていたのですから」


 そう言って、ミラは両手のひらで顔を隠して(うつむ)いて背を丸めて小さくなってしまった。


「確かに衛兵さんが中を(のぞ)いたときに、背筋を伸ばして優雅に微笑んでいたけど、綺麗な白い(ほほ)がピクピクと痙攣(けいれん)していたからなぁ。あれが限界だったんだな」


「や、やめてください、クロセ様。思い出しただけでも、(けむり)が出てきそうです~」


 顔を(おお)ったままでフルフルと振るミラに、クスッと苦笑してから、優しくストロベリーブロンドの長髪を()でてやる。


「大丈夫、ちゃんとやれていたよ。立派な俺達の自慢のお姫様だ。自信を持っていいぞ」


 するとようやく安心したのか、顔を隠した指の間から涙目となっている切れ長の翠瞳を(のぞ)かせる。


「本当ですか? ちゃんと、王女らしくやれていましたか? みっともなく無かったですか?」


 泣きそうな、震える声で小さな子供のようにつぶやいて来るので、しっかりと頷きながら答えることにする。


「ああ、大丈夫だ。ちゃんと王国のお姫様として、威厳(いげん)のある振舞(ふるま)いだったぞ。よくやったな」


「え……えへへ~。クロセ様、ありがとうございます。ちょとだけ、元気がでてきました」


 丸まっていた背をシャンと元に、両手を膝に戻しながら、涙の()まった翠瞳を細めてうれしそうに微笑むミラ。

 今回の旅行工程にはジュネヴァン連邦国へ入国する予定は無かったので、特に出入国管理の厳しいこの国境を超えるためにはミラレイア第一王女が前面に出るしかなかったのだ。


 でも、元々引き()もりのミラにとっては、公式の場でお姫様として振舞うことに、重度の忌避感(きひかん)と相当な不安があったのだろう。

 しかし、自らユウナのために矢面(やおもて)に立つことを引き受けてくれていた。


「姫様、ありがとう」


 言葉少なに感謝を(くち)にしているが、いつもの美しい無表情なユウナにもジュネヴァン連邦国を前にして、わずかに緊張が浮かんでいるのが分かってしまったのだろう――ミラは、少し震える唇で優しく微笑んで見せる。


「えへへ、大丈夫です。平気ですよ。クロセ様がちゃんとやれていると言ってくれていますから、大丈夫です。(まか)せてくださいね」


「はい、姫様。ご立派ですよ。及第点(きゅうだいてん)には程遠(ほどとお)いですが、お一人(ひとり)で初めてにしては上出来(じょうでき)です」


 馬車の扉の(そば)に座るクラリスから、厳しさと優しさを混在させたような言葉が聞こえてくるが、そのメガネの奥の瞳には(うれ)しさだけが(あふ)れているのだった。

 さっきも本人が言ったように、()しくもミラレイア第一王女として初の(おおやけ)の場へのお披露目(ひろめ)に、これまで長年付き従って来たクラリスが嬉しくない(はず)がなかった。


 これから国境の街を治める貴族の領主館に向かって、代官との面会にはミラとクラリスは当然ながら【賢者】で【聖女】のアリスと神聖教会の修道女であるシスター・フランが立ち会うことになっている。


 残りのルリにコロン、フィとユウナの俺達は、(ひま)を持て(あま)してもどうかと思うので、国境の街に出て呑気(のんき)に観光と洒落込(しゃれこ)むつもりだったりする。

 というのは建前(たてまえ)で、ジュネヴァン連邦国に近づくにつれて緊張を隠せなくなってきているユウナ――ちっとも表情に出ないので、(すご)く分かり(にく)いのだが――の、気分転換が最大の理由だったのだ。


 


◆◇◆◇◆◇◆◇




 という訳で、領主である代官との面会組――最後までミラは涙目で「う~、うう~」と(うな)って、こちらを(うらや)ましそうに(にら)んでいたが――を残して、結構豪勢(ごうせい)な領主館を出て国境の街並みの散策に出かけたのはいいのだが。


「うわ~、綺麗な街ですねぇ。ほら、ハクローくん。小さな白い家の窓という窓には、必ずお花が飾ってありますよ」


「ハク様、おっきなチーズがあります。おいしそうでしゅ~」


「フィも食べたい~」


「……」


 確かに、街並みは白壁の小さな二階建ての家が多く()ち並び、通り沿()いの窓にはプランターに入れられた色とりどりの綺麗な花が咲き乱れている。

 そして通りに面した商店街の店先には、両手で抱えるほどの大きさのチーズが並べられており、昔テレビで見たアルプスの街並みに近いものがあった。後ろには高い山脈も見えるしね。


 しかし、肝心(かんじん)のユウナが硬い表情を(くず)すことは無く。少し困ったなぁと頭を抱えて、チーズを使った何かおいしい料理でも食べれば気分も変わるかな、とかブツブツ考え事をしながら歩いていると。


「ちょっと、あなた達! お兄様を返しなさい!」


 物凄(ものすご)くデジャビュを(さそ)う叫び声と共に、後ろからドレスを着た金髪の少女に声をかけられていた。


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